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くりかえし

アイオロスの我慢も限界に近づきました。

「いい加減にしてくれ。」

俺の心の叫びは、ついに現実の言葉となってこの世界に生まれていた。

周囲の客が驚くが、そんなことは俺の知ったことじゃなかった。


「あの赤毛、いったいどれだけ繰り返すんだ!」

この後の展開が、すでに分かる俺は、未来予知を持っているわけでも、占いが得意なわけでも、特殊な力があるわけでもなかった。


繰り返し行われた行為の結末。


それがその正体だった。


もはや何度目かわからない行動が、その時を待っていた。


赤毛が金髪の小僧を標的にする。

それに気づいた金髪の小僧は、すさまじい速さでけむに巻き、俺のところにやってくる。

そして、金髪の小僧は、俺に話を要求する。


洗いざらいはかされた。


俺の家には家具も何もないと言う事。

できるだけ人殺しはしたくない事。

潜入に関しては、盗賊の中でも俺が一番だという事。

かつて冒険者としても働いており、古代王国の遺跡の罠とかも結構知っている事。


気が付くと、俺は丸裸にされていた。


「よし、今度一緒に冒険しよう。」

金髪の小僧は、またあの怖い笑顔を見せていた。


この笑顔、断れないんだ・・・・・。


まったく妙な奴につかまった。


そんな時、相変わらず金髪の小僧を付け狙う赤毛がこちらを見ていた。

俺じゃない、その視線の先にはあの男がいた。


ほんと勘弁してほしかった。


金髪の小僧には付きまとわれる。

それだけでも勘弁してほしいのにまた妙な男が付きまとってきた。


小僧が現れると、決まってこっちの様子を見ているあの男。

自分がばれていないと思っているのが滑稽だった。


「なあ、アイツなんだろな。」

いつの間にかやってきた、その屈託のない笑顔。

それが一番恐ろしい。


俺のその予感は当たっていた。


「半殺しでも、罪に問われるんだろうな・・・」

あっさりと物騒なことを言っていた。


ここは、この場所は憩いの場。その言い回しだけでも場違いだ。


「はは。そうですね。手加減できればいいのですが・・・。」

やめてほしい気持ちを、かなり包んで示してみた。


「まあ、俺には無理。だから、アイオロス。おまえな。」

やはりそう来たか。


「いや。単に見ているだけかもしれません。意外に剣聖の名声に惹かれたものかもしれませんよ?一度お話してみてはいかがですか?」

穏便に。穏便に。


ここは、俺の仕事場。しかし、この場所ももう駄目だ。

剣聖との関係を皆が見ていた。

皆に意識されてしまえば、その分仕事がしにくくなる。


俺は、誰の意識にも残ってはいけない。

誰の意識にも残らないから、いい仕事になる。

むしろ、だから仕事ができると言えるんだ。


「そうだな。そうしよう。」

俺の思考をさえぎって、金髪の小僧は行動していた。


そして、やっぱり俺は、特殊な能力に目覚めたことを自覚した。


俺の予想は寸分たがわぬ精度を見せていた。


「あの逃げっぷりだけは想像できなかったな・・・。」

呟く俺の視線の先に、先ほどの男がしっかり歩行できずに、時折地面に手をつきながら歩いていた。


「まったくだ。人の尊厳にかかわるな。」

金髪の小僧は,

どこから聞いていたのかわからないが、俺の意見に賛同していた。



「興がそがれた。またな、アイオロス。しばらく留守にするが、帰ってきたときにはまた頼む」

そう言って、不機嫌さを微塵も隠そうともせずに、金髪の小僧は俺の前から立ち去っていた。


「よし、もう我慢ならん。」

俺は気合の声と共に、赤毛に向かって歩き出した。


「まったく・・・。」

俺はこの行為の行き着く先が全く見えず。ただ、自分に降りかかる火の粉を払うつもりで赤毛をにらんでいた。




「おい、なぜ逃げる。」

俺の姿を確認した赤毛は、俺から逃げるように背を向けていた。


「おい、なぜあの小僧を付け狙う。教えただろう。お前にどうこうできる相手じゃない。お前の願いはかなえてやったが、俺自身が被害にあっている。お前が付け狙うたびに、俺はあの小僧のおもりをしてるんだ。」

まったく俺の精神力と、その時間を返せと言いたかった。

それでも逃げようとする赤毛の腕をとる。


無謀な抵抗を試みる赤毛は、それはそれでけなげだった。

しかし、俺はその手をつかんで離さなかった。


「離して!」

ようやく発したその言葉は、驚くほど幼い声だった。


こいつ、声変わりすらしてない。

通常ある一定の年齢になると、男は男らしく、女は女らしくなっていく。


声もそうだ。

俺は訓練で高い声も出せるが、基本的には低い声だ。

恐怖を感じるともよく言われていた。

声はこいつの年齢を物語っていた。


赤毛は、片方の手で短剣を引き抜くと、それを俺に向けていた。


「なんだ?まだまだガキのくせに、一人前に抵抗するか?」

短剣を手にした赤毛は、真剣に俺を見ていた。


きれいな目だ。

俺は素直にそう思った。


まっすぐに何かを追い求める目だった。

しかし、それは両刃の剣。


自分のことをもいとわない、目的に執着する目だ。


「お前のそのはた迷惑な行動で、おれも被害にあってるんだ。お前が小僧を見失ったときには、すでに俺の目の間で、俺に話をさせるんだぞ?この俺に、話をさせるんだ。わかるか?この苦痛。すべてお前のせいだ。だから、おれはお前のためじゃなく、俺のためにお前を止めている。」

まくし立てるように、俺は赤毛に話しかけていた。


「そんなの知らない!私は知らない。お願いだから、邪魔しないで!」

暴れて、手がけられない。

そんな感じだった。

暴れた拍子に、腕をつかむ俺の腕に短剣が伸びてきた。

こんなことで怪我してもつまらん。

俺はその手を離していた。


急に束縛がなくなった赤毛は、自分から体勢を崩して、倒れそうになっていた。


このままだと、あの短剣で自分を刺すんだろうな・・・・。

俺の何となくの未来予知は格段に成長しているのは、さっき証明されたばかりだ。


「ちっ、バカが。」

とっさに短剣を奪う。

緊急なので、そのまま刃をつかむしかなかった。


体のバランスを崩したことで、短剣を持つ力が強くなっていた。


痛みが俺の手に広がっていたが、構わずに奪い取る。

何とか赤毛は自分で自分をさすということはなくなったようだった。

しかし、派手にこけていた。



俺は自分の手の状態を軽傷と判断し、そのまま短剣をふり、自分の血を払っていた。


血を刀身に残さない何気ない行動。

場所を考えずにしてしまっていた。


短剣についた俺の血が、赤毛の顔に飛び散っていた。


「あっわるい。」

思わずこぼれたその言葉に、赤毛は目を大きく見開いていた。



その時、俺は誰かがやってくる感覚と、包囲されている感覚を同時に感じていた。


「ちっ、これだから・・・。」

ろくなことがない。


何かをすると、何かが付いてくる。

俺一人ならば、俺がどうにかできる。

しかし、そこに俺以外がいたとすると話は別だった。


俺は俺の平穏を守るために、動いたに過ぎない。


それにしても、早すぎる。


状況は俺の知らないところで、速やかな動きを見せているようだった。


「おい、おまえ。未成年虐待で拘留する。」

衛兵2人に肩をつかまれ、そう告げられた。


足元で倒れている赤毛の目は、大きく見開かれていた。


アイオロス。投獄。

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