プロローグ
さあ、皆様。
どうぞ、お楽しみください。
私の名は、アイオロス。
この度、主人より皆様のご案内を申し付かっております。
この先は少し暗くなっておりますので、お足もとにご注意ください・・・。
「ふっ、ここまでは追ってこれないようだな・・・。」
後ろを振り返った男は、震える声でそうつぶやいていた。
それは、自分自身を安堵させる言葉だった。
汗ばんだ額を腕で拭い、もう一度振り返って、廊下の先を見る。
「明日は大事な日だというのに・・・。」
言い終わる前に、別の声が、その言葉をさえぎった。
「明日はすでにお帰りになりました。」
低く、押し殺した声が男の耳に届いていた。
まるで地の底に引きずり込まれるような声だった。
男はゆっくりと前を向く。
「もう、今日との別れもすまされましたか?」
雷鳴と共に照らしだされた窓際に、ひっそりとたたずむ人物が、男に問いかけていた。
「ひっ、いつのまに!?」
一旦廊下の振り返り、目の前に立つ人物を見た。
再び雷鳴が轟き、窓際の人物の姿を克明に描き出した。
すらりと伸びた体には一切の無駄がなく、洗練された執事がそこにいた。
「なっ、おまえはアイオロス・・・。馬鹿な。どうやって!?」
男は狼狽し、周囲を見回す。
そこには、男を守るものはいなかった。
そこには、男が逃げる場所も、隠れる場所もなかった。
そして執事は、ゆっくりと優雅にお辞儀をした。
「では、ご案内いたします。」
低く太い声で、案内を申し出た。
「いらん。」
短くそう言うと、男は走り去っていた。
「せいぜい逃げ回れ。そうやって死の恐怖を味わいながら、じっくりと、じっくりと旅立ちの用意をしていくんだ。まだまだ、楽には殺さんよ。お前には死すら生ぬるい。」
執事の雰囲気から、うって変わった言葉と共に、1本の短剣が宙を舞った。
逃げる男が後ろを振り返った瞬間、短剣は男の顔に一筋の赤い道を作っていた。
そしてまるで案内をするかのように、その先の暗闇へと消えていった。
「さあ、ゆっくりとご案内いたします。すでに皆さんは、向こう側でお待ちですけどね。」
必死で逃げる男を、執事の足音がゆっくりと追いかけていた。
7月7日7時 777文字でスタートです!
よろしくお願いします。
プロローグは、ラストのシーンを入れてみました。
今回は、7時更新を予約してまいります。