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勇者VS魔王……の配下(非戦闘員)  作者: 黒江
第五章 魔王の配下(非戦闘員)VS海賊団(勇者は食べ歩きしているのでいない)
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第五章03 スパイを探せ

「うーんおーいしー!ホント来て良かった!あ、おばちゃん御飯おかわりー!」


 港町ノミナミの南に位置する商店街。その一角、『お食事処のみな民』の店内に歓喜の声が響き渡った。


「このソードフィッシュの唐揚げも美味しいけどこのダシの効いたスープもいい味出してるね!」

「おお姉ちゃん良い食いっぷりだねぇ!俺も料理人冥利に尽きるってっもんよ!」

「おじさんありがとー!すっごく美味いよ!」


 笑顔の店主に向かって笑顔でサムズアップしながら答える勇者リザ。王国書記官ゲイルから貰ったメモ書きを頼りにノミナミへやってきたリザは今朝からノミナミの飲食店を巡っていたのだ。ちなみに『お食事処のみな民』は5軒目になる。


「この時期に来たって事はお嬢ちゃんも式典を見に来たのかい?」


 おかわりの御飯を持ってきた女将に聞かれリザは少し考え込む。そういえばここに来る前に街頭で何やら沢山の人が飾り物をしていたのを思い出す。


「違うよ。美味しい御飯が食べれるって聞いて来たんだよ。これ教えて貰ったメモ書きなんだ」

「へえそうなのかい。ありがたいがそれだけでこの時期に来るなんて珍しいねぇ」


 お昼時だが今店内にいるのはリザを含めて三人。他の客はひとりもいない。


「普段ならこの季節でも船乗りや町の自警団なんかが食べに来るんだがなぁ」

「?……何かあったの?」

「さっき港の市場へ買い出しに行ったご近所さんから聞いた話だと、近海でクラーケンが現れたって話だよ」

「……くらあけん?」

「でっかいイカの化物さ。あれが出ると船が襲われるし、周りの魚を食い散らかして漁獲量もどんと下がっちまうんだ。もう百年以上も出没しなかったんだが……」


 店主と女将は先程の明るい笑顔から一転、少し暗い顔になる。150年前に起こったクラーケン大量出現時での被害を知っているから不安なのだ。


「護衛の船も沈められちまったって話だし……また魚が取れない日が続いちまうのかねぇ……」


 二人の話を聞いているうちにリザにある疑問が浮かんできて、思わずそれが口に出てしまう。


「そのクラーケンって……美味しいのかな?」

「「……えっ?」」

「だってイカなら食べれない事はないでしょ?どんな味するかなぁ?」


 夫婦は不思議そうにリザを見た後、お互い顔を見合わせて笑い出してしまう。


「はっはっは!あのクラーケンまで食っちまおうなんてとんでもねえ豪気なお嬢ちゃんだ!」

「ふふ!いっそクラーケン捌いて町の名物にでもしてやろうかねえ!」


 さっきまで暗い雰囲気だった二人がいつの間にか元の明るさに戻っていた。リザとしては冗談のつもりではなかったのだが、二人が笑ってくれたのでそれで満足する事にした。

 食事を食べ終わり店を後にしたリザに新しい目的が生まれる。しっかりとした足取りで港へ向かって歩き出す。


「クラーケン……一体どんな味がするのかなぁ……楽しみ!」




「ゲイル、さっきの話は本当なのか?」


 空と海が茜色に染め上がった港町。その北側にある町の創設時に建てられたやや年季の入った灯台に俺とロゼ、ユキメの三人は人目を避ける為にやって来ていた。人気が無い所を選んだのだがこの灯台、崖の先に建てられたせいか北風が思い切り吹きすさび滅茶苦茶寒い。……早く帰りたい。


「ああ間違いない。あそこまで周到に待ち伏せされたんだ。こちら情報は筒抜けだと思った方がいい」


 ノミナミ近海で多発していた海賊騒ぎ。その調査に半ば強制的に参加させられた俺だったが先の海賊襲撃を受け、この騒ぎ……もしかしたらもっと根深いものがあるのかと考え始めていた。


