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種馬

◇ 召喚 ◇


僕の名前は、百鬼(なぎり)是良(これよし)。いたって普通の大学生である。

名前が少し読みずらいのが、玉に傷だけどね。

基本的に親友と呼べる友達はいないが、周りの人とは一通り会話はできる。

ちなみに、彼女いない歴イコール年齢なわけだが、周りには別の学校に彼女がいて毎日充実していると嘘をついている。最近の若者は、浮ついていると思う。爆発すればいいのに。わりとマジで。


そんな僕ですが、現在厄介な事に巻き込まれ中。

それといいますのは、何か変な世界へ飛ばされてしまったようなんだ。

大学近くでバイト先の牛丼屋から、家に帰ろうといつものバスに乗り込んだところ。数分後に、窓景色が一変し真っ暗になってしまった。気が付くとここにいたのだ。


運転手の四十代くらいのおじさんに、同じく四十代くらいのチビデブのおっさん、二十代後半のサラリーマン、二十代前半の大学生と僕。全員男だ。


「ようこそ皆さま、プラハ帝国へ」


美しい金髪の女性が目の前にいる。

民族衣装の様なものを着こんでおり、体の所々に装飾品を身に着けている。

キャラキャラと音をたてて、こちらに近づいてくる。


皆、警戒して一歩後づさる。彼女一人なら、集団心理が働いて、強い態度で出れたかもしれない。だが、彼女の後ろには壮年の男性が二十人ほど控えていたのだ。


サラリーマン風の男が我慢できず怒鳴る。


「訳が分からないぜ。状況を説明しろ!」


「ええ、混乱されていると思いますが、この世界は皆さまがお住まいになっている『地球』と並行して存在する世界です。お互いが干渉しあって、現在の形を成しています。この世界の名称の多くは地球影響を受けています。なぜなら、地球より召喚させていただいた方々は、優秀な固有能力をお持ちの方が多く、この世界で、高い地位を約束されるからです。多くの政治や文化、軍事に大きくその影響がでます。そして、今回皆様を召喚させていただいたのも、我が帝国に助力をお願い申し上げたかったからです。我々は、長い間魔王軍討伐を行ってきましたが、その影響で多くの戦力を失ってしまいました。そこで、皆さまに皆さまがお選びいただいた娘と子を成していただきたいのでございます」


「戦争をしている国にいるのか?マジかよ俺たち殺されるんじゃないのか?」


「いいえ、皆さまは安全な宮殿でお暮しいただければよいのです。そこで、子作り以外の義務は生じません。娘はいくらでもお選びいただけます。生活面でのお申し付けも何でも承ります」


不安な表情が隠せていない面々。

ここで、運転手だった男が、豹変したように汚い口調で笑い出す。


「おい!お前ら考えてみれば最高じゃねーか。食い倒れる心配もねーし。女は手に入るし、テメーらみてーな童貞どもは、喜んでこの話にのるべきだな!どうせ地球じゃお前らみてーな野郎は、金払ってじゃないと相手にしてもらえねーよ!」


精力大盛な二十代前半の大学生が言う。


「まあ、そうだな。おっちゃんの言う通りだ。かわいい娘がいれば、俺はのろうかな?」


最初に吠えたサラリーマンは、叫ぶ。


「くそじじぃ!テメー童貞とか馬鹿にしすぎだぞマジで!」


いやいや、僕チェリーです。そして、これからもチェリーかもしれません。

人前で裸になるの恥ずかしいし(そういう場面は無い)。ましてや女の子の前でなんて(そういう場面も無い)


チビデブさんが、鼻息を荒くして蚊の鳴くような声でしゃべる。


「お、俺は……ど、童貞だ……。仕事も無いし、やり直せるのなら……」


サラリーマン風の男に一喝される。


「何言ってんだよ。チビデブ、童貞こじらせんな!これがどんな状況か分かってねーからお前はそういう状況になるんだ!」


「で、でも……」


声は弱弱しく己の意見を言えてはいないが、目の奥は燃え盛っている。

僕ら共通の、人前では意見が言えなくて、でも心の奥には自分の意見を持っている。

将来の自分を見ているようで、切なくなる。愛しさも生まれる。あとは、心強さだけだった――分かんなに人多いかな?


