少年と図書館
いつかどこかの世界線《埃だらけの部屋》
━━━ここは世界から隔絶された場所。
埃に塗れた家具が散乱するこの部屋の中で×××はひとりきりで立ち尽くし、哀しげに微笑んで言葉をこぼした。
「まだ、君は来たらダメだからね。」
◾️ ◾️ ◾️
ある夏の日...
ぺらり、ぺらり...
静かな空間にページを繰る音が響く。
ここは国で最も大きな図書館で、毎日そこそこの人数がここを訪れる。
大きさもそうだが、もう1つこの図書館に人が集まる理由がある。
それは、時間を指定すれば貸してもらえる個室の読書スペースがあることだ。
各部屋に防犯目的で監視用ドールが付いているが、怪しい事さえしなければドールが襲いかかってくる事はない。
読書スペースとは言っても、読書をしなければならないスペース、という訳でもないので勉強に集中したい学生にも人気だ。
...当たり前だが、読書をする人の方が優先される。
ぺらり、ぺらり...
静かな空間にページを繰る音が響く。
少年はいつも考え事をしながら本を読む。
内容が頭に入っているのか?
と、よく言われるが、
ちゃんと内容入っているし、考え事もしやすいから良いじゃん。
と、いつも言っている。
ぺらり...
静かな空間にページの繰る音が響く。
ページをめくる準備をしようと左の人差し指を滑らせると、次のページがないことに気づく。
そして、そのページが最後のページであることに気づく。
ちらりと時計が示す現在時刻を確認する。
どうやら1時間程経っていたらしい。
時計の針は一目盛分進んでいた。
そうしてもう時間が来ることを理解する。
ぱたん、と本を閉じて勢いよく部屋を出る。
そのままカウンターに詰め寄り、
「本返します!それじゃ!」
と言い残して、帰っていく。
ちゃんと本を返したつもりだったが、
「あの子、本置いてってないわね...」
「まぁ、期限までしばらくあるからいいけど」
くすっ、と笑って司書が呟く。
━━━その頃少年は。
「精霊に会いたいなー」
本を返し忘れた事に気付かず、のんびり町を歩いていた。
(どうすれば会えるんだろうなー)
少年は、精霊と呼ばれる存在に会いたがった。
周りの人達は彼を気味悪がった。
始めは理解を得ようとしたが、今は「それでもいいや」と諦めている。
さて、どうすれば精霊に会えるか、もとい精霊と意思疎通を図れるかだが、
「わかんないなぁ...」
考えてみてはいるが、そう簡単に良いアイデアは思いつく訳もない。
精霊は足が速い。
精霊に足なんてあるのか、と聞かれれば答えられないのだが。
まあ、とにかく足が速い。
見つければすぐに逃げてしまうのだ。
...というか消えてしまう。
なので、意思疎通の前提として精霊に追いつく必要がある。
...という風に少年は考えている。
そして少年は、足が遅い方である。
「うーん...」
毎日のように図書館へ足を運び、精霊に関する書籍を読み漁っているが、良い情報が見つからない。
...それこそ、まるで意識して避けているかのように。