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勇者VS魔王……の配下(非戦闘員)  作者: 黒江
第六章 勇者VS魔王の配下(最後の戦い)
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第六章01 帰還

 その知らせが届いたのは年明けが近くなったある日の事だった。勇者リザがファルジオン王国最北の町ネノヒを出発したという報告が寄せられ、王国内はかつてない緊張に包まれた。ネノヒとファルジオン王都の間には小さな集落がいくつかあるだけで実質一本道。そこから今までの勇者リザの辿ってきた経路、歩行速度を計算して導き出された王都到達の日時はこれより約5日後。ファルジオン王国今年度最後の日にあたる。具体的な日時が判明した後のファルジオン王国上層部の反応は早かった……かねてよりこの日を想定して準備を行っていたからだ。住民にはパニックを避ける為、魔王直々のお言葉によって迅速な避難を促すと共に国外への避難誘導と国内の避難場所である王国地下兵糧庫と同じく地下にある王立図書館が解放された。

 住民の避難が順調に進められる中、ファルジオン王国書記官ゲイル・クロウはとある場所へと向かっていた。ある男の到着を待つために。




「まだかな~?兄ちゃんまだかな~?」


 ピンク色でモコモコの暖かそうな服(寝間着?)を着こなしている見た目は可愛らしい我が妹にして天才魔法使いであるフレイアが、道端の切り株の上にちょこんと座りながらこの日何十回目かも忘れたが……同じ問いを投げかけてきた。


「もう少しだ」


 これも何度返したかわからない、もはやお決まりといった答えをフレイアに返した。

 今いるのはファルジオン王国東門前。主に商業都市タキノや観光地マハザから来る商人や観光客用に解放されている城門だ。門からは王国内の避難場所以外である、故郷へと疎開していく荷車や荷物を背負った住民達の姿が後を絶たないでいた。勇者を最後の砦であるこの王都で迎え撃つと決めたのは俺であり、その時からこうなる事は想定していたがそれでも自責の念にかられる。……年末で忙しい中ほんと申し訳ない。


「兄ちゃんまだー?」

「もう少しだ」

「何か美味しいもの食べたーい」

「後でいい所へ連れて行ってやるよ」

「新しい杖が欲しーい」

「今度買ってやるから」

「最近誰かに見られてる気がするんだけどなー?」

「モズに頼んで周囲を警戒させるよ」

「お外さーむーいー!」

「ちゃんと防寒具来てるんだからそれ以上はお前の魔法でなんとかなさいよ!」


 フレイアとの他愛のない会話が続く中、王国から離れていく人の列に逆らうように一人ボロボロのローブを纏ったやたら体格の良い人影がこちらへと向かって来ていた。そのままその人影は確かな足取りで俺とフレイアの前までやってきて立ち止まる。……その顔には見覚えがあった。


「お前……ヴォルトか?」

「……そうだよ!久し振りだな兄貴!フレイ!」


 顔を隠していた布を取り払うと馴染みのある顔がそこから出てきた。顔はいつもの弟であるヴォルトそのものだったが羽織っているローブの上からでも分かる程、その体格は変わっていた。


「お前随分と……鍛え直したな」

「ふん!これぞ霊峰タタラでの修行の成果!どうだい兄貴!フレイ!」


 そう言うとヴォルトはその筋骨隆々になった腕を見せてきた。……若干言葉遣いも変わってる気がしたが気にしないようにする。


「うわームッキムキだぁ!」

「今の俺ならあの勇者だって倒してみせらぁ!」

「あっ私もねー新しい魔法30個も覚えたんだよー!すごいでしょー!」

「マジで!?流石フレイだな!」

「ふっふーん!もっと褒めていいんだよ~?ほれほれー!」

「うるせー!お前ら静かにしろー!」


 大声で修行自慢トークと繰り広げていた弟達に一喝する。言わないと延々やってるだろうし。……一応周りには避難中の住民達の目もあるしな。


「お前達は俺の切り札にしてこの国 最後の砦(・・・・)になるのだ!半端な力じゃ到底あの勇者には勝てないぞ!」

「心配ないってー!今の私達なら勇者が100人来ても大丈夫!」

「ホントかぁー?ホントに100人来ても大丈夫かぁー?」

「それよりもさっき言ってた最後の砦ってドユコト?」

「……それを説明する為にも一旦城へ戻るぞ、来いお前達」


 踵を返して城壁内へと歩いていく。

 王都を進み城門前まで戻ってきた時、それまで口を開かなかったヴォルトが話しかけてきた。


「兄貴、さっきの話の前に頼みたい事があるんだ」

「お、おうなんでも言ってみろ」

「ある武器・・を俺に使わせて欲しいんだ。多分、今は隔離保管庫にあると思うんだけど」

「隔離って……お前……まさか アレ(・・)を使うつもりなのか!」

「今の俺なら使いこなせる……はず」


 ヴォルトの目はどこまでも真っ直ぐだ。諦めるにしても実物を見ない事には納得してくれないだろう。俺はすぐに折れた。


「わかった。許可は貰ってやる。だが危ないとわかったらすぐ取り止めるからな」

「ありがたい……!」

「よーし!そんじゃ保管庫へレッツゴー!」

 

