② コンピューター社会の移り変わりについて
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「おっ、藤宮。もう来れたのか。話しは聞いているが、体の方はもう大丈夫なのか?」
担任から体調を気遣われて、「ええ、まぁ‥‥」と真子は簡素に答えた。
「そうか。まぁ体調が悪くなったら、すぐに言えよ」
体調よりも、これから始まる中間考査試験が大丈夫ではないので、気持ちは絶不調になってしまっている。
朝のHRも終わり、早速一限目の社会のテストが開始された。
生徒たちにテストプリントが配られる。
電子情報端末機を用いて授業を受ける時代になっても、こうした紙のテストは変わらない。古き良き伝統だからなのか、カンニング対策といった理由も聞かれるが、なにはともあれテストはアナログ方式なのである。
さて、文系の教科は暗記系の設問が多く、日頃の勉強が重要だ。
しかし、つい三日前まで意識不明の様態になっていた真子にとって、テストのことすら忘れていたのに、勉強していた内容ですら夢の彼方へと消えてしまっている。
んーんーと悩みながら問いてはいるが、ペンの進みは遅かった。
(今ここで体調不良を訴えれば、帰っちゃても良いかな?)
『なにを馬鹿なことを言っている。たかがテスト。それにテストは、己の普段の実力を試すものだ。一夜漬けのテスト勉強など意味が無いぞ』
浅はかな考えもギンの正論にたしなめられてしまった。
(むー、変な存在な癖に一丁前なことを言って‥‥。てか、あなたが私の頭に乗っかかっているから、テストに集中できないのよ)
『はいはい。どれどれ‥‥』
ギンは真子の頭から机に降りると、テストの問題を見る。
内容は公民で、コンピューターによる生活の移り変わりについての時事問題が記載されていた。
■問2 コンピューター社会の移り変わりについて
――1990年代に「(A)」や「(B)」などの一般家庭でも扱えるようにした「(C)」を搭載したパーソナルコンピューターの誕生によって、IT時代の幕開けとなり、その後スマートフォンといった多機能携帯電話機やインターネット技術の整備・拡張がなされていった。しかし、ハードウェア(機器)の性能は向上していくが、「(C)」の性能は頭打ちとなっていた。だが、2015年に進化するOSと呼ばれた「(D)」の登場により飛躍的な進歩を促した。この「(D)」の最大の特徴は、人工知能に――
『なるほどな。AはMacOS-XかWindowsとかだな』
(え? あなた、問題が解るの?)
『電脳生命体は知恵を持っているのだ。それにネットを介して情報を得られるからのう』
(なに、それ便利。あっ! ねえ、ギンちゃん。ちょっとこの問題の答え)
『こういう時だけ、名前で呼ぶな。さっきも言ったが、己の普段の実力を試すのがテストだ。独力で解くのだな』
(なによ。私に憑り付いているんだから、少しくらい教えてくれても良いじゃないの……)
正論なのだが、どうも納得行かない。真子の恨み節もギンはアクビで返したのであった。
真子だけではなくほかの生徒たちも悪戦苦闘しながらテストを解いていると、ガラっと音を立てて、教室の扉が開いた。
テスト中にも関わらずに生徒たちは扉の方を向くと、一人の男子生徒が怯まずに入ってきたのである。
「なんだ。随分と重役出勤だな、中神。遅れた理由は?」
担任が入ってきた生徒の名前を呼びつつ、自身の電子情報端末機を手に取り、出席表アプリケーションを起動させると、『中神烈』の欄をタッチしてチェックを入れる。
「寝過ごしました」
烈は悪びれることもなく、簡潔に理由を告げた。
「三年になってから遅刻が多いな。遅刻は内申に響くぞ」
と注意するも、烈は「はぁ‥‥」と気の無い返事で返した。
烈の素っ気ない態度に担任は少し飽きれつつも、「たく。ほら早く席について、テストを受けなさい。ああ。テスト中だから、他の生徒の机を見ずに席に行けよ」と促した。
烈は言いつけ通りに極力よそ見をせずに、自分の席に向かっていく途中で真子の方を見ると足を止めて、そのまま真子を見た‥‥というより睨んだ。
その視線に真子とギンは気付き、烈と視線が合う。
不自然に立ち止まっている烈に対して、担任が「どうした」と投げかけると、烈は再び動き出し、一番後ろにある自分の席に座った。
しかし席に座ってからも、烈は真子を睨んだまま様子を覗っていた。
(なんで中神君‥‥こっちをジッと見てきてるのよ?)
烈の熱い視線を背中に感じる真子。テスト中の為、誰も相談できる状況ではないので、仕方なくギンに語りかけた。
『何奴だ、あの童は?』
(中神烈君。ただのクラスメートなんだけど‥‥)
『いつもは、あんな感じにお主を睨んでおるのか?』
(あまり喋らないし、普段は静か‥‥というか、何事に対しても無関心なタイプよ。それが、あんなに睨んでくるなんて‥‥あっ! もしかして、あんたの事が見えているんじゃないの?)
ギンが振り返り烈を見る。そしてギンは真子の左肩から右肩へと移動すると、それに合わせて烈の視線が動いた。
『‥‥その可能性は有るな。まぁ、あちらから何か言ってくるまで、待っておけば良い』
(待っておけって‥‥)
『お主も思っていただろう。下手なことを言って奇異の目で見られたくないのだろう。今はテストに集中するが良い』
ギンの言うことは妥当ではあるが、烈の熱い視線が気になり、テストに集中出来ないまま終了時刻を迎えたのであった。




