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ネコタマR  作者: 和本明子
第1章 バーチャル症候群と電脳化
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④ 猫のお化けが出るんなら


「お化けが苦手なんて、まだまだ子供ね。真子ちゃんは‥‥」


 横峰は消灯されて暗くなった廊下を非常灯の明るさを頼りに歩く中、先ほど真子との会話を振り返っていた。


 “まだは私は見たことがない”と言っていたのは、先輩や後輩が霊らしき物体を見た、との目撃談があるからだった。

 ただ先輩が言うには、見える人は見える。見えない人は見えない。と、それに見えたからって、どういうことでも無いらしい。


 それに横峰は、お化けとかの類は信じていないタイプでもあったが、


「猫のお化けが出るんなら、それはそれで一度見てみたいな。やっぱり足は無いのかな?」


 変な興味心が湧いていた。

 そんな事を考えていると、突然、背後から横峰の肩に手が置かれたの。


 あまりにも不意の出来事に、心臓が飛び出るほどの「きゃわーーー!」と悲鳴をあげ、すぐさま背後を振り返ると――

「って、木戸先生?」


 そこに居たのは医者の木戸だった。


「なに驚いてるの?」


 突然の悲鳴に驚いたのはコッチだよと、横峰を優しく睨んであげた。


「あ、ちょっと‥‥。さっき、真子ちゃんにお化けの話をしていたから‥‥」


「真子ちゃん? ああ、藤宮さんね。どう、あの子?」


「少し疲れている感じでしたけど、基本元気ですよ。夕飯も全部食べていました」


「それは結構。だったら明日、明後日でも退院しても良いでしょう。脳波とかの検査の方でも、やっぱり“電脳化”の異常は無かったとの事だし‥‥」


「そうなんですか、それは良かったですね。藤宮さんが、バーチャル症候群みたいなものを発症していたから、気になっていたんですよ」


「まぁね。だけど、電脳化になっちゃったら、あんな風に平常にはいられないよ」


「はい‥‥」


 木戸の言葉に、横峰は特別病棟の方へと視線を向ける。


「‥‥先生。その電脳化って、本当に何で発症してしまうんですかね?」


「学会やペア社の対策チームの研究報告では、一種の光過敏性発作みたいな所為だとは言われているね」


 一昔前に、とあるアニメで光過敏性発作を起こした事件があった。

 被害規模が大きく、世間に広く報じられてしまい、今でもアニメで点滅の演出はご法度となっている。


 そもそも光過敏性発作とは、激しい光の点滅などの光刺激を見たことにより、異常反応発作や頭痛や吐き気などを引き起こす症状である。


「それで‥‥あんな風に、なっちゃうですか?」


「明確には光過敏性発作とは違うんだろうけど。電脳化になってしまった人たちは、事前にバーチャル症候群みたいな症例を発症してしまうからね。その症例が、光過敏性発作と似ていたから付けられたとも言うし。とりあえず電脳化に関しては、まだ研究中の症状ではあるからね」


「そうですか‥‥。だけど、いつも思うんですけど、電脳化ってのは、なんか子供っぽい名前ですよね」


「仕方ないよ。そういう症例名が付けられているんだから。まぁ、横峰くんの気持ちも解るよ。自分が子供の時に見た攻殻機動隊というアニメで似たような言葉があったからね。ところで、攻殻機動隊って知っている?」


 木戸は若かりし頃見てた名作SFアニメの作品名を口にしたが、横峰は「いいえ」と首を横に振った。ご存知無かったようだ。


「名作だよ。暇が有ったら見とくと良いよ」


 勧めるものの、そういったアニメに興味が無い横峰は作り笑顔で返した。


「そうですね、気が向いたら。あ、そろそろ見回りに行きますね」


 ここで長時間無駄話しをする訳にはいかず、ここらで切り上げようとする。


「ああ。それじゃ、夜勤の方よろしくね」

 立ち去ろうとする木戸に、横峰はあと一つ重要事項を伝えようと呼び止めた。



「あ、先生。最近人手が足りないんですよ、なんとかしてくださいよ」


「仕方ないでしょう。婦長の合田さんとかも電脳化した人に襲われちゃって、怪我して休んでいるんだから。その分、健康で若い君達が頑張らないと」


「それは、そうですけど‥‥。それだけ危険ってことじゃないですか‥‥」


「もちろん解ってるよ。その辺りの対策も、しっかり取るようにするよ。それじゃ、夜勤よろしく。ああ、特別病棟の五〇二号室の鬼塚くんをよく見ていてね。もしかしたらの不測の事態になるかも知れないから。それじゃ、私はちょっと仮眠とるので」


 そう言うと木戸は右腕を軽く挙げて、スタスタと立ち去って言った。


「もう! 早くその対策を取ってくださいよ!」


 横峰の声は充分木戸の耳に届いていたが、気に留めずに廊下の角を曲がった。


「‥‥確かに、電脳化もとよりバーチャル症候群の患者が増えてきているな。やっぱり、またカウンセラーの中神君にでも来て貰った方が良いな‥‥」


 木戸は独り言を呟きながら、医師専用のベッドが置かれている詰め所へと向かっていった。

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