① 自称“電脳生命体”の猫だという
①
真子は母が運転する車の後部席で、げんなりした顔で座っていた。決して車に酔ったのではない。
その原因は、真子の隣にて銀色の毛並みの猫“ギン”が、平然と横たわっているからである。
猫と言っても、普通の猫ではない。なぜならこの猫は、真子の母や他の人達が普通に視認出来ない猫。
自称“電脳生命体”の猫だという。
(なんで付いてくるのよ?)
と、言葉を口にしないで脳内に思い浮かべるだけで、ギンと会話が出来た。
『仕方なかろう、わしとお主はこうして繋がっているのだから、離れたくとも離れぬ』
言葉通りにギンの尻尾は、真子のお尻辺りに繋がっていた。真子はその尻尾を掴み、より滅入ってしまった。
(なんで、こんなの付いているのよ‥‥)
『それはわしにも分からん。気づけば、お主とこんな風になっていた。是非もない』
(‥‥あなた、本当に電脳生命体なの?)
真子は充分落ち着いたところで、目の前にいる謎の生物(?)のギンに訊ねた。
『らしいな。その名称は、お主たち人間たちが名付けたみたいだがな』
(その電脳生命体が、なんで私の身体に引っ付いているというか、繋がっているのよ?)
『‥‥さあな。それはわしも解らん。気付けば、こんな風になっていたのだ』
(そんな‥‥。原因不明って訳なの?)
ギンは無言で返す。それは肯定の証明だろう。
真子は試しにギンと繋がっている尻尾を引っ張ってみるが、抜けたり取れたりはしなかった。
傍から見れば、何もない所で手を動かしているだけの、変な行動と思えるだろ。
美由はバックミラー越しで見える真子のその行動や優れない表情が気になっていた。
「真子ちゃん。すぐに退院なんかして本当に大丈夫なの? まだ体調が悪いんじゃないの」
「う、うん、平気平気。大丈夫大丈夫。検査だって、どこも異常はなかったんでしょう。それに家でゆっくりした方が良いし」
第三者が目視不可の存在‥ギンを見えるようになったからといっても、誰も信じてはくれないだろう。これ以上、大げさにしたくもなかったし、長時間の診断も煩わしかったので、真子は平常を装い早く退院を願ったのだった。
「そう?」
検査結果に異常は無くても、さっきからの真子の独り言や横峰という看護士から猫や夢遊病とかの話しを聞かされてしまうと、やはりと何処かに異常があるではと心配してしまう美由だった。
「そうだ、真子ちゃん。宝来軒のラーメンに食べにいきましょうか? お昼もまだでしょう?」
それを聞いた途端、真子の表情は今までの出来事やギンの存在を抹消してしまうほど笑顔に変わった。
ひとまずギンのことは忘れよう。
時間が経てば、自然とギンが見えなくなって解消するだろうと願いつつ、自分の大好物のラーメンが食べられることに意気揚々だった。