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毒舌メイド

◇ 逃走の決意 ◇


暫く寝ていたのだろう、少し日が陰りだした頃、ふと目を覚ます。

天井は高く、あまり見慣れていな場所であったので、少しばかり呆けてしまった。


「やっと起きましたか?どうかそのまま永遠に目を覚まさなければと思いましたのに」


急に失礼な奴だな、侍女の格好の女が立っていた。

くすんだ金髪を後ろでまとめている。雪の様な真っ白な肌、目鼻立ちはすらっとしており、人によっては目元がきつく感じる。瞳はワインレッド。唇は薄いピンクで、そこには生気を感じる事ができる。若々しさがあり、僕より少し年下かな?


「君が僕のお相手かい?」


「貴方様のような劣等遺伝子で、私の腹を満たされても困ります」


凄い毒舌なんだけど、本当にメイドさんなの?


「お、おう……そうだよね。分かってた」


「犬畜生並の脳みそしかないと思っておりましたが、物分かりが良くて助かります。そこだけは感心しました。そこだけは」


「何で二回言ったのさ……。ところで、僕の固有能力はそんなにくだらなかったのかい?鍋を高速で洗えるとか」


「いいえ、貴方様はそんなに役に立ちませんよ。だって、無能力ですもの」


「固有能力がない……」

確かに、個性がないといわれる。

基本的に、目立たないように生きてきた。

目立てるような才能が無いからだけど。


「能なしです。脳も無いので、貴方様そのものじゃないですね?おめでとうございます」


「ありがと。頭ではわかっていても、他人に言われると腹が立つよ」


少し不満な顔をしていると、彼女が近づいてくる。

やっぱり美しい。

どこか吸い込まれてしまいそうだ。

そして起き上がろうとしていたベットに、再びたおされてしまう。


えっ?これって……。まって待て待て待て。心の準備が、まだお風呂とか入ってないし、綺麗にしなくっちゃ。ツっ、ツンデレさんなの?


彼女の体が触れる。

大きめの膨らみはGカップ以上ありそうだ(AVからの推測)、そしてどことなく良い匂いがする。そして彼女は耳元で、愛を囁いた。そうだと良かったのだが……。


「無能力者は、殺さなければなりません」


「マジですか?」


「ええ、マジです」


「転移し直せばいいじゃないか?」


「転移?ああ、再転移できるって話ですね。あれ嘘ですよ」


「マジですか?」


「ええ、マジです」


完全皆騙されている訳だ。


彼女は、耳元で更に囁く。


「転移者は、最終的にはパルソニの手下になります。拒否をすれば、人体改造されて強制的に従わせるのみです。無能力者がたまに召喚されますが、それは情報漏えいを避けるため始末します。私は、掃除屋ですから……」


終わったな。彼女の肌のぬくもりを感じながら死ねるのならいいか……。

静かに目を閉じた。じいちゃん、ばあちゃん、ごめん。親父に続き、孫まで神隠しに会ったうえ、そこで命を散らすなんて。


メイドもといい掃除屋さんが、更に強く抱きしめてくる。

耳元で更に囁く。


「そこで提案ですが、虫けらの様な貴方様を延命いたします。しかし、その代わりに私の逃走にご加担ください。このウジ虫が」


「それって、人にものを頼む態度かい?」


「貴方様が人ならそうします。虫ですから」


さすがに無言になるが、魅力的な提案ではある。

いずれ僕は消されるなら、この娘の役に立つか、運良ければ助かるかもしれない道を選ぼう。


「どうすれば良いんだい?」


「この宮殿には、深夜一五人の衛兵が巡回しています。門は一つしかございませんが、裏手に脱出用の穴を掘ってあります。貴方様は、私を囲われ女として、貴方に野外の鬼畜プレイを強要されているように見せかけて、脱出穴へ導いてくれればよいのです。犬畜生でもできる事です」


「僕が死んでいない事で、女性や衛兵に君は咎められないのかい?」


「猶予は本日一日もらっております。それに、すぐには殺しません、あなた方の関係性が分からない限り、無能力者でも有用な能力者を拘束する為に、生かす場合がありますから。その点、貴方様は一目で、友人がいないのが分かりました。そして恋人も」


「何故に恋人がいないのが分かるかはさて置き、結構簡単な依頼じゃないか」


「今夜八時に決行いたします。ええ無能な貴方様にしかできません。無能な。」


なぜ二回言うんだよ。

そして、彼女は僕から離れる。

その感覚がなくなると少し寂しさも感じる。


やや、名残惜しそうな顔をしていると、彼女は少し聞きにくそうに話す。


「何か胸に硬いものが当たったのですが、その首からぶら下げている物はなんですか?」


先ほどの瓶を取り出す。


「親の形見かな?」


彼女は気まずそうに謝罪を述べる。


「無粋な事をお聞きしました。申し訳ございません」


意外と素直な性格なのかもしれない。


「いいよ。こればっかりは手放す事が出来なくて、唯一のモノだから……」


「本当にお綺麗です。大切になさってください」

そう言った時の彼女の顔は、微笑んでいるようにもみえた。


そして一礼をして部屋をでていく、その時には、もはや感情が乗っていなかった。

まるで、陶器の置物のようだった。それでも彼女は美しい。

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