「あの大イカ、貨物船には目もくれず護衛してた船だけ壊していきやがった。お前達が撃退してなかったら俺達が乗ってた船もやばかっただろう」

「うーん、こちらの戦力を削ぐのが目的か……?」

「詳しい事はまだ……今は憶測しか出来ないが、これから確信にするつもりだ」

「もう目星はついとるんやね?」

「ああ……ちょっとカマ(・・)をかけてみるつもりなんだが……そうだロゼ、良かったら協力してくれないか?」

「ん?私か?」

「多分俺がやるよりお前の方が良いと思うんだ……色々と」

「ふむ、そういうことなら私は一向に構わん!まかせるがいい!」

「よし、ではこの件については頼んだぞ…後は」


 ロゼ達と話が付くと、間をおかずにある男の名を呼ぶ。


「モズ、聞いているな」


 そう俺が呼ぶと音を立てずに黒ずくめの男が目の前に現れた。ファルジオン王国精鋭騎士団二番隊隊長のモズだ。


「「うわっ!ビックリした!」」


 俺とロゼは思わす声が出てしまう。何度も呼び出してはいるんだが、いまだにこれには慣れない。どこかで聞いてはいるだろうとは思っていたのだが、音もなく唐突に現れるんでわかっててもビックリする。俺なんかでは何度やってもモズの気配は読めないだろう。


「あらあらまぁ」

「モズも来ていたのか!……私も少しだけだが驚いたぞ!」

「一応念の為に俺の警護を頼んでたんだよ。さっきまで一緒に船にも乗ってたんだぞ」

「マジか」


 ロゼでも気付けない程モズのこうした暗殺者として培われた潜伏技能(スキル)は高い。それ以外にも諜報等といった裏の仕事をいくつもこなしてくれる頼れる存在だ。


「少し調べて欲しい事があるんだが」


 モズにここに来るまでに即興で書いたメモを渡す。


「 …… 」


 モズはそれを受け取り何か呟き頷くと、すぐこの場から掻き消えていった。


「去り際に何か言ってたみたいなんだが……聞き取れなかった」

「安心しろ。俺なんていつもそうだ」


 モズの声は極端に小さいんで滅茶苦茶聞き取りにくいのだ。まともに聞こえるのは耳の良い獣人のミカかモズと一緒に暗殺教団で技の鍛錬を積んだ部隊員くらいだろう。


「何を調べて貰うん?スパイの件?」

「近いけどちょっと違う。これから追々話していくよ」


 これから始めるスパイ探しとモズに頼んだ仕事、これらは後から繋がってくるのだがまず当面の目標はこのスパイ探しだ。


「よし!話も済んだし早く宿に戻ろう!ここくそ寒い!」



 

 ジリリリリ……

 

 定時のベルが鳴る。今日も何事もなく私の仕事は終わった。さてこれからどうしようか?いつもの酒場で酒を飲みながら夕食としゃれこむか。まっすぐ家に帰ってもいいがそれでは味気ない。……この町には娯楽が少ないのが欠点だな。そんな事を考えながら事務室を後にする。


「皆さん、お疲れ様です」

「お疲れ様ですアラゴさん」


 私の名はアラゴ・ジェロ。このノミナミ漁業組合で秘書官を任されている魚人マーマン。……というのは表の顔。本当の姿はザトー海賊団から派遣された間者……スパイだ。このアラゴ・ジェロという名も潜入の為に作られた偽名である。もう町に来てもう十数年と経つが俺がスパイだと気付く者は誰一人としていない。

 最初に船長からこの任務を知らされた時は驚いたが、一度仕事に就けば何という事はない。ここ(ノミナミ)は元海賊が築き上げた町というだけあって俺は着任するとすぐに溶け込んでいった。新しい職場にも慣れ、潜入の為に用意した新しい自分にも馴染んでいった。

 俺のスパイとしての仕事は町の様子を逐次報告するという簡単なものだ。……ハッキリ言って少し味気ない。今の俺ならこの町のあらゆる情報、技術を盗む事も難しくはない。それだけの信頼を勝ち取っているのだ。俺は優秀なスパイなのだからもっと大きな仕事をさせて欲しいものだな!

 俺の仕事はキッチリ滞りなく終わったが、海賊団(あちら)の方は上手くいかなかったみたいだな。予定では貨物船以外の船は全て沈める手筈だったのだが……一隻仕留めそこなったようだ。マッコイのおっさんも無傷で生還してきやがった。……あの暑苦しさは何年経っても慣れねェ。鬱陶しいんで船諸共沈んでくれた方が色々ありがたかったんだがな!


