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悪神ゼラ

◇ 悪神 ◇


「何を呆けていいるんだい?さっさと逃げないとやられてしまうよ」


いち早く我に返った戦士が、町人を先導して安全な場所に移動し始めた。

そして、僕は血の付いていない左手を、セラの頬にあてる。

彼女には珍しく、肌に血が通っているように温かかった。


「行こう」


少し、彼女は迷いながらうなずく。


「何だったんだあの力は?」


僧侶は不思議そうに聞く。


僕は、笑ってごまかす。


「まあ良い。この混乱に乗じて我々は逃げるか」


僕は、町人の集団にいるペドに声を掛ける。


「ペドさんと言いましたね。この町の有力者とお見受けしました。この騒動によって町に与える、プラハ帝国の影響力というのは、どの程度あるんでしょうか?」


少し汗ばみながら。


「いいえ、有力者などでは……。プラハ帝国の駐屯兵のおかげで、飲食店等は良い影響を受けていたようですが、治安が悪くなっていたので、多くの町人は迷惑をしておりました」


「なるほど、プラハ帝国の支配下である必要性というのは、それほどないという事ですね」


「それをいう事はできませんが、お察しください」


「わかりました。これからは、この町の安全を保証する代わりに、僕が支配させてもらう」


「なっ!」

「なんと!」


「これより、エアフルトは、プラハ帝国より独立する」


「無茶苦茶な!」


「セラたちは、アムステルダム帝国に戻りその事を、君たちの神に伝えてほしい。お荷物も減るから一石二鳥でしょ?」


「それでは、この町はプラハ帝国の攻撃を受けてしまいます。それは、町の安全を担うものとしては看過できません」


しかし、僕は高笑いをする。


「ククッ!はっはっ!ペドさんそれは遅い。先ほど数人のプラハの兵を見逃した。このことを報告させるために」


実際は嘘ですけど。


「なっ!先ほど聞いたことは、事後確認だったのですか?貴方は、悪魔なのですか?」


「悪魔?違うね。悪神ですよ」


頭を抱えながら、ペドはやれやれと首を振る。


「分かりました。ただし、安全は保証してください」


「神と名乗っても、驚かないのですね」


「それはローグ様も、パルソニ様傘下の神の一柱でしたから」


「セラ、アムステルダム帝国に戻ったら、ペド商会及びその傘下に、アムステルダム帝国との交易権を与えるようとり図ってくれないかい?」


「私に、それができるかどうか分からずに、おっしゃているのですか?」


「いや、君たちならできる。神への謁見が許されているってことは、それなりの地位にいるはずだ。それに、独立はアムステルダム帝国にとっても有用な事だからね。よっぽど慢心が強い性格でなければ、こちらの望みを叶えてくれると期待するよ」


「先走りすぎです。私たちは、高い地位ではありません。あくまで、草ですから。しかし、ちゃんと私がついていける速さで走ってくださいませ」


「?」


「今のは気にされないでください。分かりました何とかします」


「頼んだよ」


広場に着いた。

新たな煙は上がっていないので、事態は収束したようだ。

被害状況の把握が寛容だな。

商業被害は、ペドに任せよう。

こちらは、発展と防衛の準備を整えよう。


セラたちは早速旅立った。

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