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闇執事

最終話となります。

これまで読んでいただきありがとうございました。

翌日、王都を見下ろす丘でたたずむ俺は、その眺めをいつまでも眺めていた。

別館は、王都から少し離れた森にあり、そこからこの丘は近かった。

天空の城と呼ばれるにふさわしいその景色に、俺は少し感傷に浸っていた。


この景色を共に見たかった。


そう思っていることに気が付いた時には、すでに涙があふれていた。


「昨晩、ミットライト男爵の屋敷に侵入者があったようだ。その際に、隠れた帳簿や、不当な取引に使われたと思われるもの、地下にある拷問部屋など多数の事案が暴かれたそうだ。」

背後から、そう言って近づいてくる人物に、本来は礼をすべきだが、俺はそれすらもできずにいた。


「マルス様・・・・・。」

隣に座るその姿に、それだけが言えていた。



「アイオロス。俺は、お前の主人だ。お前は、スラムの家を焼いて、自ら行動し、そして今ここにいる。スラムを捨てたのではなく、スラムに戻ることがないようにお前は歩き出している。」

それは一部違う気がする。

俺は、その気持ちがないわけでもないが、デイオペアの思い出を俺だけのものにしたかったのだと思っていた。


しかし、他人にはそう映るのだとわかった。


相変わらず、俺は話すことができないでいた。


「ここに来る前に、別館にもよってきた。死体もないとはどうしたんだ?」

別に答えを求めているようではないが、なぜだか、その質問には答えようと思った。


「彼は死んでいませんよ。男爵としては死んだでしょうが、生きています。」

そう告げた時のマルス様は、驚いた様子だった。


「いえ、考えたのです。デイオペアに生きる希望をくれたことは確かです。それがまちがったことですが、少なくとも、両親を殺されたデイオペアに生きる目的を与えてくれたことは感謝すべきだと。だから、彼には、その分だけ生かしてあります。ただ、もはや彼は自分が男爵とは名乗れないでしょう。人生をやり直すこともできないでしょう。人に頼らなければ、生きてもいけないでしょう。両目両耳をつぶし、両手両足の親指を無くしています。人の優しさに触れることができれば、彼は生きていけるでしょう。それはデイオペアに与えた生の選択と思っています。」

スラムの端にミットライト男爵を置いた時に、何人かが俺の姿を見ていた。

黙って俺はその場から立ち去ったが、あとはスラムがあの男爵を受け入れるかどうかにゆだねた。


「そうか・・・・。結局あの屋敷での死亡は2名となるのか。」

マルス様はそう言って、立ち上がっていた。

どうやら、他のメイドたちは一命を取り留めたようだった。


「そうですか、暗殺もまともにできないようでは、私もお役に立てそうにありませんね。」

そう言って俺は自らを否定していた。

結局、最後に非情になれなかったということだ。

どこかで、殺したくないと思う感情に負けていたということだった。


自嘲気味に笑うおれをマルス様は真剣な声で遮った。


「いや、アイオロス。それでいい。目的をしっかり果たせれば、それでいい。お前が求める先に何が待つかは知らないが、自分を貫くことも時としては重要だ。お前はお前のロマンを求めて俺についてこい。」

そう言って手を差し出すマルス様は、いつもの笑顔だった。


拒否でき無い笑顔。


今なら拒否することは可能だった。もう失って困るものなど何もない。むしろ、もう終わってもいいとも思っていた。


「デイオペアがこの世界にいたことを、お前がいなくなったときに誰が証明できるんだ?お前が生きている限り、デイオペアは生きている。」

その時、なぜか俺はデイオペアの言葉を思いだしていた。


「私はスラムが好き。スラムの人たちが好き。でも、スラムの人がもっと世間に認められたらいいなと思う。」


その言葉はデイオペアの希望だった。

ならば俺がそれをかなえなくてどうする。


「私にはまだやるべきことが残っていました。そのためにマルス様のお力をお貸しください。」

俺はそう頼んでいた。


「ああ、お前の前に、ロマンがあふれていることを祈るよ。」

改めて差し出されたその手を、俺はしっかりと握り起き上がっていた。


「さあ、まずは冒険だ。アイオロス。俺たちの道はこれからだ。」

はるか先、魔の森の方向を指さして、マルス様はそう宣言していた。


「よろしくおねがいします。マルス様。」

俺は懐の髪飾りを握りしめ、深々と礼をしていた。


アイオロスはこの後生涯独身を貫いていきます。

彼が本編で見せた行動は、こういったことが関係しているのかもしれません。

これから、マルスと共に各地を転々とするアイオロスは、マルスの探索系の冒険に最も多く参加することになります。もちろん、マルスに迫る陰謀を阻止するのも彼の役割でした。

辺境伯になってからは、特にそう言ったことが多くなっていくようです。


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