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赤毛の少女

赤毛ちゃん。怒ってます。

「だから、お前も一応女だし、ここに住むわけにもいかんだろう?」

一歩も引かない相手を説得するには物足りない言葉だが、それでも納得してもらうしかなかった。


「いいえ、申し訳ないですが、あなたは信用できません。」

譲らない。その目はそういう意思を示していた。


「だったらなおさらだぜ。俺も男だ。もしなんかあったらどうする?若いお前のことを思って言ってるんだ。信用できないとっても、そこは信用しろ。」

この女、言ってることがめちゃくちゃだった。

信用してない男と一緒に暮らすことがどれだけ危険かわかってるのか?



「その点は信用します。私が言っているのは、どこかに行ってそのまま帰ってこない可能性があることです。あれから私がここで、どれだけ一人で過ごしたと思っているのですか?弟子にするって言っておいて、さんざん放置ですか?」

半分泣きそうな顔をしていた。


たしかに、それを言われると何も言えなかった。

黙っている俺に対して、デイオペアは畳み掛けるように言葉を浴びせてきた。


「20日ですよ。わかってます?20日あなたは姿をくらました。」

「王都にもいないとわかったのは、10日後です。」

「どれだけ探したと思ってるのですか。弟子にしてくれるんじゃなかったんですか?」

「それとも、それは都合のいい嘘で、実は忘れてたとかいうんじゃないでしょうね。」

「この20日間、何もないここで過ごすのが、どれほど・・・・・」


自らの目的が果たされない渇きと不安であふれかえっていた。

黒幕に何か言われているのかもしれなかった。

いま、この瞬間も見られている可能性がある。


ここは、芝居の一つもうたねばなるまい。


ここを留守にした本当の理由を悟られるわけにはいかなかった。


「すまない。お前といると俺はお前に溺れそうになるからだ。しばらく頭を冷やしていた。」

我ながら、みっともなく、背中がかゆくて仕方がないセリフだった。

できることなら、転げまわりたい気分だった。


「なっ」

短く、そしてそのまま黙り込むデイオペアをみて、俺は心の中で謝っていた。


俺は、お前の心をもてあそんでいる・・・・。


しかし、黒幕が方針を変えるのは問題だ。

デイオペアが俺を籠絡させるのが目的だというのは、同じ家で暮らすことにこだわる様子からも見て取れた。

しかし、相手は小娘。無理をしているのがありありとわかる。

本当に誰かを好きになったことなどないに違いない。

そんな娘が20を過ぎた俺を籠絡など、考える奴の気が知れなかった。


しかし、そういう事になっている。

ならば、そうするしかあるまい。


そして、それを実行する前に肩透かしを食らっていた。

デイオペアが行き場のない思いを持つのは当然だった。


仕方がない。


ここは、俺もそういう意思を持っているという安心感を黒幕に植え付けることが必要だった。


ヘルブスト公爵領周辺にあるデンケンの街。

そこの領主であるエルガー=フォン=ミットライト男爵


こいつが黒幕だった。

マルス様と魔術師デルバーの協力の元、黒幕の手下から情報を聞き出したのち、俺はミットライト男爵家の調査と、その領地に足を延ばしていた。

その結果、やはり男爵が黒幕であることは間違いなかった。


ミットライト男爵家。

男爵家でありながら、多くの産物を有するデンケンの街を納めているこの家は、財政的にかなり裕福だった。

その財力を背景にヘルブスト公爵に取り入って、さらにその地位を伸ばしていた。

そしてその地位を維持するのにも躍起になっていた。


強欲のミットライト男爵家

貴族相手に多数の金を貸し付けて、払えなくなるとその領地と爵位、娘など金に変えれるものを強奪している。

影でそう噂されるほど、あくどい男爵だった。


そして、問題のデイオペアの家。やはり男爵家の長女だった。

本名、デイオペア=フォン=ロイエ。

ロイエ男爵家の一人娘。

数年前に盗賊により殺害された男爵一家。

公式記録には、一人娘も死亡していた。


では、この赤毛の少女は何者なのか。


そのあたりの情報はまるで得られなかった。


しかし、ミットライト男爵がマルス様を目の敵にしている事だけは確実だし、その手段として、このデイオペアを利用していることも明らかだった。


そして、デイオペアの目的はおそらく、男爵家の再興だろう。


ミットライト男爵にうまい話でももらったのか、その望みのために今を生きていると考える。

目の前で固まる少女を見て、俺は自分の得た情報を再び整理していく。


とにかく、今は相手の出方も見つつ対応するしかあるまい。

そして、この娘からも、ある程度情報を得ないと・・・・。



「なあ、デイオペア。」

俺はゆっくりと語りかける。その黒幕にも聞こえるように。


「どちらにせよ、この何もない家では、お前もゆっくりとはできないよ。少なくとも、新しい場所に行こう。そこでどう暮らすかは、おいおい考えればいい。まずは、見てくれ。」

手を取り、外に連れ出す。

有無を言わさず、俺はどんどん歩いて行った。

魔法的な監視は、俺にはわからない。

しかし、監視されているのだろう。

俺はそう思って行動する。


やがて、目的の場所にたどり着いていた。


スラムの中にある比較的大きな建物。

以前は3家族が共同で暮らしていた場所だが、全員が流行病で死んでいた。

その後もたびたび死人を出すことで知られている。

気味が悪く誰も住みつかなかった場所。


そこを住処に決めていた。


そして新しい場所は魔術師デルバーの協力で、魔法的な監視を一時遮断できるようにしてもらっていた。


全てを遮断しては、疑念がのこる。

一時的であれば、問題はないというのが魔術師デルバーの意見だった。


そうして貸してもらった魔道具が、その家には設置してあった。魔術師デルバー作の魔道具は、部屋の中に数か所設置されており、その部分をほかの部分で投影するというものらしかった。


そして、完全に隔離されている部屋が一つ。

地下室。

そこは、魔術的に監視した場合、声が伝わらないようにしてもらっていた。


監視についてはこれで問題はない。何しろ魔術師が大丈夫と言っている。これ以上の安心感はなかった。


そして、この家にはもう一つ重要なものが置いてあった。


家具。


家の中に案内したとたん、デイオペアのうれしさが手に取るようにわかった。


「これでいいだろ?マルス様が用意してくださった。一応、これが俺とお前の新居だ。」

まるで結婚したようなセリフだが、デイオペアは全く聞いていなかった。

家具をさわり、部屋を見て回っていた。


「ここで暮らしていいのですか?」

散々見て回った挙句の言葉がそれだった。


「言っただろ?ここがお前と俺の新しい家だって。」

もう一度言うのは照れ臭かった。


「よろしくお願いします。」

そう言って頭を下げた後、お互いに顔を見やって笑っていた。


ゆったりとした時間と、零れ落ちる笑顔。


今、この瞬間を大事にしたい。

そう思う俺は不思議だったが、妙に納得する自分がいた。


二人の共同生活が始まります。

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