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勇者VS魔王……の配下(非戦闘員)  作者: 黒江
第二章 勇者VS魔王の配下(その他大勢)
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第二章03 百聞は一見に如かず

「ほれ着いたぞー」


 俺達は勇者リザが潜伏していると報告のあったタキノ町に到着した。

 商業都市タキノはファルジオン国東に位置する王国第二位の大都市である。元々国境近くの町マハザと首都ファルジオンとの中継地点として始まったこの町は多くの人々、物流の往来によって大きく発展してきた。気が付けば王国でも屈指の居住、工業、商業地域を持つ大都市となるまでになった。どんなに大きく発展しても昔ながらの気っ風を忘れず、活気に溢れ商魂逞しいこの都市は、王国市民からは今でも『タキノ町』と親しみを込めて呼ばれている。


「なんかいつもより賑わってると思ったら」


 町の入り口に大きく掲げられた看板を見てカインが呟く。


「もうこの時期だったか」


 その看板には大きな文字で『タキノ秋の大収穫祭開催中!』と書かれている。収穫祭は昔からタキノで行われている秋の祭祀行事だったが、タキノ発展の原動力となった物流による食材の充実によって、祭も町と共に大きくなっていった。今ではタキノだけに留まらず、ファルジオン中の食材が集まる『食の祭典』にまで発展していたのだ。期間は秋から冬の始まりまでの数週間で、その間に十数万の人々がこの収穫祭に訪れており、ファルジオンでも特に大きな行事の一つとなっている。

 

「今年も盛況のようだな」


 往来する多くの人々を眺めながら俺は満足そうに頷く。


「ゲイル、そういやお前今年も祭の実行委員会なんだよな」

「フッフッフ!その通り!今年は参加店舗も更に増え大幅な収益が期待できるのだよカイン君!」


 自慢げに話す俺。が「あっそう」と素っ気なく返される。


「しかし何故勇者はそのまま城に向かわずにこの町に……まさか我々を欺くのが目的なのか?」


 ロゼが神妙な面持ちで呟く。……まぁ本当の事言っても信じて貰えなさそうだしここはあえて無視する。


「しっかしこの人だかりの中から探し出すのは中々骨だな……」


 確かに。この中からたった一人を探すのは困難な事だ。だが俺には確信があった。リザは必ずこの祭に参加しているはずだ。


「行くぞ」

「おい!行くってお前居場所わかってんのか!?」

「あぁ……まかせておけ」



「ほれ見つけたぞ」


 探し始めてすぐに、俺達は目的の人物を発見した。

 ここは『タキノ秋の大収穫祭』が開催されているタキノ大通り公園。大収穫祭はこの公園を東西南北に4つのスペースに分け、王国それぞれの地域の旬の料理を提供する、まさにファルジオン王国の『食の祭典』なのである。

 会場の東スペース『東ファルジオン旬の味覚と多国籍』ブース。タキノでも老舗の串焼き屋『鳥頭』の露店に奴はいた。


「……アレか?」


 そうですアレです。


「……一心不乱に串焼き食ってるアレが?」


 そうですその肉食ってるアレです。


「オイオイオイ」

「何かの間違いでしょ……そうだと言って」


 頭を抱えて悲観的な事を呟いてるカインとロゼ。両手に串焼きを何本も抱えながらいい笑顔で食べ続けているリザ。残念ながら……あれが勇者です。

 

「ふん!ならば話が早い!このまま突撃して切り捨ててやります!この私が!」


 突然物騒な事を言うライラ。誇らしげだ。


「ちょっとちょっとー!何ヤバいこと言ってんの!?周りに人沢山いるんだよ!?」

「だからと言ってこのまま見過ごせるわけがないでしょう!先手必勝ですよ!」

「奴を倒し兄の無念を晴らすんですー!」

「おいカイン!ライラを捕まえて!」

「あ、ちょ、離してください!私は近衛騎士団の名誉に懸けてですね……!」

「モズ、やれ」

「おぶっ」


 モズの手刀が綺麗に刺さりライラは動かなくなった。


「しかし、このまま手をこまねくのもどうかと思うが」

「何か手があるん?」


 なんとか立ち直ったロゼと、さっきからずっと腹抱えて笑ってたユキメが尋ねてきた。


「人が多いなら人が少なくなるのを待てばいい。暫く様子を見て機会を伺おう」


 皆頷く。気絶してるライラを除いて。


 東スペースの露店を一通り食べ歩いたリザが次に訪れたのは南スペース、『南ファルジオン秋のスイーツもってけ大盤振る舞い』ブース。南ファルジオンでもお菓子に重点を置いた露店が多く、子供も大人も楽しめるスイーツ通りだ。その露店の一つ、週刊ファルジオンでも紹介された人気店『ホワイトドラゴン』に来ていた。


