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WIP 25/? 山道(王都を目指す途中)

 王都への道のりは、来た時と同様に北方山脈を通ることとなった。

 行きに通った場所である。ヤイヌの案内は的確だったし、危惧していたよりは山賊や獣も少ない道のりだということが実証されている。

 ……もっともそれはシャルロットやネージュなど、タスさんではない人物の視点での話だ。


 山賊や獣と(強制イベントを除いて)出会わないのは、乱数調整でエンカウントを避けているからに他ならない。

 TASは無駄な戦闘を嫌う。時間がかかるからだ。

 なのでタスさんと行動をともにする限りにおいて、シャルロットたちが戦闘経験をなかなか積めないのは仕方のないことなのである。


 そういったこともあり、山を歩くタスさんパーティー4人(タスさんは無表情なのでタスさんを含まない数)の表情は明るい。

 馬2頭が並んで歩ける程度の道をヤイヌに先導されながら、話をしている。

 オデットがネージュに話しかけていた。


「そういえば、ネージュさんは元傭兵なのですわよね?

 傭兵にまつわる話は色々聞きますが――

 みな貴族の視点で語られたものばかりで、退屈なのですわ。

 よろしければ傭兵の視点で傭兵の話を聞かせていただけませんか?」


 ネージュはオデットと同じ馬に乗っていた。

 申し出られて不満そうな顔をしたものの、背後にいるオデットに顔を見せることはできない。

 肩をすくめてイヤそうに語り出す。


「面白い話はねーと思うけどな。

 傭兵の話ねえ……

 色んなやつがいるな。

 あたしの仲間だって最初っから傭兵だったのはママぐらいじゃねーか?

 元貴族、靴職人、絵描きを目指してたヤツとか、あとは吟遊詩人もいたな。

 ああ、農家にいたけど村が襲われた時に傭兵に加わったのもいたっけ。

 貴族様は傭兵を戦闘狂いの腕っ節以外能がねーヤツだと思ってるかもしれねーが……

 戦いの強さだけでやってる傭兵は1人もいないと思うぞ。

 ……良くも悪くも傭兵ってのは〝食っていく手段〟なのさ」


「戦っていないあいだはなにをされているのです?」


「なにって……

 そりゃ、普通に生きてるよ。

 もっともあたしらは基本的に旅暮らしだ。

 領地はねーし、故郷にも帰りたくないヤツが多いからな。

 だから店を持つことも、農地を持つこともできねえ。

 傭兵になったってだけで色々悪い噂になるしな。

 だからまあ……

 戦争がないと略奪しかできることねーかな」


「略奪というのは具体的にどのような?」


「……あんた王族の1番偉い人だろ?

