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勇者VS魔王……の配下(非戦闘員)  作者: 黒江
第三章 勇者と魔王の配下(非戦闘員)
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第三章03 思い出

 ファルジオン王国書記官ゲイル・クロウはファルジオン王都北部ミコモ地区で産声を上げた。

 父はアスマ・クロウ。この長身の大男は、ファルジオン王国に降りかかる危機を幾度となく救ってきた英雄で、決して恵まれた環境や家柄ではなかったが王国騎士団団長まで上り詰めた。

 母はアリア・クロウ。旧姓はライオネル。赤い髪が良く目立つ美女で、ファルジオン王国宮廷魔術師長にして王国の守護神とまで恐れられた女傑だった。

 当時二人の交際は王国の一大事トップニュースとなり、二人の間に子供が生まれた時は王国総出で祝福された。

 二人の間に生まれたゲイルは国民から大きな羨望と期待の目を向けられ、ゲイルもまた両親の期待に応える為に幼少期から鍛錬と勉学に励んでいた。しかしやる気とは裏腹にゲイルは二つの大きな壁にぶち当たる事になる。

 最初に判明したのはゲイルには魔法の素質が全くなかった事だった。魔法を行使する際に使用される魔法力マジックポイントと呼ばれる物は生まれながらに決まっている。修行や鍛錬などである程度は伸ばす事は出来るがそれでも限界はある。ゲイルの魔法力マジックポイントは極端に低く、いくつかの比較的初級の魔法を行使しただけですぐ枯渇してしまう。母から譲り受けるはずだった力は、ゲイルにはなかった。

 そしてもう一つの壁は身体能力。ゲイルは英雄と呼ばれた父に憧れ、父のような戦士になりたくて毎日鍛錬をかかさなかった。しかし常人より数段劣る身体能力は毎日何年鍛錬に励んでも全く改善することはなかった。両親から何も受け継ぐ事が出来なかった事実は少年ゲイルの心を大きく傷つけた。何よりも辛かったのは、こんな駄目な自分に当たり前のように家族として接してくれる父と母。少年ゲイルの心は情けなさと申し訳なさでいっぱいになった。

 

