赤毛と暗殺者
一息ついたアイオロスは、気絶している赤毛を連れて、家に戻りました。
「しっかし、これ、どうしたもんか・・・・。」
年のころは10歳程度、赤毛で短髪。しかも、かなり痩せている。
しかし、よく見ると日には焼けていない。むしろ珍しく白かった。
この年齢で、こんなに日に焼けていないのは、労働をしていなっかったものだ。
「軽いな・・・・・。」
片手で軽々と持ち上げられた。
筋肉もほとんどついていない。
身なりも貧しい。
ろくに飯を食ってないんだろう。その髪はずいぶんとぼさぼさだった。
「んー。まあ、しかたがない・・・。」
そのまま背負って歩き出す。
ここにいても仕方がなかった。
途中何人かの知り合いにあって、今日の収穫かと冷やかされた。
そんなわけあるか、ばかやろ。
俺は間違っても誘拐だけはしない。
殺しはする。それが必要ならな。
盗みもする。それは俺が生きるためだ。
それは、俺と対象だけの問題であるはずだ。
所詮この世は強いものが生き残り、弱いものが死んでいく。
それが王であろうと、司祭であろうと、戦士であろうと、魔術師であろうと、市民であろうと、スラムの人間であろうと共通してある唯一のものだった。
だが、誘拐はちがう。
それはそれ以外を巻き込んだものだ。結果的に影響を受けるのとはわけが違う。
一方的に巻き込まれて、そのまま運命をゆだねるようになるものだ。
そんなことは、俺にも、対象者にも権利はない。
少なくとも俺はそう思っている。
だから、誘拐だけはお断りだった。
家につき、赤毛をそこら辺に寝せておく。
家具も、何もない家。唯一寒さをしのぐ毛布がそこにあるだけだ。
悪いが、ここは、そういう場所だ。
俺は、俺自身が明日どうなるかわからない世界で生きている。
家に何かを残すなんてことはおかしかった。
ただ、今を過ごす居場所。
俺に居場所なんて必要ない。
そもそも、俺がいるべき場所などどこにもなかった。
「おまえ、あれに充てられて気絶したんなら、まあ、楽に死ねたかもしれないな。」
俺はあの時のことを思い出す。
もし、俺が止めてなければ、あの一瞬で、こいつの手首は切られていた。
今の状態を考えると、その時点で気絶しただろう。
そうなると、生きる意志を手放した肉体に、死が訪れるのはたやすいものだ。
「そうなれば、剣聖はお尋ね者だな。」
俺は、指名手配される剣聖を想像して笑いをこらえるのに必死だった。
どんな顔で逃げるんだろう?
あの金髪の小僧が、あわてて逃げるのは考えられない。
追手をすべて殺してしまうか?
そうなると王国も威信をかけて聖騎士を派遣するだろう。
そうすればどうなる?
「ひょっとすると、聖騎士ですら撃退するか?」
自分の声の意味することを考えて、それも悪くないと思ってしまった。
「剣聖の国か。強いものが王になる。それはそれで、納得のいくものだった。」
強いものが生き残り、弱いものが死ぬ。
それは真理だ。
じゃあ、俺の取った行動は?
目の前で、横たわる赤毛を見て、俺は俺の真理と相反することに気が付いた。
「まあ、運が強かったと思うことにするか。」
まだまだ起きそうにない赤毛を前に、俺はそう思うことにしていた。
しかし、まだ起きない。
「仕方がない、俺も暇じゃないしな。」
一応警告の手紙を残しておこう。
文字は読めるのかどうかわからない。しかし、もともとは立派な家の生まれに見えた。
なら、俺くらいの文字は読めると期待する。
俺は、読めたらいいと期待しながら、剣聖マルスに手を出す愚かな行動について、書きするし、それ以外にも注意を書いておいた。
なにより、元締めの挨拶なしに、仕事をしようとしたことについては、看過できない。
もし、その気があるのなら、ここで待つように書いて、俺は家を出て行った。
用事を済ませて帰ってきたときには、赤毛はやはりいなかった。
「バカな奴・・・・・。」
俺は何となくそうつぶやいていた、
俺が知らないだけかもしれない。
元締めの挨拶はとっくに済ませていることを願いつつ、おれは赤毛のことは忘れるようにした。
「自分で決めたんだ。自分で責任を取れ。」
先輩からの忠告をしっかりと受け取ったかはわからないが、俺の書いたものは消え、代わりに自分の服をさいたものを残していた。
そこにはしっかりと、
たすけないで
そう文字が記されていた。
赤毛はどこにきえたのか?