④ 見知った姿‥‥ギンだった
④
『どうした? さっきから呆けたままで』
電子情報端末機を持ったままボーっとしている真子に、ギンが声をかけた。
「あ、いや‥‥。そういえば、私、電脳生命体と‥‥千代田佳那さんのことを調べていたなって、思い出したの」
ギンは黙したまま真子を見つめる。
「ねえ、ギン。電脳生命体のアナタなら、何か知っているの? 電脳生命体が何かとか、千代田佳那が何に関係有るのかとか?」
『‥‥さあてね。わしが何故こうして存在しているのか、わし自身も解らん。その千代田佳那に関しても、ネットに転がっている情報しか知らん』
「もう、役に立たないわね‥‥」
意識不明の時を思い出せたが、まだ曖昧部分もあり、直前まで何を見て調べていたのかは詳細までは記憶になかった。
真子は改めて電子情報端末機の電源ボタンを押すが、やはり起動しなかった。
「やっぱり壊れているのかな」
ネットの観覧履歴を調べたかったが、起動出来ないのではどうしようもない。真子は部屋を出て、居間の方へ赴く。電子情報端末機には同期機能があるので、他の端末機でもメールなどのデータを共有することができる。そこで真子は、母の電子情報端末機を借りようとしたのだ、
「ねえ、お母さん。この端末機の電源が入らないから、修理に出しておいてよ」
「えっ? 真子、何やってるの! お医者さんから、暫くは端末機とかネットは使用しちゃダメだって言われたでしょう」
「だ、だって、無いと学校の勉強とかメールチェックとかが出来ないじゃない」
「それは分かるけど、お医者さんから使用禁止って言われたんだから。だから家のパソコンも使っちゃダメだからね」
「えー‥‥あっ!」
美由は真子から電子情報端末機を有無を言わさず奪い取った。
「これはお母さんが暫く預かっておくからね。ちゃんと修理にも出しておくから、それまでネットとかしちゃダメよ」
「‥‥は~い」
真子は渋々と言いつけに従い、落胆して自分の部屋に戻っていった。
「あ~あ~、これじゃ何も出来ないじやない」
そしてまた力無くベッドへとうつ伏せで倒れ込み、枕に顔を埋めた。今の若者から電子情報端末機が手元になければ、手持ち無沙汰である。
出来る限りあの日のことを思い出そうとしたが、頭の中に霧がかかっているようで、意識を失う直前に何を見ていたのか記憶は甦らなかった。
やがて脳の活動が停滞した為に睡魔が襲ってきたので、真子は眠りにつき‥‥夢を見た。
また、あの白い花が咲き溢れる世界。その中央で、銀色の毛並みをした猫が居た。
見知った姿‥‥ギンだった。
ギンの身体が陽炎のように揺らめいていると、いつしか人の姿を形成したと思ったら、眩い光が弾けて、世界を包んでいった。
真子が気が付くと、自分の姿は‥‥あの時の猫人間となっていたのだった。