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勇者VS魔王……の配下(非戦闘員)  作者: 黒江
第五章 魔王の配下(非戦闘員)VS海賊団(勇者は食べ歩きしているのでいない)
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第五章02 深淵からの襲撃

 まず異変に気付いたのはセロス号の操舵士だった。走行中、突然舵がきかなくなり船はブレーキがかかったかのように停止してしまった。


「どうした!?何故止まった?」

「駄目です!舵が全く動きません!ま、まるで何か大きな力に引き留められているようで……」

「……何か船の下にいるのか」


 セロス号船長であるカロンは操舵士の報告を聞くとこの状況を冷静に分析していた。カロンはノミナミ漁業組合の中でも確かな判断力とリーダーシップで船員や会長であるマッコイにも信頼されているベテラン船乗りだ。その船乗りとしてのカンが船が止まった辺りから大音量で危険信号を発している。


「砲手以外の中にいる乗組員、王国兵士を全員甲板へ退避させろ!砲撃担当は引き続き警戒態勢を崩すな!」

「「「「「アイアイサー!!!!!!」」」」」


 慌ただしく動く船員達。それを見ながら船長カロンは、この事態は自分の手に余るものではないかと感じていた。……嫌な予感がする。こと船上の事に関してはカロンのカンは外れた事がない。いまだに頭の中を響いてやまない警告音。カロンはこのカンが外れて欲しいと今日だけは願ってしまう。

 だがその願いは最悪の形で裏切られる事となった。

 

 ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!


 轟音と水飛沫……それが収まるとだんだん見えてきた巨大な柱……それを間近で目撃したカロンは戦慄し思わず息を飲んだ。


「こ、こいつは……まさか……!」




「く、クラーケンだあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 俺が搭乗している船、アルバ号の船員達がその異形の姿を見て一斉にどよめき慄いた。クラーケンといえばドラゴンにも匹敵する海の怪物だ。だがここ150年ファルジオン近海で目撃情報等は一切なかった……それは俺も海洋調査書に目を通して確認済みだ。だが目の前に現れたそれは物語や書物で書かれている紛れもないクラーケンそのものだ。


「な、なんでクラーケンが!?大討伐で駆逐したはずじゃ…!?」


 150年程前にファルジオン近海でクラーケンが7匹現れ暴れ回った事件があった。数としては7匹と少なく感じるが、これだけ巨大な生物が7匹も暴れたのだからたまったものではない。当時のノミナミ漁業組合は壊滅的な打撃を受け、この事態を重く見た魔王ファルジオンは自身が陣頭指揮を行い王国精鋭騎士団と大船団を投入しクラーケンの駆除に取り掛かった。この大討伐には魔王様の他にうちの父上や母上も参加していたそうだ。激しい戦闘の末、クラーケンは全て倒されそれ以降ファルジオン近海でのクラーケン目撃情報はない。


「大方他所の海から引っ張ってきたのでしょうな……あの海賊共が」

「おっちゃん!この戦力でクラーケンは倒せるのか!?」

「この護衛艦はこういった事態に対処する為に建造された最新式の船!4隻全てに新型の大砲を搭載しているのです!巨大イカなぞに負けはしませんぞー!」


 そんなやりとりをしている間に、セロス号はクラーケンの触手に絡まれ船の半分も見えなくなってしまっていた。


 ……ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィ………!


 ……何かが潰れる鈍い音が響いてくる。


「野郎!船を潰すつもりか!」

「船長!こっちも大砲で迎撃しよう!」

「そうしたいのは山々なのですが……それではセロス号が……!」

「くっ……!」


 ロゼもこれにはぐうの音も出ない。船が潰れる音もどんどん強くなっていく。万事休すか……と思ったその時だった。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!


