過去
強制的な、過去話の始まりです。
何がどうしてこうなった?
俺の心は疑問で満ち溢れていた。
しかし、無慈悲という言葉は、今まさに俺にとって親しい友人となっていた。
「さあ、お前のことを聞かせてくれ。俺はそのためにここにいるんだ。」
金髪の小僧は、あくまで俺を逃さなかった。
「あまり、気持ちのいいもんじゃありませんよ?」
俺はそう前置きする。
事実、俺には何もない。
帰る場所すらすでにない。
どこからきて、どこへ行くのか。
その日暮らしの生活だ。
そう、明日というのは今日生きるものが、次を考えて希望につなげるための言葉だ。
俺には、今があるだけだった。
昨日は、すでに捨て去っている。
俺にとっての明日というものは、今この瞬間を生きている先にただあるものだった。
その俺に、何を求める?
俺の逡巡をみてとったのか、金髪の小僧は、俺に一つの課題を出していた。
「まあ、とりあえず、ここに来る前の話でもしたらいい。」
紅茶を飲みながら、目を瞑っていた。
こいつ、いったい何が聞きたいんだろう?
俺の疑問は、解決することはないのかもしれない。
しかし、何もしないわけにもいかなかった。
さっきから、短剣が宙を舞っていた。
「すみません。その物騒なの、しまっておいてください。」
そういうの、恐喝っていうんだぜ。
俺の心のため息を、1回ぐらい察しやがれ。
俺は覚悟を決めて話し始めた。
「ここに来たのは、8歳の時。もともと父親は男爵家の執事をしていました。俺たち一家は、その屋敷に住みこんでいたので、俺も執事見習いとして幼いころから叩き込まれてきました。」
遠い、遠い記憶のかなた。
忘れ去った物語を、俺はこの金髪の小僧に語っていた。
5歳の時に、男爵家に盗賊が入ったこと。
たまたま街に出ていた俺と母親だけが、その屋敷で生き残ったこと。
そのせいで、母親は盗賊の仲間として疑われ、投獄されたが、なぜか釈放されたこと。
その後、8歳まで、いろいろな街で過ごしたこと。王都に流れ着いた時は、母親も病気がちで仕事もできず、スラムで生きていたこと。
その後、俺が母親の分まで働いていたが、スラムの人間がまっとうに働くこともできず、その道に足を踏み入れたこと。
そして、10歳の時に初めて人を殺したこと・・・・。
そこには饒舌に話す俺がいた。
なんで、そんなことまで話すのか。
そんなことを俺は考えていた。
その瞳は、俺をまっすぐに見つめていた。
ああ、そういう事か。
俺は初めて、人と話しているんだ。
だれかでない、俺の物語を。
語り終わった後、俺は珍しく興奮していた。
こんなに人として話したことはなかった。
いつも、どこか線を引いていた。
人とは違う。
ここに俺の居場所はない。
ただ、ここにいるだけ。
ふと通りに目をやると、一匹の猫が歩いていた。
あれと同じだ。
誰にも、気に留められない。
誰かに必要ともされず、気の向いた時にそこにいる。
誰かを必要ともせず、気に入らなかったらそこを去る。
そんな中で、俺は俺としてこの金髪の小僧に、俺の過去を話していた。
最後まで、一言も発しなかった金髪の小僧は、俺の話が最後だとわかると、一言俺に告げていた。
「よし、アイオロス。俺はそのうち家を持つ。屋敷も領地も持つだろう。だからその時は、お前を俺の執事にする。お前のこれからの仕事は、俺の執事として、俺のために仕事しろ。」
夢物語。少年の夢。
剣聖と言ってもまだまだガキだ。まあ、14歳だったか?
夢見る気持ちは、過去と今と未来を持っている証しだった。
俺には未来なんてものはなかった。
過去も捨て去った俺に、未来なんてあるわけがなかった。
しかし、ここで金髪の小僧にたてつくのも大人じゃないし、命は大事にしておきたかった。
「そうですね。その時はお願いします。マルス様。」
立ち上がって、幼いころに仕込まれた。優雅なあいさつというのを披露した。
「よし、約束だからな。」
そういうと、金髪の小僧は代金を置いて、俺の前から去っていた。
ただ、きになる言葉を一言残して・・・・。
「じゃあな、アイオロス。また、話を聞かせてくれ。」
呪いか何かなのか?
俺は、その言葉に恐怖を感じていた。
アイオロスの平穏はやってくるのでしょうか?




