登校
「高校初日!あいにくの雨となったな!」
「うん。バスか電車でいこうか?」
「ううん。自転車でいく。初志かんてつ」
「仕方ないなぁ。カッパ着てこうか?」
「うん」
「……ダボダボの制服の上にカッパ着たら危なくない?タイヤに巻き込まれない?」
「自転車通学ってさぁ」
「なに?」
「家から三キロ以上離れてないと許可降りないじゃん?」
「へえ。生徒手帳読んだんだ?」
「俺のうちは問題ないけど京の家は三キロもないよ」
「ねえ。濡れるからさ。はやくいこうよ」
「校則違反だ」
「困るね」
「初日退学」
「えー」
「警察が来て正確な距離を導き出す」
「警察まで動くんだ?」
「重罪だから」
「重罪かー」
「法廷では有利になる証言をするよ」
「ありがとう」
「かんてつって完全徹夜?」
「初志貫徹の?違うよ」
「絶対今日は徹夜するぞっていう固い意志」
「テスト前はいいかもね。遅刻しちゃうよ?」
「ジェシー・カンテツー」
「どちら様?」
「伝説のボクサー」
「ジャックデンプシーの親戚?」
「ジャックデンプシー?そいつはいるの?本当に?」
「いるよ」
「じゃあジャックデンプシーのひ孫」
「カンテツーが?」
「後の織田信長その人である」
「日本人だったんだ?カンテツー」
「雨って神様の涙?おしっこ?」
「涙であってほしいねぇ」
「量としてはおしっこだよなぁ……うん」
「じゃあそろそろいこうか?」
「悲しいお知らせがあります」
「ほう」
「わたくしの自転車……後輪がパンクしております」
「あー。困ったね。ここにくるまでにパンクしたの?」
「ううん。おとといコンビニ行ったとき」
「直しなよ」
「直したら負けじゃん?」
「誰に?」
「コーリン・パンクシーに」
「カンテツーに似てるね」
「生き別れのいとこだから」
「いとこは……うーん。生き別れ……生き別れかなぁ?」
「バス定期!」
「うん」
「忘れました!&ノーマネー!」
「あー。仕方ないね。コロ助の分は僕が払うから行こう。自転車は家に置いてこうね」
「すまんね」
「いや、あとで返してね?」
「傘もってこうよ」
「そうだね」
「俺の傘持ってきて」
「コロ助の傘?」
「骨が一杯の……紺のやつ」
「あー……あれは父さんのだよ。持って行ったんじゃないかなぁ?ビニール傘でいい?」
「仕方ないなぁ!京は!」
「はいはい」
「いい加減いこうかー」
「バス乗り遅れちゃうからね」
「傘だけどさー」
「うん」
「交渉しといて」
「コロ助のものについてなるように?イヤだよ」
「だめかー。世の中うまくいかないなー!勉強になった!」
「よかったじゃない」
「だから今日はもう学校よくない?」
「よくなくない」
「雨なのになー。ショシー・カンテツーするかー」
「そうそう。あっ!バス通り過ぎた!」
「モタモタするな京!バス停までダッシュだ!」
「うん」