 号令をかけるフレイアの足取りはとても軽やか。頗るご機嫌な様子だ。久々に兄弟全員が揃った事が嬉しかったのだろう。俺とヴォルトはフレイアを追い駆ける形でファルジオン城へと帰還していった。




「話は伺っております。どうぞお通り下さいゲイル様」


 門番の兵士に会釈を済ませ厳重に管理された部屋の中へと入っていく。ここはファルジオン城最奥にある隔離保管庫。古今東西ありとあらゆる危険な武器・防具・アイテムを封印、管理しているファルジオン城の中でも屈指の危険地帯デンジャーゾーン


「うわーなんかヤバそうな物が一杯あるー!」

「ヤバそうじゃなくて本当にヤバい物ばかりだから気を付けろよ……ってそれ触ろうとすんな!この城ごと吹っ飛ぶぞ!」

「だってこれ図鑑で見た事あるんだもん。悪魔の心核(デーモン・コア)でしょ?」

「うんうんだからそれでお手玉しようとするんのやめようねマジで!」


 そんな物騒なやり取りをしつつ隔離保管庫を進んでいく。あたりには伝説級の武器や呪われた武具・宝具が封印の付与魔法が施された布に厳重に巻かれて規則正しく整理され棚に陳列されている。どれも一つで国を破滅させるには十分な代物ばかりだ。


「見えたぞ……あれだ」


 隔離保管庫の最奥……そこに目的の武器があった。壁に立て掛けられている武骨な形のそれからは物々しい封印が施されているにも関わらず、中からはとんでもなく強烈な熱気がこちらを焼き切らんと迸っている。


「あれがお前の目的の武器ブツ……大戦斧ダイダロスだ」


 大戦斧ダイダロス……精鋭騎士団団長だったグフタフさんが所持していた伝説級の武器。元々は友好国マチルダが我が国へ友好の証として寄贈してきた武器なのだが、その鋳造過程は強烈そのもの。


『せっかく渡すのならとっておきの物を渡してビビらせたい(・・・・・・)


 ……と物騒な事を言ったのはマチルダを収める豪胆な魔王。国中の名のある鍛冶屋をかき集め鋳造し、更に当時最も高名な炎魔法の使い手によって付与魔法を施されたその武器は、その言葉の通りのとんでもない代物に仕上がった。


「じゃあ……いくぜ!」


 封印されても尚熱気を放出し続けるその危険な戦斧にヴォルトは近づいていく。普通の兵士ならとっくに火傷になってしまう熱気だがヴォルトは物ともせず向かって行く。封印の付与魔法が描かれた布に触れるとそれを一気に引き裂いた。中から現れたのは紅く厚く重い両刃に美しい装飾が施された長大な斧。この両刃に彫られた装飾一つ一つが付与魔法であり触れた者を瞬時に焼き殺す地獄の業火を絶えず吐き出す。敵対する者は容赦なくこの巨大な刀身に叩き潰され、そして炎の魔法が焼き尽くし骨すら残らないだろう。だが使用者にもその危険が付き纏う諸刃の剣でもあるのだ。

 ヴォルトが戦斧の自身の身長よりも長い柄部分を掴むと熱波は更に容赦なく襲い掛かった。


「ぐっ……!」

「大丈夫かヴォルト!?……うわあっつ!」

「かなり離れてるのにこっちまですごい熱気だよぅ……!」


 すこし距離を取っていた俺達にもその熱気は降りかかってきた。フレイアが軽い冷気の魔法を行使してなかったら俺も火傷を負っていただろう。荒れ狂う熱波の渦中であってもヴォルトは戦斧の柄を離そうとはとはしなかった。


