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問題点はどこか

活動報告にも書きましたが、今回は連載といっても三話完結で、予約投稿済みです。

 

「ヨメイア、久しぶりのお酒でうれしいのは分かるけど、飲み過ぎはいけないよ」


勇者の姿をした妖精ガンコナーのサガンが、妻であるヨメイアの手から酒を取り上げ、果汁のものと換える。


魔力の少ないヨメイアは酒に酔いやすい体質なのだ。


「えーー」


どうみても妻の身体を気遣っている夫であり、仲睦まじい夫婦の姿だ。


残念そうにしているが、あのヨメイアがそれ以上文句も言わずにちびちびと果汁をすすっている。


タミリアは、よほどガンコナーが怖いんだろうなと思った。




「タミちゃん、久しぶり」


にこり、と女性なら誰でも見惚れそうな笑顔のサガンに、タミリアも微笑み返す。


そしてサガンは、女性陣の会話に混ざる訳でもなく、次の客へと挨拶に行ってしまう。きちんとわきまえた引き際だった。


「うらやましいです」


小さな声でシャルネが溜め息をこぼす。目の前の友人達は夫にも、子供にも恵まれ、幸せそうだ。


タミリアとヨメイアは顔を見合わせた。シャルネを子供達から引きはがし、部屋の隅の椅子へと連れて行く。


「シャーちゃん。何かあったの?」


周りを警戒しながら、ヨメイアは心配そうにシャルネに声をかける。


「うんうん。今までどんなに煽ってもそんな弱気見せなかったわよ?」


タミリアも一緒になって、シャルネの顔を覗き込む。




 シャルネは、二人の友人の間から広間の中心に集められた子供達を見る。


今日は、双子の誕生会ではあるが、近所に住む白い魔術師ハクレイの息子のフウレンや、ヨメイアの息子のヨデヴァスもいる。


他にも来客が連れて来た子供もいて、丸く囲まれた柔らかい柵の中で、面倒を見る担当の使用人と一緒に遊んでいる。


「子供達がかわい過ぎてー、もうこうなったら相手は誰でもいいかなあって」


タミリアは危険な考えに陥りかけているシャルネに慌てる。


「ちょっとー、それはまずいわよ」


ヨメイアが、ふむと考え込む。


「とりあえず、どんな男性ならいいのかってことよね」


付き合いが長い彼女には、シャルネが子供を言い訳にしていることがばればれだった。要するに、年頃なのである。




 シャルネは地方領主といっても、国王の愛娘である。


目の中に入れても痛くないほど可愛がっている国王は、恋愛を推奨し、婚儀をまつりごとに利用する気はない。


そう言われても、王宮で肩身の狭い思いをして来たシャルネにすれば、相手の事で国に迷惑をかけるのは嫌だった。


「国王が許すほどの実力と地位かー」「まずは相手が、相当な覚悟がいるわね」


既婚のふたりが考え込むと、シャルネはぽつりと呟く。


「私としては、優しい人なら誰でもいいです。立場上、人前ではいちゃいちゃも出来ないし。でも、二人だけの時はやさしくして欲しいので」


真っ当な独身の女性の望み。しかし、これが領主で、国王の娘で、しかも幼い頃から周りに気を使う賢い娘となると難しい。


「シャーちゃんって、意外と面食いだしね〜」


日頃から周りはダークエルフとエルフの護衛がついている。それに対抗出来る相手となると、また難しい。




「ちょっと待って」


タミリアがふいに顔を上げ、部屋の隅にいる、夫である黒いエルフを見る。


『国王も一目置いている』たぶん、反対はされない相手。


『容姿は好みの問題としても、資産や地位も十分にある』国民も納得する相手。


『普段は冷静沈着でも、実は子供好きで、好きな女性には甘い』きっとシャルネを大切にしてくれるだろう。


「そんなの、身近にいるじゃない」


と、タミリアはギードならそう言うだろうと気がついた。





「シャーちゃんは、妖精族が相手では困るの?」


シャルネの相手に思い当たったタミリアは、何か問題があるのか、それが分からない。


「え?」


ここにいる女性は二人とも夫は妖精族だ。


 この「始まりの町」は、王国の辺境にあり、エルフの森に一番近い。そのため、町には人族と同じように、多くのエルフ族が暮らしている。


その上、シャルネが領主になったために、ダークエルフの傭兵達も多くこの町に出入りしている。


そのため、王国内でも異種族を多く見かける町として有名で、観光地にもなっている。


「んー、嫌というわけではー」


目を逸らしたシャルネの視線の先は、国王も逆らえないとされる男性がいた。


その隣にいた黒い髪のエルフに気づかれ、手を振られたが。


 


「兄上がふたりともお相手はエルフですし……」


シャルネには兄が二人いる。


結婚を間近に控えた長兄の婚約者も、今は他国で大使をしている次兄も、相手はエルフ族だ。


「私ひとりぐらいは、無難に同じ人族の男性がいいのかなあと」


そんな事を言うシャルネに、既婚女性二人が呆れた顔になる。


「こう言っちゃなんだけど、あの国王陛下も王子殿下も好き勝手やってるだけでしょ」


タミリアの言葉にヨメイアも同意する。


「シャーちゃんが遠慮する必要ないと思うけど」


「そ、そうでしょうか」


少し赤い顔をしてうつむいた。




「ほんっとにかわいいわね、シャーちゃん。そこまで自分を押し殺すことないのに」


ヨメイアが、その豊満な胸にシャルネを抱き締める。


「あー、いえ。特にまだ何も考えてるわけではー」


シャルネがじたばたとしながら、その腕から逃れようとしていると、


「もう、そういうところが固いっ」


タミリアが反対側からやんわりと抱き締めて来る。


もう動けないので諦めるしかない。


「だってー、どうしたらいいのか、わからないんですものー」


シャルネは半分涙目になった。




「わ、私だって、いいなぁって思う相手ぐらいいます」


盛大な結婚式も、綺麗なドレスもいらない。ただ、傍にいてくれたら。


少し前にギードによって暴露されたイヴォンの想い。


でもそれは子供のシャルネを、誰よりも大切に守ってきたという、ある意味、仕事のせいだと思う。


彼は幼い頃から傍にいてくれた。母を良く知っているからと、小さなシャルネを時には叱り、時には甘やかす。誰よりも強く、美しい男性。好きにならないわけがなかった。


しかし、これからもずっと傍に居てくれるとは限らない。


妖精族である彼を、大人になったシャルネはいつか追い越してしまう。私を女性として見て欲しい、そう言える日は来るのだろうか。


彼女の胸の想いは、今まで表に出ることはなかったのである。




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