しかし、サラリーマン風の男に向かい、女性は語る。


「先ほどの儀式で転移魔術はすぐには使用できませんが、望めば一ヶ月ほどで、地球へお送りする事もできます。できれば、一人でも子供をお作りいただければと存じます」


転移ものの定番で、魔王を倒したらという条件が付くことがあるが、破格の対応である。

好き勝手に暮らして、飽きたら帰る。


「ふざけんな!週明けは会社が始まるんだぞ!」


「転移する日はこちらで、ある程度調整できます。こちらでは一年滞在しても、あちらでは、転移から一時間後にお戻しいたします」


なんて都合のいい話だ。

それを聞くなり、サラリーマン風の男は、考えを変えた。


「なっ!そうか、時間を気にせず女とヤりまくれるのか……悪くねえ」


既に皆から警戒心は無くなり、期待のみがこの場に広がる。

かくいう僕もそれに呑まれていたのだ。だって、せっかく脱童貞できそうなんですもの。

男なら一度はこのシチュエーションは憧れる。


「それでは、皆さまこちらに控えている者たちの前にお立ちください」


皆は、素直に壮年の男の前にたった。

皆フードで顔を隠しており表情は見えない。


右手を、こちらの額に当てるように伸ばす。

緑色に発光して、彼らの持っている羊皮紙に何やら文字が焼き付けられている。


その羊皮紙を、女性に渡す。

女性はその羊皮紙を見ながら、感心したようにうなずく。


「素晴らしいです。皆さまの才能が、必ずこの帝国の役に立つでしょう」


サラリーマン風の男が叫ぶ。


「おい!その紙に、数字と文字が書かれていたが、俺のはなんて書いてあるんだ!それに、いま勝手に焼き付けられていたが、何なんだ!」


はて、数字なんか書かれていたのか?

幾何学文様しか書かれていなかったような……。


「そうですね。まず魔素(マナ)というものが、こちらの世界にはございます。昔は地球にもございましたが、今は薄くなっております。そのマナから人は、魔術を発現させることができます。彼らが使ったのは、魔術です。そして、皆さまもコツを掴めば、魔術を発現させることができます」


皆から、どよめきが起きる。

大学生の彼はこういう話が好きなのだろう。


「まるで御伽話のようだ」


そして彼女は、二つ目の質問に答える。


「例えば村上様は、固有能力【マグナカルタ】他者の権能の一部を簒奪して、己の者として使用できるという能力です。これは、非常に強力であり、相手の固有能力が強大なほど大きな力を発揮します」


「おいおい、俺が王様になるくらいの力を発揮できるわけだな?」


「はい、これはそれをも凌駕している可能性がございます。この世界では、小国とそれを統治する帝国があり、多くの帝国は、神を有しております。神の権能により、帝国は成り立っているのです。ちなみに、我々は、パルソニ様を崇拝申し上げております。そんな方々もそれぞれに固有の権能をお持ちです。この能力は、その権能すらも写しとる事が可能でしょう」


「神と同等の力か……悪くない」


さっきまで、一番乗り気ではなかった男が、今では一番乗り気になっている。

この人は、面白半分で、魔王軍との戦争に参加しそうだな……。


チビデブ先輩が蚊の鳴くような声で話す。


「お、俺のは?」


そんなおっさんに対しても笑顔で、彼女は答える。


東部(ひがしべ)様は、【デッドパーティー】八回死んでも甦るという能力です。この八回というのはある程度の期間を置けば回復します。上限が八回という意味です。前線を任されるものにとっては、非常に重宝されるでしょう」


「ぐふぅ。女騎士にモテモテか……ぐふ」


キモいけど、その気持ちわかります。さすが先輩っす。


「俺は何でもいい。若い娘とヤりまくれて、酒を飲めれば。いい加減安月給で働くのは飽き飽きしていたところだぜ」


運転手もつらいんだな。


そして、各々の部屋を案内された。

そこに女の子が入室して、囲うか囲わないか決めるらしい。


子供に親の能力が遺伝する可能性があり、また身体的な接触を続けると母体にもそれと類似した能力が宿る可能性があるらしい。


さて、どんな態度で女の子を待とうか?

部屋には、大きなベットがあり、横に小さなテーブルと椅子が三脚。テーブルの上には、ワインの様なものがあり、おそらくアルコールなのだろう。

運転手のおっちゃんは、さっそく飲んでいるんだろうな。


そんな事を考えながらベットに横たわる。

そして、胸にいつも携帯している小瓶を眺めるのだった。


緑に輝く種が入っている。


「父さん、母さんこれからどうなるんだろう?」


祖父母から、父母の形見だといわれて持っているのだ。

物心着いた時には、すでに両親はいなかった。

祖父母も我が子の事ではあるが、非常に記憶が朧げであるらしい。

歳の所為(せい)といっているが、不自然な事も多い。

そんな中、彼らは突然消えた。墓はあるらしい。消えたというよりは、突然死亡したと認識するようになったというほうが近いらしい。

生きていたのに、次の日には死んでいる事が当たり前であるように……。


認識だけの存在だったという事だ。

神隠しから戻ってきた息子も、栗色の髪をした息子の妻も。

そして、俺だけ消えた認識の外にいた。

普通に、存在していたとの事。


そんな彼らが、唯一モノを残してくれたのがこれだ。

片時も手放したくは無く、首にぶら下げている。

ほんのり輝き、少し暖かいようにも感じる。


瓶をしまい直すと、急に眠くなり、横になってしまった。

転移されたのは昼頃で、歓迎会として少し料理もふるまわれていたので、眠気が襲ってきたのだろう。

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