28話 WIP 28/? 王城潜入
王都を北上して王城正門へとたどりつく。
城は川に囲まれた石造りの高い建物だ。現在は跳ね橋が降りているが、城門そばに立つ衛兵が異常事態に気付けばすぐにでも跳ね橋はあげられ、深い堀が行く手を阻むだろう。
タスさんたちは物陰に隠れて城門の様子を見ていた。
衛兵は異常事態を見逃すまいと目を光らせているが、今いる位置から彼らに視認されることはないだろう。
すぐそばに馬を連れて、シャルロットがオデットに問いかける。
「……正面から入れるでしょうか?」
「難しいと思いますわ。
一般兵に〝女王だ〟と名乗ったところで――
彼らはおそらく、わたくしの不在を知りませんもの。
影武者はそのぐらいの働きをしてくれているはずですわ。
根拠もありますのよ。
一般兵にまでわたくしの不在が伝われば――
彼らによって、街に噂が広まるでしょう。
酒場の話題や家族の話題まで監視し防止することは不可能ですもの。
そして、街にわたくしの不在を噂する声はなかった。
ということは、一般兵に女王を名乗ったところで、怪しまれるだけですわ。
彼らの目を盗み入る方がいいかと」
「隠し通路を使うのですね?」
「目を盗む目的であれば、それがもっとも優れた手段でしょうね。
しかし、以前に言った不安もありますわ。
宰相派に見張られている可能性です。
どの道にせよ、危険な目に遭う可能性はあるでしょう。
つまり、けっきょくは賭けになってしまうのですわ。
そしてわたくしは、賭け事が苦手です」
「……なるほど。
じゃあ――タスさん。
あなたはどういうふうに王城に入ったらいいと思う?」
問われたので行動を開始する。
タスさんは何気ないそぶりで城門まで歩いていく。
そして、衛兵の前で立ち止まった。
衛兵が不思議そうな顔をする。
「ん? どうしたんだいお嬢ちゃん?
ここは女王様のおわすお城だよ。
許可がないと入っては――」
言葉が終わらないうちに、タスさんはスカートの中から弩を取り出す。
そして、重力を無視した動きで高く飛び上がり――
衛兵の頭を思い切り殴った。
いい音がした。
衛兵がフニャフニャと膝から崩れ落ちる。
……だが、城門を守る兵士である。つまり、たった1人でいるはずがない。
タスさんの蛮行はそばにいた衛兵に見られていた。
子供だが武器で衛兵を殴ったのだ。言い逃れはできない。
衛兵は当然の権利とばかりに、手にしていた槍をタスさんに向けた。
タスさんがチラリと背後を振り返る。
視線の先にはシャルロットたちがいた。
シャルロットが情けない声を出す。
「たーすーさーんー!
いきなりなにをしているのよ、あの子は!」
オデットが笑った。
「まあまあ。
いきなりなにかをするのがタスさんではありませんか。
……ともあれ、突撃する以外になさそうですわね。
もしもタスさんを見捨てるならば話は別ですけれど。
わたくしは、仲間を見捨てるような者を友に選んだつもりはありませんわ。
ただ――一般兵はなにも知らない可能性が高いのです。
できれば殺さないでくださいね」
「わかっています。
……ああ、オデット、1つ確認が。
王城に馬で乗り入れてしまっても大丈夫でしょうか?」
「許します」
「では、失礼いたしまして――
ネージュ、ヤイヌ、行くわよ。
タスさんを援護しましょう!」
馬にまたがり、腰の剣を抜く。
ネージュが肩をすくめた。
「まったく無茶するガキだなあ……
ま、あたしはコソコソするよりこういう方が好みだけどな!」
大剣を抜き放ち、走り出す。
相変わらず引きずっているせいで足取りが重い。
ヤイヌが長弓に矢をつがえる。
「ヤイヌは理解する。
おそらく狙われるであろう。兵士は足を。
それは結果だ。配慮された安全。
今のヤイヌは星をも射貫く。
失敗はない」
タスさんの周囲には、衛兵が続々と集まってきていた。
総勢8人。その誰もが立派な鎧と剣を装備した近衛兵相当の実力者だということがうかがえる。
この世界における近衛兵は〝王宮勢力に仕える強い兵士〟程度の意味を持つ呼び名だ。
装備などに統一された規格はない。剣を持っている者もいれば、弩を持っている者もいる。
タスさんは現在、2人に槍を突きつけられており、3人から弩で狙われ、さらに剣を持った3人がジリジリ詰め寄ってきているという状況に置かれていた。
こちらの装備は弩だ。偶然(必然)に拾った強い弩だが、再装填に時間がかかるという欠点は変わらない。
もしプレッシャーに負けて放てば、周囲をとりかこむ近衛兵たちが一斉にとびかかってくる。しかし、放たないならばけっきょくは距離を詰められて終わりだ。