「貴公がアラゴ殿か?」


 組合会館中央の出入り口に差し掛かったあたりで不意に声をかけられた。そこにいたのはすらりとした肢体の銀髪のダークエルフ。確か名前は……。


「王国魔法戦術団のロゼ将軍ですね。私に何か?」


 記憶からすんなりと名前を出す事が出来た。一応派遣された王国の連中の情報は頭に叩き込んである。この強そうだが微妙にチョロそうな女魔法剣士は特に記憶に残っている。


「明日また船の手配をお願いしたいのだが」

「それでしたらまず組合長の許可がないと……」

「それなら大丈夫だ。ちゃんとおっさ……マッコイ殿からの許可証は頂いている」


 目の前にその許可証を出される。チッあのおっさんの直筆のサインが入ってやがる……本物なのは間違いなさそうだ。


「……わかりました。では」

「ああそれとマッコイ殿から今日進水した船を拝借しても良いと言われたのだが大丈夫かね?」

「ええ今日の朝に出来たばかりの船が3隻ありますね……ですが新規の物より他に性能が近い船があるのでそちらの方が良いのでは……?」

「マッコイ殿から新型の性能を是非試してきて欲しいと言われてな!」


 新造船という事は……まだアレ(・・)が施される前だ。くそ!また仕事が増えるではないか!残業なんてまっぴら御免だというのに……あのおっさん余計な仕事ばかり増やしてくれるな!


「そういう事でしたら手続きしておきましょう」

「うむ!よろしく頼むぞ!はっはっは!」


 それだけ言うとそのダークエルフは満足気に組合会館から出て行った。ふん……仕方がない残業になってしまうがやってやろう。アレ(・・)は……流石に今やるわけにはいかないな。やれやれ、こっちにも残業代貰いたいもんだぜ……。




 カツン 

  カツン

   カツン

    カツン


 日もどっぷりと沈んだ深夜の船のドック。誰もいないはずのドックに足音が響いてくる。数は一人。男の手にはバケツ一つ。その男……アラゴはゆっくりと確かな足取りでドッグの中を歩いていく。そしてある船の近くで足を止める。手に持ったバケツからハケを取り出し、船の側面に手をかけると手慣れた手つきである文字を書いていく。それが書き終わり悠々と鼻歌交じりに帰ろうとしたその時――。


「こんな夜更けに何をしていらっしゃるんですか?アラゴさん」


 唐突に呼び止められビクッと肩を震わせ振り返る。そこには数人の王国騎士団の兵士と一人黒ローブを纏った男が佇んでいた。


「……あ、ああいえこれは塗り残しがあったみたいで私が……」

「へぇ~最近の船はこんな所に付与魔法を施すのが主流なんですねぇ」


 黒ローブの男がこれみよがしに先程アラゴが文字を書き記した場所を指差す。こちらの思惑を見透かされたと判断したアラゴの顔はみるみる蒼白になっていく。暫くの静寂のち、アラゴは男達を背に全力で逃走を図る。


「そっちに行ったぞ!ユキメ!」


 完全にハメられた!……そう気づいた時にはもう遅かった。アラゴの頭はパニックに陥ってしまい正常な判断が出来る状態ではなくなっていった。一刻も早くこの場から逃げなければ……!その一点だけがアラゴの脳内を支配していった。そんな状態で目の前に現れた白い小柄の人影を気に掛ける余裕はなかった。


「どけえええええ!!!!!!」

「はいな~」


 目の前の人影を吹き飛ばそうと仕掛けた体当たりがあっさり避けられる。


「でもまぁそろそろ……止まりなさいな。……凍れ『氷河の古戦場(アイスフィールド)』」


 ユキメとすれ違いそのまま逃げようとしたアラゴは、そのままタックルの姿勢で動かなくなった。ユキメから発せられた魔法の冷気は地面を伝いアラゴの足から腰までを完全に凍り漬けにしていたのだ。

