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短編集 冬花火

救う手と見捨てる心の持ち主は

作者: 春風 月葉

 ピーポーピーポー、慌しい音をたてる救急車の中、外の騒音とは対照的に私達救急救命士は次の現場へ着くのを静かに待っていた。

 キィーッとタイヤの擦れる音がして、救急車のエンジンが止まった。

 予定では次の現場まであと十分程かかるはずだったので、焦って外へと飛び出す。

 そこには一人の少年が倒れていた。

 事前に聞いていた救助対象とは年齢も性別も違う。

 慌てた思考を一度リセットすると周りも道路で、予定の住宅地とは全く違う。

「おい、どう言うことだ。」と私は運転していた同僚に話しかけた。

 彼が言うには、サイレンを鳴らしていたからどこか安心していて、青信号を渡ろうとしていた少年に気がつけず轢いてしまったらしい。

「何をしているんだお前は。」と食いかかろうとして、今はそんな場合ではないと冷静になった。

「どうするんだ、この出血量では元の救助対象の所まで行ってからじゃ、この子が間に合わないぞ…」突然訪れた人の命の懸けられた選択を、私は無責任にも同僚に押し付けた。

「元はと言えば、俺が注意不足だったのが原因だ。俺は助けてやりたい。」運転手は言った。

「だがこれは仕事だぞ。助けるべき人を疎かにはできんだろう。」もう一人の乗組員が言った。

 この子を乗せて応急処置を施しながら、目的地まで行くという意見も出たが積荷もベッドも一人分しかないのでそれはできなかった。

 結局、目の前の少年を助けることにして、元の救助対象である女性は別の隊に応援を頼み、私はなんとかして少年を助けた。

 その後、私達には罰が下されたが、同僚は少年を助けられて良かったと言った。

 それはそうだ。

 あと少しで、私達は人を救うはずが、人殺しになるところだったのだから。

 しかし、私は女性の方が気がかりで仕方なかった。

 だがそれはすぐに解消された。

 女性の救助に向かった隊の友人から、誤報だったと伝えられたのだ。

 私はそっと胸を撫でおろし、深く安堵の息を吐き洩らした。

「本当にあれで正解だったの?」という声がどこからか聞こえたような気がしたが、私は気のせいだと思い、それをなかったことにした。

「お前の心は人殺しだと。」風が背中で囁いていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短い中に、ドラマがぎゅっと凝縮されていました。結果として少年の命を見捨ててしまうことにはならなかったものの、自分の心に嘘は吐けない。そんな気がしました。 [一言] お世話になっております…
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