「俺は……強くなった!だけどそれでもあの勇者には勝てないかもしれない……だがら頼む!俺に……力を貸してくれダイダロス!」


 ヴォルトの叫びと同時に熱破は最高潮へと達する。だが暫くすると熱気は少しずつ収束していき、あの荒れっぷりが嘘のように静かになっていった。


「……あれ?止まった?」

「どうやらダイダロスはヴォルトを主と認めてくれたようだな」

「マジか!やったねヴォル兄!」


 本人そっちのけで騒ぎ出す俺とフレイアに、ヴォルトは笑顔でたった今相棒となった紅い戦斧を見せて答えた。




「これでお前達の用事は済んだな」

「応!」

「はいさー!」

「……フレイ、お前それ(・・)いつ取ってきたんだよ」

「ヒ・ミ・ツ☆」


 隔離保管庫を出ていつもの奴ら(カインたち)と待ち合わせをしている会議室への移動中、俺はいつの間にかフレイアが隔離保管庫から持ち出していた一本の杖が気になっていた。何故なら俺もよく知っている代物だったからだ。

 魔杖カドゥケウス……魔法戦術団団長ミランダさんが所持していた杖だが古くはファルジオン王国建国時に宮廷魔術師を務めていた祖母……ウルスが持っていた杖なのだ。棒に二匹の蛇が巻き付いている装飾が施されているのが特徴的なコンパクトに作られた杖。かなりの年代物だが母の実家であるライオネル家で代々保管されていた事以外に出自等が一切不明だという。謎の多い杖だが祖母から母アリアに持ち主が移り、母が引退する時にミランダさんへと引き継がれていき、その過程でいつの間にか王国で一番の魔法使いが所有するというしきたりのようなものが出来上がっていた。使用者に膨大な知識と魔力を与えるという話で一流を自負する魔法使いならば是が非でも欲しい一品らしい。フレイアも昔からこの杖を欲しがっていたっけ……。


「その杖はお前の独断で所持していいものじゃなんだぞ」

「大丈夫!ロゼさん達からの許可は貰ってあるんよ~」

「なん、だと」

「おっ、ようゲイル。もう用事は済んだのか?」


 横の通路からロゼ・ユキメ・アンジュが顔を出す。ロゼはフレイアと持っている杖を見比べてウンウン頷く。


「どうやらちゃんと手に入れることが出来たらしいな。流石は最強の宮廷魔術師と言われたアリア様の娘だ」

「許可くれてありがと!サンキューロゼ姐!」

「いいってことよ。私やユキメは悠長に杖なんて構える性分じゃないし他の奴らも恐れ多くて使えないと言うときた。ならばちゃんと使いこなせる可能性がある奴が持っていた方が良い。フレイア、精進しなさい」

「まぁうちらは前でドンパチする担当やから偉そうな事言えへんやけどね~。ほな後ろはまかせたよ」

「頑張ってねフレイアちゃん!ケガしたらお姉さんにちゃんと言うのよ?」

「はい!」


 先輩であるロゼ達の激励に笑顔で答えるフレイア。こっちに来て暫く経つがフレイアもここの生活に馴染んできたようだ。少し前に行った温泉旅行が効いたのだろうか。そのあたりずっと心配していたので俺も心なしか笑顔になる。


「……なんだお前気持ち悪いな。徹夜明けでハイになってるのか?」

「うるせー。ガラにもない事やっちまっただけだ。まぁ買う手間も省けたし結果オーライだな」


 ロゼと憎まれ口を叩き合っていると目的地である会議室が見えてきた。その前に見知った顔がチラホラと確認できた。


「おっせーぞ前ら!俺は一番乗りでずっと待ってたんだかんな!」


 尻尾をビシビシ床に叩きつけながらカインが声をかけてきた。モズやミカ、そしてライラもいる。


「悪い。ちょっと寄るとこがあってな」

「……ああ、お前の弟(ヴォルト)が持ってるエモノ見てすぐわかったぜ」

「カインさんすみません!何の相談もなしに持って来てしまって」


 ヴォルトが開幕頭を下げ謝罪を入れた。ああやっぱり許可取ってなかったか……まぁ戻ってきてすぐだったしな。

 カインはヴォルトが持つ大戦斧ダイダロスをまじまじと見てから先程とは打って変わって穏やかな声で話しかけてきた。


「……ふん、ちゃんと制御できてるみてえだな」

「はい」

「……それはうちらの大将(グフタフさん)の魂そのものだ。大事に扱えよ」

「ありがとうございます!」


 カインはグフタフさんを尊敬していたからな……何か思う所があるのだろう。ヴォルトが一礼するとカインはそのまま会議室へと入っていった。それに続いてモズもヴォルトの肩に手を置くと何か呟きそのまま会議室へと消えて行った。


「多分聞こえなかったと思うから補足すると『頑張れ』って言ったんニャ」


 ありがとうミカ。お前の通訳なかったらマジで聞き取れなかったよ。お礼を言うヴォルトに手を振りながらミカも会議室へ入っていく。


「よし!これから作戦会議を始める。これで最後になる……勇者討伐会議だ!」

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