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WIP 9/? メインストーリー開始

 翌日――

 シャルロットの部屋にタスさんは呼び出されていた。


 パッと見て図書館を連想する部屋だ。

 様々な本と本棚があり、中央には執務用と思しき立派な建物があった。部屋の主はさながら司書のようだ。


 執務机の前には紙が山と積まれている。

 どうやら領地で片付けるべき問題を陳情する紙などらしい。


 粗末なわら半紙の中に封蝋が施された立派な物も混じっている。領民だけではなく国家や他貴族、あるいは商人など様々な立場の者から訴えが届くのだろう。

 ……屋敷の掃除がとどこおるのもうなずける。これだけの実務を1人で処理しなければならないというのだから、広い家中を綺麗にしている時間的余裕などないだろう。


「ああ、ごめんなさいね、呼び出しておいて。

 あと1つだけ書類を片付けちゃうから」


 羽根ペンをインク壺につける。

 書類にサインをしようとするが――インクが尽きていたようだ。羽根ペンは音を立てるばかりで文字を記してはくれなかった。

 シャルロットが苦笑してから、大きくのびをする。


「……少し休めと神様がおっしゃっているようね。

 あら?

 今日もメイド服を着ているのね?

 他の服は着ないの?

 ……まあ、気が向いたらでいいわ。

 えっと――

 今、ネージュも来るから」


 言うとほぼ同時に、部屋の扉が開く。

 相変わらずフライパンを首からぶらさげた幼い女の子――ネージュが入って来た。


「おうシャルロット。

 来たぞ。

 ようへ――じゃなく騎士団は訓練させといた。

 ……まあ、あたしがなにか言わなくてもあいつら勝手に訓練するけど」


「来たわね。

 それじゃあ話を始めるのだけれど……

 少し困ったことになったの。

 今朝、王都から書簡が届いたのよ。

 ……どうやら、女王陛下がいらっしゃるらしいわ」


「はあ!?

 こんな幽霊屋敷にか!?」


「そうなのよ。

 で、大急ぎで掃除をしたいの。

 最低でも陛下が宿泊されるお部屋を綺麗に。

 可能なら屋敷全部を綺麗に」


「無理に決まってるだろ!

 この屋敷を綺麗にするのは、川の流れを逆にするぐらい難しいぞ!?」


「それ〝不可能〟ってことよね!?

 い、いえね……人手が足りないのはわかっているのよ。

 でも急に陛下がいらっしゃるから……

 書簡が届いたのが今日でしょう?