 突然セロス号から爆発音が響いてきた。セロス号はクラーケンと一緒に黒い煙に包まれる。


「な、なんだ!?爆発!?」

「どうやらセロス号が仕掛けたようですな!あの超近距離からの砲撃ではクラーケンもタダでは済みますまい!」


 セロス号最後の抵抗によってクラーケンは倒された……かのように見えた。


「なん、だと……!」


 煙が晴れ見えてきたのは先程までと変わらずセロス号に張り付いたままのクラーケン。所々焼け焦げているようだが全く致命傷にはなっていなかった……それどころか――


「傷が治っていく……!?」


 大砲によって出来た傷、火傷が見る見るうちに塞がっていく。どんだけ再生能力あるんだあのイカ!そして傷が全部塞がった頃にはもう奴の仕事は終わっていた。


 バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキィ!!!!!!!!!!


 あらゆる所が無残に砕かれセロス号はそのままクラーケンと共に冬の海へと沈んでいく……。


「くそ!間に合わなかったか……!」

「船員は……皆無事か!?」


 船が沈没する少し前に船員や乗っていた王国騎士団員等は脱出していた。もう少し遅ければ船と運命を共にしていただろうに……船長の咄嗟の判断のおかげだ。だがこれで終わりではない。


「次はトルーパーか!」


 セロス号が沈没した辺りからから黒い影がものすごい速さで4番艦であるトルーパー号へと迫っていった。


「これ以上船を破壊させるな!撃て!」


 マッコイの指示によって残った船3隻から大砲の雨が迫るクラーケンへと降り注ぐ。セロス号が襲撃された時に陣形を変えていたおかげで大砲の有効射程距離へとクラーケンを誘い出す事が出来たのだ。だが……。


「速い……!」


 砲弾の雨の中でもクラーケンも速さは全く変わらない。むしろスピードが更に上がり新型魔術機関(エンジン)搭載の船に今にも追随しかねない勢いだ。これでは逃げる事も出来ないではいか……!


「駄目だ!追いつかれる!」

「あのクラーケン……以前戦った個体よりも大きさ、力、速さも段違いですぞ!まさかこのようなクラーケンが出ようとは……」

「あのクラーケンが特別強いのか……それとも強化されている……?」


 おっちゃんの言葉に俺は考えを巡らせる。あの海賊が何かしらの方法でクラーケンを手懐け、更にクラーケンを強化しているとしたら……だが状況証拠だけで仮説の域は出ない。情報が少なすぎる……!まずはここから生きて帰らなければ……。

 そうこう考えいる間にトルーパー号がクラーケンに捕まりセロス号のように圧壊されようとしていた。セロス号の末路を見ていたトルーパー号の船員達も最後の抵抗を試みるがクラーケンにはダメージを与えられない。船員達が脱出した後すぐ、船は海の藻屑となって沈んでいった……。


「大砲も効かないんじゃどうしようも……おっちゃん!前の大討伐の時はどう戦ってたんだ!?」

「魔王様が剣を振っただけでクラーケンがスパスパ斬れて退治出来たのですぞ!」

「くっそー!参考にならねぇー!」

「わしも海賊やんちゃしてた頃は銛で倒したこともありますからな!」

「そっちも大概だよ!」


 頭を抱える。あの勇者といいこれだから強キャラは……!こっちの試行錯誤の先をあっさり飛び越えていきやがる。あれこれ考えなきゃならないこっちの身にもなって欲しい。

 そんな時、水飛沫を上げて沈んだトルーパー号の先に見覚えのある船影を見つけてしまう。あれは……貨物船!退避させていたはずなのに、クラーケンとの戦闘で気付かないうちに俺達はここまで流れてきてしまったようだ。最新鋭の護衛船でも太刀打ちできないクラーケンに襲われたら貨物船などひとたまりもない。まずいぞ……!俺が話しかけるより先に、おっちゃんは船員に指示を出し船を動かしていた。……だがクラーケンはこちらの考えとは全く違う動きを見せてきた。目と鼻の先にいた貨物船には目も暮れずに貨物船を守ろうと旋回していた2番艦のクローディア号へと向かっていったのだ。距離的には遠いはずなのに。何故だ……?


