◆プロローグ
◆プロローグ
真っ白な空間が地平線の先にも広がっており、地面には今まで見たことが無いような白い花が咲き溢れていた。
「‥‥ここは?」
藤宮真子にとって、初めての場所だった。
女性ならば誰しも足を止めて、ゆっくりと鑑賞を楽しみたいと感じさせるほどの美しい花を踏みつけながら歩んでいく。
可憐な花に対しての憐れで無下な扱いに、踏みたくないと思っていても自分の意思とは関係無く歩みを止められなかった。
仕方がないと勝手に動く足に任せつつ、
――ここは何処なのか?
花を踏みながら懸念点をポツリと呟く。気付いた時には此処に居て、こうして歩いていた。
何かを思い出そうとしても、上天を包む白い空のように頭の中はカラっぽだった。
真っ直ぐと進む中、ふとある事に気付く。
それは自分の胸に、ポッカリと穴が空いていたのである。自分の手の平と同じぐらいの穴が。
しかし、身体には何の痛みは無い。
何故、穴が空いているのかと疑問に思いつつ、空いた穴を覆い隠すように手を置いてみたが、穴は塞がらずにそのままだった。
今、自分が置かれた状況を把握出来ずにいると、何処からともなくサラサラと川のせせらぎが聴こえてくる。近くに川があるのかなと辺りを見回してみたが、川は見えない。すると、
『ニャー‥‥』
川のせせらぎに混じって、猫の鳴き声が聴こえたのである。進み行く先に、その鳴き声の主と思える姿が有った。
「猫‥‥?」
遠くからでも解るほどに、銀色の毛並みの大きな猫の身体が陽炎のように揺らめいている。
それはまるで蜃気楼のようで、その場所に光が屈折して本来そこには無いもの――猫の姿を映し出しているみたいだった。
そして猫には、その大きさもさることながら、他にも奇異な箇所があった。
「尻尾が‥‥二つ、ある?」
と口にした瞬間、猫が凄まじい速さで真子に突進してきたのである。
避ける間も無く猫は光の粒子となり、真子の胸に空いた穴へ入り込んだ。すると、穴から光が激しく弾け、白い空間は更なる白を纏った光に包まれた。
眩しさの中で英数字や記号、多種多様な言語などの膨大な文字が弾け出すように現れて、真子の身体の中に流れ込んでいく。
その光源の先に『人の姿』を見たような気がした―――――