 それでね……

 いらっしゃるのが、今日なのよ」


「女王ってのは随分身勝手なやつだな……」


「そう言わないで。

 ご苦労の多いお方なのよ。

 私より少し年上というぐらいの年齢なのに、国の政務を執っていらっしゃるのだから。

 時間がとれた時に旧交を温めたいと思うのは仕方ないでしょう」


「知り合いなのか?」


「……あなたたちには話しておくべきでしょうね。

 私は小さいころ、王都で暮らしていたの。

 貴族の子女として当然の習いなのよね。

 まともな教育機関は王都にしかないから、そこで私も教育を受けたわ。

 それで、年齢が近かった陛下――当時は姫殿下とよく遊んだの。

 父が前陛下の友人だったことも関係していたかしら。

 それで、ここからが本題なのだけれど……

 宮廷には〝派閥〟というものがあるの」


「……なんかイヤな話になりそうだな」


「そうね。

 ようするに宮廷の権力闘争の話よ。

 派閥は大きく分けて2つ。

〝国王派〟と〝宰相派〟なのよ。

 中の闘争を理解できる前に、私は領地に戻ったけれど……

 話に聞くだにひどいものね。

 互いが互いにスパイを送り込んだり――

 会議で自分に有利な運び方をするため根回ししたり――

 ちょっとした発言を理由に敵派閥を失脚させたり――

 時には暗殺なんていうこともやるらしいわ」


「うわ……

 貴族とか偉い連中は腐ってんなー」


「……ま、それについてはなんとも言わないけれど。

 女王陛下はいわゆる〝国王派〟の頂点におわすのよ。

 宮廷にいると油断できない日々が続くわ。

 それに、信頼していると思っていた人が裏切るなんてこともある。

 精神が摩耗しそうよね。

 そこで、昔からの知り合いで――

 なおかつ宮廷の権力闘争にかかわりのない私のところで羽根を伸ばされるというわけ」


「なるほどな。

 つまり、こういう急な来訪はけっこうあるのか?」


「……ここまで急なのは珍しいわ。

 まあ、書簡の内容から見るに――

 突然暇ができたということらしいわ。

 前までの我が家であればそれでも対応できたのだけれど……

 今は人手が絶望的に足りないのよ。

 というか、前までなら普段から掃除ぐらい行き届いていたわ。

 ……父が借金してまで兵たちに装備を買い与えるから。

 本当はネージュたち騎士団にそろいの鎧をあげたいのだけれど……

 ごめんなさいね」


「いいよいいよ。

 そろった鎧とかそういう堅苦しいのは嫌いだ」


「……〝格好がつかない〟という理由もあるのだけれどね。

 とにかく、騎士団を招集してちょうだい。

 この掃除はある意味で実戦よ。

 私はあふれて止まらない庶務雑務を片付けておくから……

 タスさん指揮のもと、騎士団で掃除をしてちょうだい」


「たしかに掃除の指揮なら使用人の仕事だな!

 よし、わかった。

 騎士団の連中を呼んでくる。

 とりあえずここに集合でいいか?」


「どうしましょうかタスさん?

 ……え? 『呼ばなくていい』?

 自分で騎士団の元に出向くの?

 あら、違うの?

 じゃあどういう意味かしら?」


 これから始まるのはミニゲームである。

 戦闘指揮の要領で部隊を率いて〝ゴミ〟という名のエネミーを駆逐していくことになる。

 時間切れ(ターン制なので規定ターンに達すること)前にどれほどの〝ゴミ〟を駆逐できたかで評価が変わる。評価によりその後に訪れる女王のセリフが変化するのだ。


 シャルロットにとって屋敷を綺麗にしておくのは大事なことだろう。

 女王とは友人関係にある様子だが、友達に汚い家を見せるのは恥ずかしいものがある。


 しかしTAS的にシャルロットの羞恥心はどうでもいい。

 相手が〝ゴミ〟とはいえ、戦闘や移動をするとどうしても時間がかかるものだ。

 そして多くのターン制ゲームにありがちなことに〝なにもせずターンを終了する〟というコマンドを選ぶことができる。


 ならばTASがすることはただ1つ。

〝掃除をしない〟だ。

 なぜならばその方が早いから。シャルロットには女王に汚い家を見せてもらい、気まずくて恥ずかしい気持ちになっていただくこととする。


「……あの、早くどうするかを言ってもらわないと困るのだけれど――」


 コンコン、と音がする。

 階下で扉がノックされた音だ。


 大きなお屋敷は玄関もまた大きく、ドアノブの代わりに金属の輪がついていたりする。鉄輪で木製のドアをたたくことによりノックの音はより響き渡る。

 ……普通の領主などは来客を取り次ぐための家令がいたりするものだ。

 しかしシャルロット邸の窮乏した状況を考えれば、それは贅沢な望みというものだろう。


「――来ちゃったみたいね。

 ああ……どうしよう。

 こんな状態の家をご覧に入れたら、陛下はなんとおっしゃるかしら……

 お付きの兵士たちの視線も怖いわ。

 ……でも、しょうがないわね。

 あまりお待たせしても失礼にあたるし――

 行きましょうか。

 不格好だけれどまあ、陛下なら許してくださるでしょう。

 ……本当はもう少しどうにかしたかったけどね」


 ガックリと肩を落とす。

 タスさんは慰めるように彼女の背を叩いた。

 ネージュが半眼になって言う。


「いや、お前使用人だろうが。

 家が汚いのお前のせいみてーなもんだろ。

 なんで〝気にするな〟みたいな感じで接してるんだよ」


 使用人ではないので勘違いから出た発言だが、家が汚い原因ではあるので間違ってもいないという指摘だった。

 タスさんは時間がもったいないので反応しなかった。

 けっして聞かなかったふりをしたとかではない。

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