 口上魔法は声量の他に魔力を言の葉に乗せる性質上、呪文に使う言葉の数が多ければ多い程威力が上がる。しかし戦場でそんな長い詠唱なぞしてたら隙だらけで敵の良い的になってしまう。また長い詠唱で唱えた呪文は威力は高くなるがヘタに威力が高過ぎると自分や周りの味方も巻き込んでしまう。その為、詠唱はだいたい手頃な数の言葉に落ち着く。ある程度言葉の数をいくつか決めておき、状況によって使い分ける形が口上魔法の戦術的な基本となっている。今回ユキメは船上でクラーケンに放った時と同じ魔法を使ったが声量も言の葉も最小限に抑えた為、この威力に留まった。


「まぁこんなもんやね」

「流石だなユキメ」


 王国兵士達に介抱されそのまま連行されるアラゴを眺めながらローブの男、ゲイルはユキメに話しかける。


「あんたさんはなんでそんなローブ羽織ってるん?別に素顔出しても問題なかったんに」

「一応念には念をね。まぁ俺も見た目で判断されがちだがらさ……」

「あーそれもそうやねぇ」

「はっはっは!どうだね私の演技力はー!」


 二人の会話に後からやってきた笑顔のロゼが割り込んできた。すごく誇らしげだ。


「完璧だったろう!スパイめまんまと騙されておったわ!……所で今何の話をしていたんだ?」

「えーっと……なんて話たらいいか……ねぇ?」

「ロゼはチョロいと思われてるって話~。あのスパイ野郎に」

「なん、だと」


 上機嫌だったロゼの顔がみるみる赤くなっていく。ヤバいと感じたのかゲイルは一歩後退りしていた。


「そうかそうかなるほどなるほど……私を舐めた報い、死ぬほど後悔させてやろうじゃないか……!」


 連行されたアラゴの後を追い去っていくロゼ。この後何が起こるのかは想像に難くない。


「うーん……あそこまでするつもりはなかったんだが……死ぬなよスパイ」


 片手で神に祈るポーズを取りながらゲイルは、ケタケタ笑うユキメと一緒にロゼの後を追い夜の闇に消えて行った。……この時ユキメも怒っていた事にゲイルが気付くのは大分先の話である。




 港町ノミナミに到着してから3日目の朝がやってきた。朝日が昇りきる頃には決着は着いていた。


「良かったねー死人が出なくて」

「そやねー」

「……元々お前が焚き付けたんだけどねアレ」


 漁業組合会館に設置されている取調室(普段は休憩室として使われている)から黒焦げになった一人の魚人が病院に運ばれていった。……一応あれでも生きてるらしい。魚人ってすごいね。


「ふん!あれでも手加減してやったのだぞ。あのスパイ……どこかの蜥蜴野郎より歯応えがなくてつまらん!」

「あの焼き魚状態はとても手加減してる様には見えなかったんだけどな……」


 取調室での様子を思い出そうとして思わず踏み留まった。……あれを思い出したら朝飯は焼き魚定食に決定してしまう。


「まぁ必要な情報は手に入った!やはり海賊団やつらの目的は寄贈船だったではないかゲイル!」

「うーん……」

「まだなんか腑に落ちない所があるんやね?」


 ユキメに聞かれ頷く。取調べ中アラゴはロゼに脅される形になったとはいえ嘘を突いているようには見えなかった……あの必死の形相はちょっと憐れに思えたくらいだ。……というかもっと自白させるのに時間がかかるものと思っていたので俺は少し拍子抜けしてしまっていた。


「ちょっとあっさりし過ぎな気がするんだよなぁ。あれほど手の込んだ事してたのに」


 俺は昨晩のアラゴの行動を思い出す。奴が描いていたのは魔法陣……付与魔法だ。

 付与魔法は口上魔法と並ぶこの世界で最もポピュラーな魔法の一つ。書いた文字に魔力を乗せて紡ぐ魔法だ。その応用力の高さから戦闘から日常生活にまで多く普及している。なんせ文字を書いた後は誰が使っても魔法が発動するのだから。戦闘では鎧や武器に書き綴って性能を向上させたり、書いた文字を障壁代わりに展開し安全地帯を確保したり、敵が近づいてきた時に発動する罠のような使い方も出来る。日常生活では夜に街の明かりとして街灯に使われたり調理場で料理を調理する時に加熱する焜炉として使われたり多くの付与魔法が日常生活に溶け込んでいる。いいことづくめなようだが一応欠点はある。あまり効果が強すぎると付与魔法が書かれた物そのものがその力に耐え切れず、破壊されてしまうのだ。そのあたりの調整も含めて魔法使いの腕の見せ所だ。

