下校
「歩いて帰ろう」
「いいよ」
「通学路覚えないと」
「わかるでしょ。そんな遠くないし」
「そのリュックどこの?」
「リュック?どこのかな?先週マルカドデパートで買った。いいんだよ?収納がたくさんあるし。ここなんかちょうど文庫本一冊収まる」
「俺はババアの店」
「なんで白の肩掛けカバンにしたの?中学生が使うやつでしょ?」
「紐を額に引っ掛けて歩くのが夢だった」
「機能性で選ぼうよ」
「機能的だよ。牛乳とか入るし」
「ビンの?」
「パックの」
「パックの?潰れたら大変だよ」
「なかなかないだろーパックの牛乳入れられるカバン」
「入れようと思えば僕のにも入れられるよ。入れないだけで」
「人生は一度きりなのに?」
「一度きりなのにだよ」
「ババアの店さー」
「ババアの店って言い方よくないよ」
「だって看板でてないじゃん。ババアが一人でやってるからババアの店。いいじゃん。実際ババアの店で伝わったし」
「うーん」
「でババアの店。駄菓子屋から鞄屋になったろ?」
「ビックリしたよね」
「どういう心境の変化があったか問いつめたいね。俺は」
「まあ……売りたくなったんじゃない?バッグ」
「菓子パンとかめんつゆとか牛乳とかも売ってるよな」
「うん」
「変な店だよなー。誰が鞄屋でカバン以外買うんだよ」
「あっ、でも僕この間さ。市の指定ゴミ袋買った」
「メントゥーユ買えよー」
「めんつゆがラタトゥユみたいになった」
「ラタトゥユ料理?」
「ラタトゥユ料理」
「そうかー……しかしこの辺は畑ばかりだな」
「畑じゃないよ。田んぼ」
「田んぼか。わからなかった。田植えが9月?」
「9月は稲刈りじゃない?」
「あれ?でも実りの秋って言うよね」
「だから秋に稲刈りするんでしょ」
「え?」
「え?」
「専門用語は難しいなー」
「だね」
「のど乾いてない?」
「のど?別に」
「じゃあ牛乳のまない?」
「いらない」
「これどこの牛乳かな?知らんメーカーだ」
「うわっ!牛乳カバンの中入れてたの?パックだ!えっ?1日?」
「ババアの店で買った」
「買ってるんじゃない」
「帰ったら飲もう」
「やめときなよ。1日持ち歩いた牛乳は」
「やっぱり?仕方ないか……」
「もったいないけどね」
「過ちを犯した」
「牛乳粗末にしちゃったね」
「有利になる証言してくれ」
「法廷で?」
「登別の……な」
「登別?」
「雨やんでよかったなー」
「うん」
「お天道様はやはりいい」
「いいねぇ」
「娑婆にいたころを思い出す」
「捕まった?」
「牛乳を粗末にしたから」
「重い罪だったか」
「牛乳さー」
「うん」
「もう持ってこないよ」
「そうしな」
「買ったらすぐ飲むよ」
「うん」
「お天道様はいいなー」
「いいねぇ」