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狐日!!  作者: すずらん
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Ep.6

 瑠璃と琥珀が屋敷の中をまわって必要な家電類をチェックしているころ、二人は例にもれずジャージ姿で玄関前にいた。

「まずどーするん?」

「んー敷地内でも探索しよっか。ひょっとしたら金目の物があったりして」

「はぁ~」

 ぐへへとだらしない顔をしながら笑う鈴に有希はすっかりあきれ顔だ。取り合えず神社の周りを一周し、何があるかの確認をすることにした。ぽかぽかの陽気、桜の花びらが舞っている中、有希はこれ、掃除しなきゃいけないんだよね、と少し憂鬱な気持ちになっていた。

「それじゃまずこの屋敷の敷地から~」

「敷地内ってそういうことね」

 どうやら鈴は生垣で囲まれたエリアごとに探索していくようだ。鈴は玄関をスタート地点に生垣に沿って反時計回りに歩みを進める。玄関に向かって右手に土間の入り口があり、玄関そばの薬医門から玄関、土間の入り口まで敷石が敷かれ、裏庭まで繋がっている。

「裏庭へ抜ける道だね、これ」

 鈴は裏の森へ行くときに通っていたので目新しさはないが有希は初めてであり、改めて屋敷の敷地の広さに驚いていた。

「なんで建物と生垣の間がこんな広いんよ全周庭みたいなもんじゃん」

 建物側面を抜け裏庭に出る。神社全体が山の中腹に位置するため、裏庭の先は所々岩壁がむき出しの森が広がりその奥へ登っていく道は鈴が立ち入った滝へ繋がる。側面に続いていた生垣も途中から傾斜のついた岩肌と一体となり、境界をはっきりさせていた。

「裏庭も広いし井戸もあるし、気が付かなかったけど裏にも縁側あったのな」

「そうそう、向かって左が囲炉裏のあった部屋でその隣がさっきまでいた茶の間だね」

「ずっと日陰だし、夏めっちゃ涼しいじゃん」

 玄関から見て北東に位置する裏庭側は涼を得るのに最適であるため、夏場の大活躍が予想された。

 そんな裏庭を通り過ぎ、建物北の側面に回る。そこには明らかに他と比較して真新しい壁が存在していた。

「なんでここだけリノベーションされたみたいになってんの?」

「あーこれね」

 有希は知らなかったが鈴はこれに関わった一人であるためよく知っていた。

「これ、お風呂場なんだよね。どうせ今日入ることになるし説明してなかったや」

「はぁ!こんなきれいなの?!なんだよ先に言えよーー!」

 昨晩、居間で喋っていた時、瑠璃がどうしてもお風呂に入りたいと言い出し、琥珀がここまで案内したのだが、そこにあったのは古くからある五右衛門風呂で長らく使われておらず錆びまみれだった。これに激怒した瑠璃監修のもと琥珀があっという間に作り上げたのがこの部分となる。この間有希は一時的に寝落ちしていたため知らないのも無理はない。鈴の肩に手をかけ揺さぶるが鈴はこれに待ったをかける。

「いや、今朝ここまで俺を呼びに来たよね!?」

「そうだけどこんな綺麗だった覚えはないぞ!」

 確かに有希は今朝鈴をここまで呼びに来ているが、それは脱衣所の扉前までで琥珀が手掛けたのは扉から内側の範囲であるため、建物内部からだとぱっと見では変化しているように感じられない。そう説明されても有希はどこか納得のいかない様子でむくれる。

「ずっるー二人だけ昨日風呂入ったんだー」

「いや、結局全員寝落ちしたじゃん。俺だって入ったのは今朝あの事件があったからだよ」

「入ってるじゃんかぁー!」

 鈴から手を放し、頬を膨らませずるいずるい今日は絶対一番に入ると言いながら先へ進む有希の背を鈴は若干呆れながらついていった。

 建物側面を抜け、左手に正面の庭を見ながら進んだ先で次にたどり着いたのは二棟の蔵。大きさからみると二階建てでかなり頑丈な作りのじょうがかかっていた。

「さっきから、何ならもっと前から見えてたけどデカいな...それにこの錠前。でっかいのが三つもある」

 有希が見ている蔵は屋敷に近い方で、扉には掠れているが至る所に封の印が彫られている。

「そっちはあんまり触っちゃダメって琥珀が言ってたよ。なんでもかなりヤバいのがあるとかなんとか」

「それを早く言えって!」

 鈴の忠告に有希は慌てて飛びのいた。実際には触った程度でどうにかなるほど杜撰ずさんな管理はしていないので問題はないのだが、変なことに巻き込まれたくない有希としては弄らない一択であった。

「まぁこっちは後回しだね。どうせガサ入れするし」

「後回し、ガサ入れ?」

「っそ。この先の門を抜けたら社務所の裏に出るみたいだし、一旦正面の庭に戻ろうか」

 鈴の言葉に若干の引っ掛かりを覚えて考え込む有希を置いて鈴は正面の庭に向けて足早に歩き出す。

「あっ待てって!なんだお前泥棒にでも転職するのか!?」

 有希の全てを見透かした物言いに鈴はThief(盗賊)ならいいかもね、と笑いながら伝え、庭へ向かって駆けていった。その後ろを有希は絶対に付き合わないと心に固く誓いながら追った。

 なお、改めて見た荒れ放題の日本庭園は、草花が乱雑に伸び雑草も至る所に生い茂っている見るも無残な姿だった。

「この庭もキチンと手入れされてたらすごい綺麗なんだろうなぁ」

「維持するのにリソースが~とか言ってたっけ」

「綺麗にしたいけど自分たちだと難しいよね」

「これを管理しろって言われたらいっそ更地にする自信がある」

 有希の物言いは流石にどうかと思うが、実際優先度はかなり低く、それなりの期間手を付けられないことだけは確かなことを感じた鈴であった。

 これで鈴たち全員が寝食を共にする屋敷エリアの探索が終了した。残すところは参拝客が立ち入れる神社エリアとなる。


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