詰んでいる。だからこそ起死回生につながるかもしれない1発を放つことがなかなかできない。
もっとも、それは普通の人間の場合だ。
TASは緊張や恐怖とは無縁の概念である。
容赦なく放たれた矢が、正面にいた槍近衛兵の武器をはじき飛ばす。
足への一撃だ。優れた弩から放たれる大きな回転矢は、武器を弾いた衝撃で槍近衛兵のバランスを崩し昏倒させた。
訓練されていないのであれば、今の一撃を見て肝を冷やすだろう。
しかし近衛兵にそのような動揺はない。
彼らは連携のとれた動作でタスさんへ飛びかかる。幼い女の子1人に大の大人が7人がかりという図は情けなくもあるが、職務に忠実な彼らは相手が何者だろうと油断も手心もなかった。
むしろ顔色には警戒の色が濃い。
彼らは優れていた。
目の前にいるのがメイド服を着た幼い女の子ではなく、もっとおぞましく理解不能な、この世の概念では説明できない存在であるということを本能で感じていたのだろう。
訓練のたまものだ。強い相手を強いと感じられる者は生存する。そして生存以上の勝利は存在しないのが自然界である。
だから、彼らの失態は。
目の前にいる、弩を持ち、メイド服を着た、幼い女の子にしか見えない存在の脅威を正確に感知しすぎていたことだった。
不意打ち気味の矢が背後から足元を抉った時、彼らはようやく事態を理解した。
城門の外を見る。
そこから、乗馬した少女と、大きな剣を引きずるようにして走ってくる少女の姿が見えた。
だが――彼らの背筋を凍らせる存在は、そのどちらでもなかった。
もっと遠くに、なにかがいる。
そいつは彼らにとって化け物というほどのものではなかった。存在感の異質さではメイド服の少女が群を抜いているし、迫り来る迫力で騎馬や大剣に勝るほどのものはない。
静かに弓を引き絞る射手だ。
民族色の濃い刺繍の入った、独特な服を着ている。
装備しているのは射手の身長より長さのある長弓。まともに立てて構えられないからだろう、やや弓を斜めにして矢をつがえていた。
射手には異質さも迫力もない。
しかし、近衛兵たちにある確信を抱かせた。
かわせない。
あの矢は、避けることもできないし、逸れることもない。
射手を生かしておいてはならないと、近衛兵たちは理解した。
まずは弩近衛兵たちが射手に狙いを定める。
……だが、距離の途方もなさに絶望する。
彼我の距離は軽く200ピエはあるのだ。10矢放って7矢を100ピエ先の的に当てられれば熟練の弩使いと認められる。100%命中させられるならば神弓の射手だ。
その倍の距離から矢を放つ射手に、どうして当てられようか。
全員が200ピエ先の射手に意識を奪われたのは、実際のところ、ほんの一瞬だった。
普通ならば油断とも言えないような時間である。
……しかし〝一瞬〟というのは〝まばたき1度のあいだ〟という意味の言葉だ。
そしてまばたき1度は0,3秒。だいたい3分の1秒ということになる。
ようするに――20Fだ。
TASを相手にしているにもかかわらず、近衛兵たちは20Fも意識を逸らしたのだ。
許されざる隙だった。
次々に近衛兵たちの武器がはじき飛ばされる。
タスさんは踊る。
シャルロットが突撃をする。
ネージュが大剣を思い切り振る。
ヤイヌが弓の威嚇で近衛兵の動きを封じこめ――
戦闘は決着した。
タスさんがシャルロットに耳打ちした。
「……」
「……えっと。
あのね、『潜入成功』じゃないからね?
こんな派手な入城を潜入とは呼ばないと思うの。
でも――
こうなってしまった以上、迅速に行動した方がよさそうね。
行きましょう。
オデットを連れて――玉座の間へ。
彼女の影武者と交代し、トリスタン様からいただいた宣誓書を読み上げれば……
宰相派へのとどめの一撃となるはずよ。
そしたら国内はもう少し平和になるわ」
メリークリスマス!(白目)
前の投稿から四ヶ月ぐらい空いてしまいました。あるいは五ヶ月の可能性も。
言い訳をさせてください。
四ヶ月のうち一ヶ月は、すでに前の話の後書きで言った通り、普通に忙しくて執筆が手につきませんでした。
忙しい日々が終わって『書くぞ』となった時に、ちょっと病気になってしまったのです。つまり、うち一ヶ月は体調の不具合により書けませんでした。
で、残り二ヶ月何をしていたかと言うと、文章のリハビリです。
一ヶ月離れるとマジで書けなくなるものですね。びっくりしました。
そんなわけで遅れに遅れてしまいましたが、完結まで予約投稿を終えましたので、未だに待っていてくださる方がいらっしゃいましたら、どうかまた読んでやってください。よろしくお願いします。
なお、今年中に終わります。