 誰にも相談できず鬱屈した毎日を送っていたある日、ゲイルは意を決して父アスマにこの胸のうちを話すことにした。


「どうしたゲイル?こんな夜中に」


 長い遠征から戻ってきたアスマは久々の我が家で自室に一人休んでいた。


「父上、お話したい事があるのですが」

「おお!悩み事か!なんでも相談に乗るぞ!バッチコイだゲイル!」


 やたらオーバーアクションで受け答える父アスマ。


「あー!わかったぞゲイル!恋……だな!恋の悩みなんだな!とうとうお前にも好きな女の子が出来たんだなー!父ちゃん嬉しいぞ!」

「いえ、そういうのではなく」

「えー違うのー?」

「あっても父上でなく母上に話すと思います」

「そっかー……」


 あからさまに落ち込むアスマ。と思ってたら急に椅子から立ち上がる。


「だが!お前の悩みとならどんな事でも聞き届ける所存だぞ!」

「そうですか」


 この父のテンションの落差に若干疲れを感じながらゲイルは話し始める。


「毎日欠かさず鍛錬してきました」

「そうだな!頑張ってたなゲイル!」

「毎日勉強しました」

「そうだな!お前学校の成績すごく良いもんな!」

「でも僕には才能はありませんでした」

「そうだな!それはしょうがないな!」


 あっさり認めるアスマ。みるみる落ち込んでいくゲイルを見て慌てて訂正する。


「ち、違うぞゲイル!別にお前に期待してなかったとかそういうわけじゃないんだからな!」


 なんとかゲイルを落ち着かせるとアスマは語り掛けるように話し始めた。


「お前が俺のようになりたいと言ってくれているのは知ってる。正直嬉しいぞ。だがな、俺のやっている事は命を懸ける仕事だ」


 ゲイルの頭をポンポン叩く。


「子供にそんな命懸けの仕事なんざさせたくないんだよ。親としてはな」


 ゲイルを自分の座っていた椅子に座らせる。ただ俯いて静かに聞くゲイルにアスマは急におかしな話を切り出した。


「じゃあここで問題!父ちゃんが子供の頃なりたかった職業はなんでしょうか?」


 突然質問をぶつけられてゲイルは少し困惑するが、暫く考えてから恐る恐る答えを出した。


「剣闘士……いや魔法剣士では?」

「うーん……残念!」


 大振りで×のジェスチャーをする笑顔の父。その姿を見て少し冷めた目を向ける息子。その冷たい視線を痛い程受けながらアスマは続けた。


「正解は……大工さんでした!」


 全く予想外の答えに驚きの顔を見せるゲイル。その顔を見てアスマは満足そうに話を続ける。


「ゲイル……家建てたり橋架けたり大工さんってすごいんだぞ!」


 そのままアスマは窓からある場所を指差す。


「あの魔王様のお城……今は夜だから暗くて見えないな!だがあんなでっかい建物も大工さん達が建てたんだぞ!」

「……では父上は何故大工さんにならなかったんですか?」


 ゲイルは聞いてみた。息子が話に興味を持ち始めてアスマは喜んだ。


「俺も今のゲイルみたいに色々勉強して頑張ってみたんだけどな……駄目だったんだ」


 ふと寂しそうな顔をする父を見てゲイルは質問した事を少し悔やんだ。そして今自分が置かれている状況と同じでなのではないかと考えた。


「駄目だったんで俺は……別の職業を目指すことにしたんだ」

「えっ」


 予想外の返しに困惑するゲイル。


「当時家の近くに旅の絵描きさんが来ててな。すげえ絵が上手いんだよ!見てたら俺も描きたくなってきてな」

「そんな簡単な理由で」

「キッカケはなんでもいいのさ!まぁ絵描きはすぐに諦めたよ。俺の絵、壊滅的だったからなぁ」

「字もですよね」


 指摘されるがアスマは笑って答える。


「はっはっはっ!それ言われると辛いな!」


 そのままゲイルの頭を撫で繰り回す。アスマの手はゲイルからとても大きく見えた。


「その後色々模索してる間に戦争が始まっちまってな……そのまま参加して有耶無耶よ。そして生き延びたら英雄とか言われるんだぜ。人生わからないもんだ」


 アスマはゲイルの肩に手を架けるとそのまま話しかけた。


「だからさゲイル、なりたいものを自分から縛る必要はないんだ」


 今までのお茶らけた顔ではなく、真剣な面持ちの父。ゲイルは顔を背けることが出来なかった。


「お前の人生はこれからなんだぜ?お前がなりたいものや適したものは他にいくらでもあるはずさ。俺みたいになる必要なんてない!」

「……僕にも見つけられますか?父上のように」

「おうよ!」


 そこには先程まで真剣な顔をしていた姿はなく、いつもの豪快に笑う父がいた。


「お前やヴォルト、そしてこれから生まれてくる赤ちゃんが安心して暮らせられるよう父ちゃんも頑張らねーとなぁ!」


 笑いながらアスマはゲイルの顔に頬ずりし始める。


「父上、髭がチクチクして痛いです」

「はっはっは!まあよいではないか!よいではないか!」


 口では嫌がるが内心そんなに嫌ではないゲイル。重圧プレッシャーや自責の念でいっぱいだったゲイルの心はもうすっかり晴れていた。


「あと好きな女子が出来たらちゃんと父ちゃんにも教えるんだぞ!」

「それは無理です」

「やっぱ駄目かー!」


 高らかに笑うアスマを見て、改めて父の大きさを再認識するゲイルだった。

 そして笑い声が大きすぎてやっと寝かしつけた弟のヴォルトが起きてしまい、母アリアが怒りの形相でアスマの部屋に殴り込んできて一悶着あったが、それはまた別の話。



 数ヶ月後、タオク丘の戦いでファルジオンの英雄アスマ・クロウは名誉の戦死を遂げた。




 ……なんで今になって父上の事を思い出したんだろう。

 ああなんだ、よくわかってるじゃないか。俺も死んだからだ。

 父上が亡くなってからがむしゃらに勉強して、中途試験に合格し晴れて書記官になって城勤めが出来るまでになった。せめて弟達が独り立ちできるまで頑張ってみるつもりだったが、結局こんな形で俺の人生終わってしまったか。


 母上……今まで俺達を育て上げてくれてありがとう。夕御飯の献立で肉か魚かで父上と喧嘩になった時、母上のボディへのパンチ一発で父上がノックダウンした事は一生忘れられそうにありません。父上が死んだ後も、俺達の前ではずっと強い母上でいてくれてありがとう。

 ヴォルト……お前は父上のようにファルジオンの英雄になれる男だ。……父上は苦い顔しそうだけどな。英雄になれば父上みたいに母上のような彼女もそのうち出来るはずだ。お前顔は良い方なんだから髪で隠すなよ。それでかなり損してると思うぞ。王国にはカインやモズ達のような優秀な戦士が沢山いる。頼りにしてやってくれ。

 フレイア……俺はお前に父上のように接してきたつもりだったがあんまり上手く出来なかったな……すまない。それともう一つ謝らなきゃならない事がある。お前が楽しみにしていたキマイラ堂のトリプルシフォンを食べたの、俺だ。徹夜明けでめっちゃ腹が減ってて……本当にすまない。お前なら母上を超える魔法使いになれるはずだ。だからもう少し規則正しい生活を心掛けてくれ。

 父上……予定より少し早めになってしまいましたが、親不孝な自分を許して下さい。もう少し胸を張れる生き方がしたかったのですが、今の自分ではこれが限界のようです。フレイアが父上のようにテンションの落差が激しいのと字が汚いので、女の子としてちょっと心配です。

 

 家族にもっと遺言を遺しておきたかったが、言いたいことが沢山あって中々纏まらないな……。

 ……まぁいいか、もう死んでるし。意味ないか。

 もうやることもないし、お迎えが来るまで待つか。


 …………


 ………


 ……


 …


 ……あれ?何も起こらない?

 さっきから頭にすごく柔らかい感触があるが、もしかしてもうあの世に着いたのか?

 くそっ!よくわからん!しっかし廻りが暗いな。とりあえずよく目を凝らして周りを……周りを……。


 ……?


 …


 あっ


 「む。やっと起きたか」


 どこかで聞き覚えがある声が……あれ?これは……もしかして。

 

 「……なんで」


 混濁した意識をなるべく整理してから俺は、俺の顔を覗き込んでいる勇者リザに聞いてみた。


 「なんで膝枕してくれてるんです?」

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