プロローグ~人物紹介~
深夜1時32分、木々も眠りにつくこの時間帯。窓の外には緑道を照らす街灯。オレンジ色の光はその周囲をわずかに彩る。付近の家々は闇に飲まれており、灯りがついているのはわずか、ぽつぽつと寂しげにその光を輝かせる。
そんな中一人の青年は闇の中で光るスマホの画面に悪態をついていた。
「...ったく、誰だよこんな夜中に...」
彼自身つい先ほどまで携帯小説を読んでいて一区切りつけ、眠ろうとしていたところだったため若干不機嫌になりながら重くなっていた瞼を開き、スリープモードに入ったスマホを作動させロックを解除した。そんな彼の目に入ったのは、メッセージアプリのグループ通知で、『お久ー』の文字。
『...いったい何の用件で?こんな夜遅くに』
気怠そうな文面を慣れた手つきで画面に指を走らせ返信する。ただその顔には笑みがこぼれ、久しぶりに親友たちからの連絡が来たことに喜びを感じていた。
『そーゆーなよ、睦。どうせ起きてたんだろ?』
上鶴 睦。先ほど携帯小説を読んでいた人物である。アウトドアが大好きで、付近の大人からは小さいころから「あの子と一緒につるむとアウトドア派になる」との評価をもらっていた。ただ両親の離婚に加え、日々の慌ただしさのせいで機会は減りつ続け、今では全くと言っていいほど外での遊びをしなくなってしまった。基本的に物事全てをそつなくこなすことができるが、評価はあくまで「無難なレベル」器用貧乏という言葉がぴったり合い、好奇心旺盛で自分の興味の沸いたことには、他のことなど目に入らない勢いで熱中するが、その分飽きが来るのも速かった。
『まーね、こっちとしては翔が起きてることのほうが意外なんだが』
浅間 翔。付近でもトップクラスの高校に推薦で合格し、今は東京の大学に通っている。スポーツはそこまで好きではないものの長距離走が得意で校内で上位に食い込めるほどの俊足の持ち主だった。その足を生かし高校サッカー部のレギュラーを獲得してしまった過去を持つ。ゲーム好きで睦とは趣味が一致しないもののなぜか気が合い一緒にいることが多かった。テンションが上がると割ととんでもないことを思いつくためいつも周りからセーブを掛けられる。
『まぁ、確かに』
ゲーム好きな割に昔から規則正しい生活を送っていた友人の顔が思い浮かぶ。
『きたよー』
『おっ来た来たまっすー』
このグループの最後の一人。
増木 智和スポーツ万能で高校時代はいろいろなとこから助っ人を頼まれていた。他二人の突っ込み担当という立ち位置ではあるものの、その場の雰囲気に流されやすく役目を果たせていないほうが多い。その結果三人でバカ騒ぎを引き起こすことになる。小さいころからサッカーなどをしていたが、睦と知り合ってからというもの自然の魅力にとらわれ行動を共に。睦の影響をダイレクトに受けた一人で人の心に寄り添うことができる数少ない人種であり、睦のよき親友であり補佐官、相談役である。
睦『それで?なんだっけ?』
翔『春休みの予定だろ?宿の確認とか』
睦『あ~~...なぜもっと早く言わないし。まぁいーや。で、どーする?』
智『春休みは基本全部フリーだよ』
睦『ならよかった』
現在この三人は休みの計画を立てている。みんなバラバラになったことにより、そろって遊ぶ機会がめっきり減った。
睦『んじゃ、この日はこーして...』
翔『ここ行きたい...』
智『それじゃ二日目?...』
こうして話し合うことしばらく、スマホの時計表示はもうすぐ2時になろうとしていた。そう2時である。草木も眠り、動物も眠りはるか昔から恐れられてきた時間帯。<丑三つ時>誰もが一度はこの単語を聞いたことがあるだろう。この時間帯に活動するのは生き物ではないと、人ならざるものが最も活動する時間帯と。しかし科学が発展した、こと現在においてこんなことでおびえるはずもなく、また信じられてもいなかった。
「ん??グループ人数の表示がバグってる?」
2時5分前。つい先ほどまで3人となっていた表示が4人になっていたのを見て睦は首を傾げた。グループは招待されていないと入れないはずなので勝手に入ってくるということができるわけがない。そもそも誰かが招待すればそのログが残るので見落としていたという線は薄い。
睦『なぁグループの人数表示バグってない?』睦は若干背筋に寒いものを感じつつ他二人に確認を取った。もしこれが睦だけならシステム障害としてフィードバックを送るつもりだったのだろうが返ってきた返信は、いやな予感を肯定するものだった。
翔『うん..俺だけかなと思ったけど睦もなのな』
智『俺もおかしいと思ってた。みんな同じ?』
睦『そうか...誰が入ってるかわかる?』
翔『いや、わかんない』
智『Unknownって...なってるよ』
睦『ちょっ怖!』
人は不思議なことや理解できないようなことに遭遇すると恐怖を感じる。画面越しとはいえ怖いものは怖い。睦は言い知れぬ恐怖に布団を頭からかぶりなおし「怖いからもう寝る」と送信しようとして...意識が闇に沈んだ。親指が送信ボタンに届くことはなかった。時計は2時00分になったところだった。
翔『おい!睦!』
智『なんかヤバくない!?』
返信が途切れたことに動揺を隠せない二人から送られるメッセージが次々と送られる中、グループにメッセージが入った。送信時間は2時05分 送信者はUnknown
Unknown 『やっと...見つけた』
突如としてグループに現れた四人目。このメッセージを境に、このグループに新たなメッセージを送るヒトはいなくなった。