「やべえ……なんだこれ!うめえな!」

「口の中に広がる濃厚な甘み……素晴らしい」

「ええなぁ……こんなん地元じゃ食べた事あらへんわぁ」

「美味し!私は大満足です!」


 皆『ホワイトドラゴン』名物のホワイトブレスケーキに舌鼓を打っている。


「ここの菓子は雑誌にも特集が載るほどだからな!」

 

 妹へのお土産用のケーキを店員から受け取り俺は自慢げに話す。


「だがここも人が多いな……もう少し様子を見なければ」


 皆無言で賛同した。リザは5個目を食べ終え、良い笑顔で追加注文していた。


 南スペースを後にしてリザは西スペース、『西ファルジオン大いなる海の恵み☆アクアブレス』ブースへと向かっていた。ファルジオン西は海に面している為、水産業、特に水産物の輸出が盛んな地域なのだ。新鮮な海の幸が楽しめる露店が多く軒を連ねる。


「やっぱ『海坊主』の海鮮丼はうめえな!」

「この貝柱のスープ……ダシが効いていて旨味が素晴らしい」

「ええなぁ……うち地元が山やからこんなん食べた事あらへんわぁ」

「美味し!私は大満足です!」


 だいたいさっきと同じ感想だな……とか思いつつ周りを見回す。リザの動きを察知し、先回りしてきたが……ここも人が多いな。


「もう少しで日が暮れる。今日の収穫祭も一旦終了か」


 開催時間的にもそこを狙った方がいいかもしれないな……と海鮮丼を平らげ二杯目を注文しているリザを見ながら俺は考えた。


 北スペースへと向かうリザを追尾しようとしたが……こっちが先に潰れた。


「なんであいつあんなに食ってるのに平気なんだよ……うぷっ」

「すまない……ちょっと休ませて」

「うちもう駄目やわぁ……あそこで休んどるから誰か代わりに行っといてぇ~」

「一歩も動けませんよ!私は!」


 尾行中なのにそんなに食べるから……。それに比べリザの胃袋は底なしか!とりあえず追跡は部下達にまかせて――


「よし!ひとまず休憩!」



 太陽が沈む夕暮れ時。朝から働きづめだった露店の店員達も、今度は撤収作業に精を出している。お客達も帰路につく。皆一様に満足気な表情だ。明日も祭は盛況だろう。まぁそうでなくては困る……収益的に。

 俺達は公園の町が見渡せる小高い丘へと続く緩やかな階段先でリザの前に立ち塞がった。


「待っていたぞ……勇者リザ!」


 リザを指しながら俺は高らかに叫んだ。俺の両隣には満腹から回復したカイン達が勢揃いしている。肝心のリザは――


「モグモグモゴモグ?」

「とりあえず口のモノ全部食ってから話せ!」


 少し待つ。改めてもう一度。


「待っていたぞ勇者リザ!俺を忘れたとは言わせないぞ!」

「えーっと……ゲ……ゲ?……ゲソおでんさん!」

「ゲしか合ってない上に名前より長くなってるー!?」


 かなり凹んだが落ち込んでもいられない。人が殆どいない今が絶好のチャンスなのだ。


「ここで会ったのが運のツキ!己の不幸を呪うがいい!そして……」


 俺がまだ口上を喋っているのに、カインがリザへと飛び出していた。


「ちょ!?馬鹿!まだ早いよ!?」

「ハッハー!!早い者勝ちだぜぇ!!!」

「くそ!出遅れたか!」


 カインに遅れまいと他の隊長達も一斉にリザへと襲い掛かる。だが先に飛び出したカインが一歩早かった。


「その首貰った!」


 カインの剣先がリザの首筋に届く……ことはなかった。目の前にいたはずのリザはもうそこにはいなかったのだ。


「え?」


 誰が発した声か一瞬では区別がつかなった。もしかしたら皆思わず声に出してしまったかもしれない。それを判断するより前にカインが俺の後ろに吹き飛んでいた。


「ぐえー!」

「カ、カイーン!」


 一撃でやられたカインを見て他の隊長達は戦慄し、一旦距離を取って身構える。リザを尾行しながら食べ歩きしてた時の余裕は一切無くなっていた。


 リザはこちらへゆっくりと、だがしっかりとした足取りで歩いてくる。


 こんな状況、前にもあったなぁ……。

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