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勇者VS魔王……の配下(非戦闘員)  作者: 黒江
第二章 勇者VS魔王の配下(その他大勢)
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第二章04 一致団結

「くっそー!なんなんだよあいつ!」


 ボロボロになって倒れているカインが恨みがましく叫んだ。

 ここはタキノ町から少し離れた所に作られた簡易の野営地。俺がもしもの時の為に部下達に指示し、設営しておいたのだ。あの後、結局皆勇者リザに完膚なきまでに倒され、最後に残った俺の機転でここまで戻って来たのだ。


「しっかしよくあの状況で撤退できたな」

「あぁ、近所の定食屋の限定ディナーコースの情報を教えたらそっち行ってくれてな」

「えぇーそんなんでいいのー……?」


 そんなんで良かったみたいだよカイン。


「わ、私の剣が……一太刀も入らなかったなんて……」


 ロゼが体育座りのままブツブツ呟いている。よっぽどショックだったんだろう。モズも項垂れてるからショック受けてる……のかな?顔が見えないんでよくわからないけど。


「あんなん反則やわぁ……」


 ユキメも恨み言を言う。……が見た目そんなにダメージを受けているようには見えない。


「ユキメお前……ワザとやられたフリしただろ」


 ユキメはリザとの攻防の最中、攻撃を受けて思いっ切り後方に吹っ飛んで倒れた……ように見せてた。なんか変な動きだったんで俺でもわかったんだけど。


「仕方ないやん……あんな力見せられたら戦意喪失の一つも起こしますわぁ」

「……で、本当の所は?」

「うち弱い輩を嬲るのは好きなんやけど、強いお人と戦うのはホントめんどくさくてなぁ。ホント堪忍な☆」


 駄目だこのドS……早くなんとかしないと……。


「はい。治療完了したわよライラちゃん」

「ありがとうございます!アンジュさん!」


 ライラが元気よくお礼を言う。……さっきまでこの世の終わりのような顔してたんだけど大丈夫そうだな。


「後は……カイン君だけね」

「すまねぇ。よろしく頼むわ」


 アンジュは魔法戦術団に所属しているサキュバス族の僧侶ヒーラー 。魔法戦術団では医療チームの班長を務めている、回復魔法のスペシャリストな優しいお姉さんだ。どことなくエロい。サキュバスだからか、乳が大きいからか。……全部か!


「俺からも礼を言わせて貰うよ。ありがとうな」

「ゲイル君はこうなる事がわかってたから医療班わたしたちを待機させていたのでしょ?」


 アンジュにはお見通しだったらしい。


「言葉で言っても解って貰えなかったようだったんでね。直接勇者に会って確かめて貰ったんだよ」


 俺は周りに聞こえるように大きな声で尋ねてみた。


「で、どうだった?勇者と戦った感想は?」


 皆黙り込んでしまう。暫く沈黙が続いたのち、治療が完了したカインが口を開いた。


「あぁ……お前の言う通りクソ強かったよ」


 カインが苦々しく話す。流石に認めざるを得ないだろう。……最初に一撃でやられてたし。


「だがあいつがどんなに強かろうが関係ねえ。勇者は俺が倒す」

「あんだけコテンパンにやられたのにまだ言いますかね」

「うるせー!今度戦う時はもっと上手くやってやるさ!」


 今更何言っても負け犬の遠吠えだ。まぁ諦めが悪いのは嫌いじゃない。

 唯少し気になることがあった。


「お前が勇者討伐にそこまで拘るのは何故だ?」


 俺はカインに尋ねてみる。正直1対1とかじゃ絶対勝てないぞ勇者あいつ


「そんなの決まってるだろ!グフタフさんの敵討ちだ!」


 啖呵を切るカイン。そして頷くモズ。二人は俺が城に書記官として務めるようになった頃に、将軍グフタフが連れてきた兵士だ。それまでカインは用心棒、傭兵として生きてきた無法者アウトローだったらしい。それからずっとカイン達はグフタフさんに恩義を感じていたようだ。


「敵討ち……そ、そうだ!私は勇者を倒しミランダ様の名誉を挽回しなければならないのだ!」


 カインの言葉に刺激され気力を取り戻したロゼが叫んだ。それにはユキメも反応する。いつもの茶化した感じではなく真剣な顔だ。癖の強い魔法戦術団を纏めていたミランダさんは団員からの信頼も高かった。副団長や隊長に任命されたロゼとユキメは特にそうだったようだ。