 アラゴが書いていた付与魔法は『特定の条件下になると発光する』というものだった。


「あの付与魔法はノミナミの船で戦列艦だけに描かれていた。これは俺の憶測でしかないんだが……あのクラーケン、あんまり細かい指示は難しくて聞けないんじゃないかな?だから船を襲う時は『あの光ってる船だけ攻撃しろ』という分かりやすい命令が出されてたんだと思う」

「ほほう、なるほどなー」

「あとスパイ野郎が付与魔法を新たに書き記したということは……まだ奥の手(クラーケン)があるんだろうよ」

「そうだろうな……だがまかせろ!何匹こようが私とユキメの魔法でぶっ倒してくれる!」

「そうだね……」

「ゲイル……あんた疲れてるんやない?船上にいる時も船員救助とかで結局寝てなかったもんなぁ。後はうちらにまかせて少し休んどき」

「……ああすまん。よろしく頼むわ」


 後処理をユキメ達にまかせて俺は宿に向かうことにした。取調べが終わった辺りからちょっと眠気がひどかったからこれは……ありがたい。帰路の途中、巡回してた兵士から『港で黒髪の変な女がクラーケンについて嗅ぎまわっている』という報告を受けたが、徹夜で頭が回らなかったせいかとりあえず様子見という形にしておいた。……勇者あいつ何やってるんだろう……?




宿に着いたあたりで俺の記憶はなくなっていた。気付いたら予約を取っておいた客室のベットで仰向けになってい寝ていたようだ。どれくらい寝たんだろう……とりあえず目の前にいる男に聞いてみよう。……ん?目の前にいる……男?


「……普通にビックリするわ!」


 ゆっくりと起き上がり男、モズへと話しかけた。何か言いたげな視線せを向けるモズ……いや実際何か言ってるみたいなんだが聞き取れないんじゃ意味がない。


「お前が来たって事は……頼んでおいたモノ、出来たんだな?」


 モズは頷くと懐から分厚い紙袋を取り出すと俺に手渡した。紙袋から紙の束を取り出すとパラパラとめくっていく。それを全て確認し終わると、俺の憶測は確信に変わっていた。


「ありがとなモズ!これで勝てる!」

「 …… 」

「それとすまない……あともう一つだけ頼まれて欲しいんだが」


 モズの了解を得た後、俺はその足でノミナミ漁業組合へと向かう。外はもう夕暮れ時だった。道すがら時間を聞いてみると、どうやら俺は丸一日寝ていたらしい。

 漁業組合会長室へ行くとそこには……上半身裸で筋肉トレしてるおっちゃんがいた。……何故!?


「……なにしてるの?」

「これは……何を隠そう!日課のトレーニングですぞー!」


 うんわかってた。あと何も隠れてねぇから!とりあえず話をしよう……ちょっと汗臭いなこの部屋!

 俺は言葉を改め話し始める。


「この間はすみませんでした。勝手に私達でスパイを捕まえてしまって」

「いえいえ!こちらとしても手間が省けて大助かりでしたぞ!」

「……という事はやはり気付いてたんですね。スパイに」

「ええ!情報漏洩を警戒していたのですが……その気配が全くなかったので、とりあえず秘書としては良い仕事をしていてくれたので現状維持という事にしておいたのです!」

「まぁそれならいいんですが……では本題に入りましょう」


 俺はモズが調査した資料をおっちゃんに渡した。それを見ていたおっちゃんの顔がページをめくる度に船の上にいた時のような険しいものになっていく。


「……これは本当なのですがゲイル殿?」


 無言で頷く。その資料をおっちゃんが全て見終わったのを見計らって俺は話を切り出した。


「それを踏まえて少し頼みたい事があるのですが、よろしいですか?」

「……ええなんなりと」

「式典は予定通り開催して欲しい。もう海賊やつらに邪魔はさせません。我が国の威信もかかってるので」


 式典まで残り3日。出来る限りの準備をしよう。

 当日が勝負の時だ。



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