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赤毛の訪問者

マルスと別れたアイオロスは、我が家に戻ります。そこでアイオロスが見たものは・・・。

久しぶりに家に帰った。

正確に言うと、俺の家と思われるところに帰っていた。


そこにはなぜか、人がいた。


俺の家に、明かりがともっていることなどない。

そもそも、明かりをつけることすらしない。ただ、寝るだけの場所だった。


用心深く入り口に近づく。

別にこの場所を明け渡してもいいが、ここ1年くらいはねぐらにしていた。

最後にどんな奴が、この場所を俺から奪うのかをみてみたかった。


そして、中をのぞき見た。


なんだ?

今俺の顔は驚くほど間抜けに見えるだろう。

俺の中の冷静な部分がそう告げていた。


「おまえ、ここで何している!」

扉を開け放ち、思わず、大声で怒鳴っていた。



「ひっ」

赤毛は情けない悲鳴を上げて驚いていた。

そして、侵入者が俺だとわかると、安どの表情を浮かべて、頭を下げていた。


「弟子に・・・」

「いらん。」

俺は即座に断った。


明らかに唖然とした表情は、まだ子供っぽさが抜け切れていなかった。

「あの・・・・・」

「いらん。」


「話を・・・」

「きかん。」


赤毛はだんだんむきになっていた。


「どうかお願いします。」

短剣をのど元に突き付けて、俺に交渉を求めていた。


このまま断れば、喉を突く。

そういう意味なのは分かる。そして、震えるその手からは、本気の覚悟が見て取れた。


「わかった。わかったから、その物騒なのをしまえ。」

もはやため息しか出なかった。


最近の俺の周りには、短剣を言葉代わりにする奴らばかりだった。



「それで、話しはなんだ?言っとくけど、俺は今日牢から出たばかりで割と気分がいいから話を聞いている。いつもなら、とっくに出ていってるぜ。なにせ、お前のせいで牢にぶち込まれたも同然だからな。」

俺の最初の罪状は、未成年者への暴行だ。しかし、その容疑は晴れていた。


あとは本当に俺がしたことだが、証拠がないので拘留され続けていた。


しかし、きっかけがなければ、俺もあそこには連れて行かれて無い。

それは自信を持って言えることだった。


赤毛はゆっくりと短剣をおろし、もう一度頭を下げていた。

出てきた言葉は、最初の言葉だった。

「弟子にしてください。」


なぜか、その髪の毛に俺の視線はくぎ付けになっていた。


「おまえ、髪、あらってるのか?」

不用意な質問は、赤毛をひどく混乱させたようだった。


その慌てぶりに、俺は思わず笑ってしまった。


人間は、笑うとまけだ。

嫌だと思っても、笑うことでその気分が失われる。


とんだ茶番になってしまった。

そして、俺は疑問に思ったことを口にしてしまう、そんな悪い癖が出てしまったことを後悔していた。


「で、どうなんだ?」

してしまったものは仕方がない。

せめてその答えは知っておきたかった。


「洗ってません・・・。そんな気も起こらなかったので・・・。」

ひどく落ち込んだ様子だった。


「弟子入りしたい理由はわかるが、そこまでする理由は何だ?マルス様にまとわりつく理由は?」

俺はその疑問も晴らしたかった。

そもそも、それが分かれば解決できるような気もしていたからだ。


「それは・・・・。言えません。」

苦しそうな表情。


よほど言えない理由なのか?

それとも言ってはいけない理由なのか・・・。


「弟子にするには、そのことは聞かなくてはいけない。何しろ俺はさっきマルス様の執事になったばかりだ。主人に害のあるものを育てるわけにはいかんだろ?」

俺の言葉に赤毛はひどく驚いたようだった。


視線をさまよわせて、答えを探している。

そんなところに書いてあるなら、とっくに俺が読んでいるさ。


「言えません。」

聞き間違いでないか、確認してみようと思った。


「言いたくないのか、言えないのか。」

俺は赤毛の瞳を静かに見つめた。


「それも言えません。」

赤毛は口をつぐんでいた。


「よし、質問を変えよう。お前は命が大事か?」

言えないという言葉は、言うと何かが起きることを意味する。

言いたくないという自分の意志との区別すら、それが起きる可能性を答えていた。


つまりは、こいつの後ろに何かがいる。

そして、それは今も探られているということか。

周囲の気配を探ったが、それらしいものはない。

ただ、魔法的にみられていたら、お手上げだった。


魔術師の奴らは、その力で他人の状態を観察できる。

それ用の魔道具すらある。

それを阻止する魔道具も当然ある。


しかし、ここにはそれらしいものはない。


まず、見られているという前提で話を進めるしかなかった。


赤毛は考えるまでもなく、まっすぐに俺を見て言い切っていた。


「目的が果たされるなら、この命、いかようにでも。」

それは決意のまなざしだった。


おそらく勘違いして答えていることはわかっている。


しかし、俺の疑問に対しての答えとしては十分だった。


こいつは何らかの目的を持っている。

それを果たすために、誰かのために働いている。

誰かの目標はこれまでのことからマルス様だ。


そして、そのマルス様に何度も失敗を重ねた結果、その誰かの方針が変わったということだ。

その矛先が、こちらに向いたということか。


とすれば、状況的に俺とマルス様の組み合わせを見ている人物、もしくはその後ろにいる人物とみた。


あの男か・・・。


さて、どうするか。


俺は目の前で、真剣に見つめている赤毛をどう扱うか決めかねていた。


とりあえず、話しておくか。

その反応を見てからでも遅くはない。


俺はため息をつきながら、赤毛の持つ短剣を素早く奪った。


「命なんてものは、この短剣ひとつでどうにでもなる。お前の命だってそうだ。いまここで、この短剣を使えば、お前の命を取ることだって可能だ。そして、それは俺にも言えることだ。しかし、目的といったな。それは命を落とした後では、確認できないのではないか?命を賭して行うことは、その後のことまで見届けてこそ、使ったことになるんだぜ。それはわかっているのか?」


黒幕との関係。

それは今の態度を見れば明らかだった。


こいつは何らかの代償として、自分自身を使っている。


目的といったか。

それを黒幕が握っているというわけだ。


それが、なんなのかはわからない。

しかし、黒幕の目的はあくまでマルス様だろう。俺は、その手段になっている。

こいつもそうだ。

ならば、探るためにも、こいつはこちらで預かるか。


「お前の命を俺に預けろ。そうすれば、お前に命の価値を教えてやる。なに、命なんてものは、どうせ使うためにあるんだ。目的のために使うんなら、せいぜいその価値を上げてみろ。」

赤毛の頭を荒っぽくなでまわす。

やめろと言うがやめれない。


「まずは、この髪。洗えばきっときれいな髪になる。お前には、こんなきれいな髪があるってのを教えてやるぜ。」

そう言っておれは赤毛の手を引いて、洗い場の方に向かっていた。

いつしか、俺に手を引かれるのを拒む赤毛はいなくなっていた。


次回、真実

予想されているかもしれませんが、真実の一つが明らかになります。

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