姫領主と護衛の話
ある冬の日、始まりの町の領主館でかなり盛大な宴が催されていた。
その地方の領主はまだ若い未婚の女性だったので、町の住人は婿選びかと色めきたったが、何故か招待客は老人や夫婦が多かった。
会場となっている大広間の片隅で、領主のシャルネと、元護衛の女性騎士で現在は友人として館に逗留しているヨメイアが立ち話をしていた。
「本気で心配されてるわよ、シャーちゃん」
領主であるシャルネとは長い付き合いであるヨメイアは無事結婚し、今日は彼女の子供のお披露目も兼ねている。
脳筋で、色気も何もなかった彼女が突然の妊娠結婚ということで、周りも多いに驚いたのだが、
「余計なお世話ですっ」
シャルネは比べられると色々と困ってしまうのである。
ヨメイアは下流貴族出身の騎士ではあるが、その鍛えられた身体に不似合いなほど豊かな胸をしていた。
さらに今回の女性らしさを強調したドレスは、出産後ということもあり、かなり目立つ。
「やっぱり胸の差?」
文官を勤める貴族の青年は、少し離れた場所から、並んでいるふたりの女性を見比べてそんな言葉を口にした。
嫌な予感がして、一緒にいた護衛騎士のエルフは咄嗟に逃げて難を逃れたが、その文官は盛大に拳骨を落とされていた。
その拳骨の主であるダークエルフは、そのまま知らぬ顔で会場の見回りに戻る。
「イヴォンさんの近くで、うかつにシャルネ様の噂をするもんじゃない」
それは領主館の者なら誰でも知っていることである。
イヴォンが隊長を勤めるダークエルフの傭兵隊は、王族の警護が主な仕事である。
実は国に関する裏の仕事を取り仕切っているが、特に争う相手もいない現在では暗躍しようにも仕事がない。
イヴォンは、国王の娘であり、王位継承権のない外戚の身分であるシャルネが、成人して王宮を出る際、彼女の専属を申し出た。
そして、地方領主となった彼女の護衛として、この町に一緒にやって来たのである。
子供達が主役のため、昼間から行われている今回の宴には、王都からの招待客の他に、エルフ族の長老や、魔法の塔の所長などがいる。
領主館の護衛を任されている傭兵隊は、幅広い客に対応するため、かなり気を張っている。
実を言うとシャルネは国にとってはかなりの重要人物であり、若い女性ということもあり、取り入ろうとする上流貴族や、それなりの地位がある者が勝手に入り込もうとする恐れがあった。
(これが王都なら軍が外周、俺達と近衛兵で内部の担当でいいんだが)
今回は内外すべてが傭兵達の守備範囲だ。
「イヴォン師匠、お疲れ様です」
妻子を連れた黒髪のエルフが挨拶にやって来た。
「いいところに来たな、ギード。ちょっと付き合え」
少々嫌な顔をしながら、闇属性ハイエルフのギードが答える。
「いいですけどー」
妻子と引き離され、イヴォンに引き摺られながら一言言い放つ。
「師匠、あとでシャルネ様に言いつけますよー」
こいつは本当に底意地が悪い。
「構わん。人手不足で警備が手薄なんだ。ちょっと結界を張ってくれ」
「……お代は頂きますからね」
このエルフは商人としては優秀なのだろう。
「わかった。それと、俺はお前の師匠じゃない」
イヴォンの弟子は、このエルフの、妻の方である。
「ユイリ、ミキリア、三歳のお誕生日おめでとう!」
この宴の主役は、エルフのギードと魔法剣士のタミリアを両親に持つ双子である。
今の世の中、子供は死亡率が高く、無事に三歳になったお祝いはかなり盛大になるのだ。大量に並べられた料理の他に、子供達向けのお菓子も並ぶ。
蕩けそうな顔で双子を抱いているシャルネを横目に、会場の隅でギードはイヴォンと共に警護にあたる。確か自分は客だったなあと思いながら。
「シャルネ様はご結婚する気はあるんですかねぇ」
館全体に結界を張りながら黒いエルフが聞くと、
「知らん。俺に聞くな」
と、イケメンダークエルフが答える。
イヴォンがシャルネに主従以上の感情を持っていることは暴露済みである。
それでもなかなかこのふたりの関係が変わらないのは、シャルネの態度が全く変わらないせいらしい。
「まあ、シャルネ様は賢い方ですからねぇ」
この国の不利益になると思えば、彼女は簡単に自分を押し殺すだろう。
ある意味、父親である国王よりもしっかりしていると評判だ。
そのせいで色々狙われているのだが。
「自分としては、さっさと決めて欲しいんですがね」
そうすれば煩わしい事も減るだろう。
黒エルフに下からジト目を向けられた長身の護衛は、何となく目を逸らした。
今回の宴は、長い間家族で国を離れていたギードに、
「次の双子ちゃんのお誕生会は私がやります!」
と、シャルネが宣言したせいだ。思いっきり、かわいい双子を構い倒すためである。
「シャーちゃん、今日はありがとう」
母親であるタミリアがお礼を言うと、
「お礼を言うのは私の方です」
子供達を抱きしめ、シャルネは首を振りながら微笑む。
「そんなに子供が好きなら、早く作ればいいのにー」
そんなヨメイアの言葉にタミリアも頷く。
「そうよね〜。誰かいい人いないの?」
気の置けない友人二人に、シャルネはぶぅっと膨れた顔で答える。
「いたら、とっくに結婚してますぅ」
子供達のお誕生会なのに、大人達の話題の中心は領主の結婚のようだった。
「じゃあ、聞こうじゃないの、どんな男性が好みなの?」
まだ宵の口にもなっていないというのに、ヨメイアはすでに酔っているようである。