「……私だって兄の敵をこの手で討ちたいのです!」


 唯一の肉親を失ったライラも気持ちは皆と同じだ。


「だがな……勇者あいつは強すぎる。万に一つも勝機はない」


 俺の言葉に、カイン達は口を閉ざす。……だが周りを見渡しても、誰一人として諦めた目をしている奴はいなかった。

 ならばしょうがない。俺は覚悟を決めた。


「今のままではな」


 俺はここに来る前から一つの作戦を考えていた。その内容を聞いて皆驚いた顔をしている。まぁ考えたの書記官おれだしね。


「……本当に可能なのか?」

「あぁ……だがそれには、ここにいる皆の力が必要になる」


 俺は満面の笑顔で話しかける。


「もちろん協力してくれるよな?」




 タキノ町に夜の帳が下りた頃、暗闇に紛れ町の屋根伝いを疾走する影が五つ、一糸乱れぬ動きである場所を目指していた。風のように動く影は瞬く間に目的地へ到着した。目的地――タキノ町では平均よりちょっとランクが落ちる安宿に着いた影は、五つのうち三つが宿の窓からあっという間に中へと消えていく。

 影の一人……モズは事前に集めた情報からこの宿に勇者リザが滞在している事を調べ出していた。精鋭騎士団の部隊とは別に諜報機関も束ねるモズには造作もない事である。足音一つ漏らさずモズと配下の暗殺者達はある部屋の前へと辿り着く。勇者が寝泊まりに利用している部屋だ。モズが罠を確認するがそれらしいものはない。モズは部下に目で合図を送ると懐から一本のナイフを取り出す。暗殺教団に所属してた頃から使っている業物だ。名前はない。モズは細心の注意を払いドアノブに手をかける……鍵は掛かっていなかった。そのまま音もなく侵入する。

 暗がりの中を見回すと毛布で膨らんでるベッドを見つけ、モズはナイフを構える。このナイフでモズはあらゆる標的を葬ってきた。暗殺教団を抜け、ファルジオン王国精鋭騎士団に所属してからも、このナイフから伝わる標的の……肉の感触をモズは忘れた事はなかった。モズはその刃をベッドに突き立てた。肉の感触は……感じなかった。その瞬間、モズの横……クローゼットの中から殺気が溢れ出しモズに襲い掛かる。モズは放たれた一太刀を辛くも退けるとそのまま交戦状態へと突入……しなかった。クローゼットから現れた勇者リザは初撃が外れたと見ると後方にある窓へと瞬時に走っていった。この部屋で戦うのは不利と見たのか……モズは追撃を緩めず窓から飛び出した勇者を追いかけて行った。



「速い」


 リザは素直に感心していた。職業柄、敵対者に襲撃される事が多かったリザだったが、部屋に侵入される前までに気配を察知できなかったは今回が初めてだった。なんとか外へと出たものの、自分を狙う殺気が更に増えた事をリザは感じていた。……数は五人。一人は先程襲撃を受け、今日の夕方頃にも戦った事がある。あの中で攻撃の軌道が読みづらくて厄介だと思った相手だ。他の四人もそいつ程ではないにしてもかなりの手練れ……正直面倒だ。

 明かりを求めて外へ出たものの、街灯はあるが火は付いていないのか……暗いままだ。このまま戦うのは得策ではない。暗く狭い路地でこの襲撃者達と戦うのは骨だ。一度広い所に行かなくては。

 だが果たしてこの殺気の主達はリザが遁走するのを見逃すか?いくつか方法を捻り出し距離を取る為に身構える。だが追跡者達は追ってこなかった。正確にはリザからある程度距離を保ちつつこちらの様子を窺っている。

 リザは少し困惑した。……がしたのも束の間、相手が深追いをして来ない事を好機と見てそのまま走り出した。リザはここ何日か祭に参加してタキノ町の地理には少し詳しくなっていた。この先を曲がって真っ直ぐ進めば大通りに出られるはず……なのだが、その道がない。宿へ帰るときはあったはずなんだけど……?追跡者に追われている手前迷ってはいられない。とりあえず別の道を使うことにする。この道でも少し遠回りになるが大通りへと出られるはずだ。そう考えていたリザはその道を通ってまた困惑することになる。また道がない……記憶能力には自信がある(と本人は思っている)リザだったがその自信は脆くも打ち砕かれてしまった。追跡者は未だにリザを追い駆けてきている……急がねば。……お腹も空いてきた。

 更に遠回りになってしまうがこの通りを使おう。リザがそう決めた次の瞬間、リザの頭の横を何か鋭い物が駆け抜けていった。地面に突き刺さったそれをよく目を凝らして見てみると、それは氷の塊、細く鋭い氷柱だ。氷柱それが飛んできた方角を見ると――。


「来たか勇者」

「待ってましたえ」


 そこには褐色と色白の二人の女が、リザの行く手に立ちはだかっていた。

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