執事
アイオロスは投獄されました。
「いや、最近見ないと思ったんだ。まさかこんなところに逃げこんでいるとは思わなかった。」
目の前だが、違う世界で金髪の小僧が笑っていた。
まったく、誰のせいだと思っている?
元はと言えば、お前のせいだ。
何が悲しくて、こんなところに閉じ込められなければならないんだ。
自分でドジを踏んだのなら、まだ納得がいった。
しかし、今回は俺のドジじゃない。
まあ、俺の警戒が足りなかったのは事実だったが、さすがにあれは対応が早すぎた。
あの後無実とわかったが、俺の素性はとっくにばれて、いろいろなことを聞かれていた。
罪状がないので、正直不当逮捕だが、そんなことはどうにでもなることだ。
暴れさせて、取り押さえれば済む話だった。
黙秘、否定。
俺は可能な限りおとなしくしていた。
そう、それは俺にとって精神力を試されるものだった。
しかし、目の前で笑う元凶をみると、怒りがむらむらと湧いていた。
この格子の内と外。
たったこの一線で俺の世界は終わっていた。
「だってほら、お前には俺の執事になってもらわないと困るしな。まあ、逃さないぜ。」
何を言っている?
その顔・・・。本気なのか?
「いや、そうですが・・。本気なのですか?」
俺の怒りはどこかに行き、驚きと混乱がやってきていた。
「この俺がウソつくと思ってるのか?アイオロス。ずいぶん俺も軽く見られたもんだ。」
非常に残念な気持ちを、小僧は体全体で表していた。
俺の理解が追い付かないまま、衛兵が一人やってきた。
金髪の小僧と何やら書類を交わす。
ただ、漠然とその様子を見守る俺の目の前で、衛兵は格子をあけていた。
俺の前に、再び世界が広がった。
自由。
しかし、その気分は瞬時にぶち壊されていた。
その衛兵の言葉によって。
「おい、剣聖のご恩情に感謝するんだぞ。この方が、お前の身元を引き受けてくださる。また、お前が悪さをすれば、この方にまで罪がおよぶ。そのことを忘れるなよ。」
金髪の小僧は、余計なことを言ったと衛兵に文句を言った後、混乱する俺に向かって告げていた。
「まあ、そういう事だ。もともとお前の主になるんだ。そう堅苦しく考えなくていいだろ?まだ、領地も屋敷もないが、俺は執事を雇ったんだよ。」
多少照れもあるのだろう。顔をそむけて、そう告げてきた。
しかし、格子の内側に体を半分のぞきいれ、差し出されたその右手は、たしかに俺を待っていた。
格子の内側にいる、この俺を。
笑顔と共に待っていた。
しばらくその手を見つめた後、たしかに俺はその手を取っていた。
そして俺は、格子の外に連れ出された。
「よろしくな。アイオロス。」
短く告げたその声に、俺の心は決まっていた。
「よろしくお願いします。マルス様。」
感謝をこめて。
俺は頭を下げていた。
執事アイオロスの誕生です。
次は、幕間2となります。