「あいつなんで貨物船を狙わなかったんだ……?」

「今はそんな事言ってる場合じゃないぞゲイル!」


 砲撃で応戦するも全く効かず、あっという間に追いつかれクローディア号もクラーケンによって破壊されようとしている。最新式の船が3隻もこの短時間で破壊されてしまうとは……あのクラーケン……想像以上に恐ろしい怪物だ。


「大砲も効かない、逃げる事も出来ない……どうしろってんだ」

「しからば……最後の手段を!わしがこの銛でぶっ倒してみせますぞ!」


 船の武器庫からやたら大きな銛を携えやってきたおっちゃん。エラを立て真剣な顔つきのおっちゃんだが、昔のクラーケンならそれで倒せたかもしれないが……新型の大砲も効かなかったあのクラーケン……とりあえず新クラーケンと呼称しておく……あいつにはそれでも太刀打ちできそうには見えない。


「船長……残念だがあんたの出番はないよ」


 俺やおっちゃんの前に乗り出してきたのは……ロゼとユキメだ。


「最後に狙われるのは私たちが乗っているこの船だ。迎撃して時間を少し稼いでくれ」

「うちらの魔法で倒しますさかいに。よろしゅうな」


 自信満々に告げるロゼ達。大砲も効かなった怪物に魔法が通じるのだろうか?それに……。


「大砲より射程が短い魔法で倒せるのか?ロゼ」

「ええ……大丈夫よ問題ない」


 この世界の魔法……いくつかあるがその一つ、口上の詠唱から発せられる魔法には限界がある。それは声帯……どんなに強い魔法力を持っていても声が届く範囲にしか魔法が行使できないのだ。これは口上魔法の宿命のようなものでこの欠点をなるべく緩和する事と射程距離向上の為に魔法使いは発声練習を常に欠かさない。うちの妹もよくやってたな……夜にやられるとすごく困るんでなるべく明るいうちにさせてたっけ。声の届く距離はロゼの場合だいたい400ミール(400m)ちょい、エルフの成人男性が平均300ミールだからロゼはかなりの肺活量だという事がわかる。だがそれでもこの最新式の大砲、カルバン砲の射程1000ミールには及ばない。あとどんなに射程が長くなっても、媒介である声は遠くなればなる程小さくなるので魔法の威力も必然的に弱くなっていく。その性質上、口上魔法の有効射程範囲は平均50ミール程となっている。


「ふん……勇者を倒すべく作り上げた最新魔法、ここで試し撃ちさせてもらうぞ!」

「おーおーやっぱ早いなぁあのイカさん。もう来よったみたいよロゼ」


 そう言ってユキメが指差す先にはクローディア号を沈め水飛沫を上げながら怒涛の勢いて突き進んでくる新クラーケン。アルバ号の砲撃をかいくぐり船へ肉薄してくる。海面から放たれた大きな触手がアルバ号へと襲い掛かる。


「まぁまぁ……ちょい待ち」


 急にドスの効いた声を出したユキメから近くにいると凍え死にそうな程の冷気が迸る。……本当に凍え死にそうなんで俺とおっちゃんは少し離れて見守る。


「凍てつき彩るは寒獄の戦場いくさば――『氷河の古戦場(アイス・フィールド)』!」


 アルバ号へと伸びていた触手がピタリと止まった。触手から新クラーケンの本体、そしてその周りの海が一瞬で凍り付く。普通の魔法使いが使うと足止めくらいにしかならない魔法だがユキメが使うと生けるもの全てを凍死させかねない極寒の檻と化す。だがそれでも……そんな状態になっても新クラーケンの動きは完全に停止させることは出来なかったようだ。凍った表面から亀裂が入りそれはどんどん大きく広がっていく。


「あらあら暴れん坊なイカさんやねぇ」

「そうでなくては試す価値もない……いくぞユキメ!」

「はいな~」


 ロゼとユキメ二人が新クラーケンの前に乗り出す。辺りから激しい稲光と荒れ狂う吹雪が吹きすさび、魔法も知識としてしかなく魔力も殆どない俺でもこれから使われる魔法がとんでもなくヤバいという事を肌で感じていた。おっちゃんもそれを感じたのか慌てる船員達に指示を出していく。


