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勇者VS魔王……の配下(非戦闘員)  作者: 黒江
第一章 勇者VS魔王の配下(初遭遇)
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第一章01 勅命

 厳粛な空気の中、玉座の間で俺は我が王の言葉をただ待っていた。

 我が王……魔王はただ一言告げた。


「勇者を……討て」


「御意」



 玉座の間を後にした俺は扉を背に誰にも聞こえないよう小さい声で呟いた。


「どうしよう……マジで」


 俺の名はゲイル・クロウ。魔族出身のしがない魔王配下の書記官だ。着ているこの黒いローブは書記官用の特注なんだが、何年も同じローブを着続けたせいで……すごくしょぼくれた。黒髪の中肉中背、魔族特有の角は二本で一般魔族より小さい……もとい、ほんのちょっとだけ小さい。少し目つきが悪い、どこの国にもいそうなごく平凡な文官……そんな俺に何故か勇者討伐の勅命が下ったのだ。そりゃ焦る。

 ……だって俺文官だよ!?非戦闘員だよ?なんで俺にそんな……意味がわからない。


「いくら三将が敗れたからって次に勅命が下るのが俺なのかよ……」


 俺はこの勅命が下る少し前…意気揚々と勇者討伐に向かう将軍達の雄姿を思い出していた。




 ファルジオン王国……魔王ファルジオンが治めるこの国は幾度となく人間による襲撃を受けてきた。この大陸でも屈指の魔王である我が王は人間達にとっては脅威そのものなんだろう。だが派遣される勇者達や騎士団を王国が誇る将軍達は幾度も退けてきた。

 だから今度の勇者も将軍達が倒してくれると俺は信じて疑わなかった。


 国境を監視している兵士が報告してきた内容はいつもの魔王討伐隊の話とは少し毛色が違ってた。


「一人……だと?」

「旅行者か何かじゃないの?」


 会議室でその報告書を見た将軍達は口々にそう言った。俺も最初見た時は何かの冗談かと思った。


「いえ…スタンリバー王国から派遣されたれっきとした討伐隊とのことです……調査隊が確認しています。」


 スタンリバー王国は、ファルジオン国に一番近い人間の国である。一番近場にいる魔王である我が王を恐れたスタンリバー王国は幾度となく勇者や騎士団を魔王討伐に派遣してきた。……今まで全部返り討ちにしてきたわけだが。


「スタンリバーに雇われた暗殺者なのでは?」

「しかしこんな堂々とした暗殺者がいるのか……?」


 この討伐隊には歴戦の将軍達も困惑していた。何千何万人もの軍隊を相手にしてきた将軍達にとっても初めての事なのだろう。そんな中一人の将軍が名乗りを上げた。


「面白い!勇敢かただの阿呆か、この俺が見極めるてやろう!」


 この蜥蜴の大男……グフタフは王国の主力部隊である精鋭騎士団を率いるリザードマン族の将軍だ。『魔王の戦斧』と言われ、その巨躯から繰り出される攻撃は、敵を畏怖させ味方を鼓舞する頼れる熱血漢だ。……ちょっと酒好きなのが難だが。

 俺は戦支度をしているグフタフに話しかけた。


「グフタフさんが出るんならすぐ終わってしまいますな!」

「はっはっはっ!首尾良くやってのけること期待してろよゲイル!」


 グフタフは精鋭騎士団の兵士達を連れて悠々と出発していった。



 グフタフの戦死が報告されたのはその数日後のことである。

 将軍グフタフの戦死報告書を、俺は信じられない面持で見つめていた。あんなに強かった将軍が……。作る酒の肴がめっちゃ美味かったグフタフさんが……。少し泣く。

 亡骸は王国裏にある墓地に丁重に葬られた。


「あのグフタフ将軍がやられるなんて……」


 会議室はこの衝撃の事態にどよめいていた。将軍が負けるなんてこと、俺が王国に着任してから経験したことがない。そんな中一人の将軍が声を上げた。


「相手が一人だからって油断しすぎたのよ……グフタフは!」


 発言した女将軍ミランダはファルジオン王国屈指の魔法使いである。『魔王の炎』と恐れられるほどの炎魔法の使い手で、その魔法で焼き尽くした敵は数知れない。得意な料理は焼きもの全般(本人談)。……よく炭になってたのは内緒だ。


 「私がグフタフの仇を討ってやるさね!」


 準備を済ませ、出撃するミランダに俺は涙ながらに懇願した。


「ミランダさん!気を付けてください!勇者は相当の手練れです!」

「グフタフの報告書なら私も見たわ。大丈夫よ……勝算はあるわ」

「……グフタフさんの仇……お願いします!」

「そうねゲイル……帰ったら追悼と討伐祝いに料理を振る舞ってあげるわ!」



 ……女将軍ミランダが王城に帰還することはなかった。

 ミランダさんは炎鳥族だから死んだら灰になるんだったっけ……。そんな事を思い出しながらミランダさんの戦死報告書をぼんやり眺めていた。

 城内は二人も将軍が討たれた事により、いよいよ混沌と化してきた。俺もそろそろ自分の身の振り方でも模索しようかな……せっかく頑張って勝ち取った城勤めの仕事だったんだけどなぁ……。などと考え始めた時、城内に凛とした声が響いた。


「魔王ファルシオンの臣下たるもの、これくらいで動揺していかんとするか!」


 近衛騎士団長レイリー。見た目からしてイケメンなこの方は若くして近衛騎士団長となった天才剣士だ。『魔王の盾』と言われ王国の守りの要として職務に従事している。兵士達への気配りも忘れず、国民からの人気も高い。外も内もイケメンとかマジでまいるね……。俺もよく御飯を御馳走になっていた。本当にありがとうございます。マジ助かってます。


「勇者はこの私が必ず討ち倒して見せよう……我が王の名に懸けて!」


 あれだけ暗かった城内の空気が一気に変わった。流石レイリーさん!俺は自分の身の振り方を考えていた事を悔いた。


「レイリー様!勇者討伐、よろしくお願いします!」

「あなたなら出来る!うおー魔王様バンザーイ!」

「キャーレイリーさまー!」


 臣下の皆が口々に称賛の言葉を浴びせる中、近衛騎士団長レイリーは颯爽と勇者討伐へ出発していった……。



 俺の元に魔王様から勇者討伐の勅命が下る4日ほど前の話である。




 皆いい人達だった……。主に食べ物関連の思い出しかないような気がするが気にしないでおこう。

 勅命も出たし、……やるしかないか。

 やっと決意を固めた俺はや玉座の間前から歩き始めた。


 勇者と魔王……の配下(非戦闘員)の長いような短いような戦いの日々の始まりである。

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