「全てを穿つ獄死の氷柱――」

「全てを射抜く直死の雷光――」


 詠唱と共に稲妻が光り輝き二人の頭上に大きな氷柱が形成されていく……それも一つだけではない、何十何百もの巨大な氷柱が辺り一面に作られていく。その光景は王国弓兵隊の一斉射撃よりも壮観に思えた。


「「刺し砕け――『氷帝の電気棺スノウホワイト・サンダーメア』!!」」


 高らかに詠唱が紡がれると同時に無数の巨大な氷柱が氷漬けの新クラーケンへと一斉に射出されていく。それらは真っ直ぐ、そして確実に新クラーケンの体へと突き刺さっていく。


 グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!?!??!?!!?

 

 無数の氷柱が刺さり新クラーケンから悲鳴にも似た鳴き声を上げる。そして――。


 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!


 刺された氷柱が一斉に爆発した。新クラーケンの周りに稲妻の柱が立ち昇っていく。あまりの威力に回避行動を取っていた船が衝撃で出来た大波で煽られ転覆しそうになる。


「ぎゃあー!死ぬー!」

「だ、大丈夫ですぞー!ノミナミの造船技術は世界一なのでこの程度の衝撃なぞー!うおおおおー!!!」


 衝撃で船から飛ばされそうになったが、おっちゃんが盾になってくれたおかげでなんとか耐える事が出来た。

 衝撃が収まるとそこには……黒焦げのさっきまでクラーケンだった何かが浮かんでいた。大分離れたはずなのにこっちにまで焦げ臭い嫌な臭いが漂ってくる。


「ロゼ、今の魔法は……」

「言っただろう。対勇者用に私とユキメとで完成させた合成魔法だ!この魔法はだな……」

「氷柱一つ一つに雷の力を内包させて突き刺さった瞬間、内部でその力を解放したんだな……あれではクラーケンでもひとたまりもないだろう」

「うんうんその通り……あれ?私がこれから説明しようと思ってたのにあっさり解明されてるー!?」

「凄まじい威力だが……あんな近くで使うなや!おっちゃんが機転効かせてくれなかったら船までぶっ壊れてたわ!」

「まぁ接近してもらわな当てられへんしねぇ。あと……実は練習してた時より魔法の威力落ちてるみたいなんやわぁ」

「あれでかよ……」

「まぁちょっと気になる所はあるが倒せたしいいではないか!はっはっは!」


 高笑いを始めるロゼとやれやれと言った感じでそれを見るユキメ……はとりあえず置いておいて周辺の安全を確認した後、沈没した船の救難者を助ける作業に参加する。いつの間にか霧も晴れ夜空にはいくつもの星々が光り輝いていた。もちろんそんなものを眺めて楽しむ余裕なんて全然なかった……。




「酷い目にあった……」


 ノミナミに戻ったのは次の日の昼頃。約一日海の上にいた事になる。何故こんな早く戻れたかというと、貨物船の輸送は中止になったのだ。沈没した船の救難者で満杯の今の状態では海賊やらモンスターの襲撃には対処が難しいと判断したからだ。一日しか経ってないのに陸の上がやたら懐かしく感じてしまう。

 船から下りると早速今の状況を整理する。あれだけ派手な襲撃だったのにもかかわらずこちらの被害は船3隻のみで死者は一人も出なかった。海の上での戦いを想定して魚人マーマン人魚マーメイド等を中心にした兵士達を配備したのもあるが……それ以外にも色々腑に落ちない所がいくつもある。なぜ海賊団やつらはクラーケンのような怪物を飼い慣らせる事が出来たのか?しかも従来の物より強力な個体を。そして今までの襲撃では使わず何故このタイミングでクラーケンを投入したのか?何故クラーケンは貨物船を狙わずに護衛船だけを狙ったのか?そもそも本当に海賊団やつらの目的は寄贈船なのか?謎が増えるばかりだ。


「ゲイル、これからどうする?」


 俺のあとすぐに船から下りてきたロゼに尋ねられる。これからまずやらなければならない事。それは――。


間者スパイを見つける。詳しい話はそれからだ」

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