 そんなの聞いてどうすんだよ」


「おっしゃる通り王族の1番偉い人なので、民のことを知らねばなりません。

 戦争はきっと近々終わりますわ。

 敵国のみなさんはずいぶんと砦の堅牢さに自信をお持ちのようですし……

 そこが落ちれば、講和を持ちかけてくることもありえます。

 相手が講和を持ちかけてくるのであれば、王族として応じるつもりです。

 そして――

 戦争が終わったあと、傭兵全員に山賊化されては困るのです。

 彼らが略奪に頼らず生きていく方法を示さねばなりません。

 そのためにまず、傭兵というものについて知る必要があるのですわ」


「つってもなあ。

 まともにやってけない事情があるから傭兵なんてやるんだよ。

 中には自ら望んで傭兵をやるような変わり者もいるけどさあ……

 基本的に〝傭兵稼業ができるヤツ〟じゃなくて〝傭兵稼業しかできないヤツ〟ばっかりだ。

 だからママもあたしを傭兵じゃなくて戦術家にしたかったみてーだしな。

 ……まあ、聞きたいなら教えるけど。

 略奪っつーのは、アレだな。

 まずはてきとうな村を見繕う。

 で、兵力をちらつかせて脅す。

 食い物を根こそぎ差し出させる。

 差し出さないなら滅ぼす。

 以上だ」


「村に兵力があった場合は?」


「そういう村は普通、襲わない。

 略奪の目的はあくまでも〝戦わず安全に食い扶持を稼ぐこと〟だ。

 たいていは脅せばどうにかなるし――

 根性のある村でも、門をぶち破れば態度を変える。

 つっても傭兵だって村を滅ぼすのが目的じゃねーんだ。

 食い物を根こそぎ差し出させるつっても、ある程度は譲歩する。

 根こそぎ要求することで、相手の出せる限界値を測って――

 あとは交渉で村が暮らせるギリギリまで引き出す感じだな。

 変な話だが、襲われ慣れてる村だと、食い物や財産の隠し方がうまい。

 酒を全部差し出したはずの村が翌週とかに普通に祭りをしてたりする時もある。

 そういう場合は村人にしてやられたってことで、苦笑いするだけだな。

 ――あ、ただ……」


「なにか例外でも?」


「中には本気で狂った傭兵もいるんだ。

 普通は生きていくために傭兵をせざるを得ないヤツばっかりだけど……

 人殺しとかが好きで仕方なくって、そのために傭兵をやるヤツもいるらしい。

 そういうのは早い段階で他の傭兵か騎士に滅ぼされるんだが……

 殺しが目的のくせに生き残ってる傭兵団は、本当に強い。

 貴族とかを殺してていい装備も持ってるしな」


「……旅の途中で出会いたくはありませんわね」


「そうだな。

 もし出会ったら……

 あたしらの実力だと、あきらめた方がいいだろうな。

 逃げられるなら逃げる。

 捕まりそうなら――自分から命を絶つ方が賢明かもな。

 詳しくは教わってねーけど、とにかくひどい目に遭わされるらしい」


 想像するだけでも恐ろしいというように、ネージュが身震いした。

 オデットの顔もやや青ざめているようだ。

 タスさんは同じ馬に乗るシャルロットに向けて、小声で言った。


「……」


「……『はいはいフラグフラグ』?

 急にいつもの不思議な言葉を使ったわね。

 どうしたの? また予言?

 うん? 『ヤイヌを呼んで』って?

 何か用事でもあるのかしら。

 わかったわ。

 ――ヤイヌ!

 ちょっとこっちに来てくれる?

 タスさんが用事があるみたいなの」


 シャルロットが呼びかける。

 すると、山道の上のほうにいたヤイヌが、山肌を滑るように目の前に降りてきた。


「タスサン。

 ヤイヌは来る。なぜならば呼ばれたからだ。

 あなたは言うことができる、用事」


 タスさんはシャルロットに向けて小声で語る。

 シャルロットが通訳のようにヤイヌへと言う。


「えっと……

 これから少しすると人影が見えるから……

 …………見えた人影を射ると幸せになれるらしいわ」


「ヤイヌは知っている。

 いわゆる通り魔だな?」


「発言だけ聞くと完全に通り魔そのものよね……

 でもタスさんがいきなり撃った相手は必ず敵だったし……

 ――あ、そういえば珍しいわね。

 いつもだとタスさんが率先して撃つのに。

 たしかに山道だと(クロスボウ)より長弓(ロングボウ)の方が都合がいいかもしれないけれど。

 ……え? 『稼ぎに入る』?」


〝稼ぎ〟というのは、その名の通り稼ぐことだ。

 お金だけの話ではない。戦闘によって得られる経験値や、ゲームごとに設定されているオリジナルの数値(熟練度など)を稼ぐ際も〝稼ぎ〟と呼ばれる。


 TASは普通、急ぐものだ。

 そして〝稼ぎ〟とは〝経験値やお金などを稼ぐためにストーリー攻略とは別に時間をとる〟という行為である。

 避けられるものならば避けたい。


 しかし、TASはチートとは違う。

 チャートがあり、乱数調整ができていてもできないことはあるのだ。

 そして複数人対複数人の戦いがメインのゲームでは、1人だけ強くてもどうにもならない事態がありうる。


 そういった事態をあらかじめ知っているTASは、事態に直面して困る前に、必要なキャラクターだけを育成する。

 ……つまりヤイヌはタスさんによって育成価値があるキャラクターに選ばれたのだった。

 ちなみに武器が飛び道具というだけが、育てられる理由である。

 タスさんは〝必要かどうか〟以外で他者を区別したりしない。なのでよく意見を違えるネージュが見放されることも、最初からずっと一緒にいるシャルロットが優遇されることもありえないのであった。


「……こんな山道で何が稼げるというのかしら。

 まあ、あなたの言っていることが理解できないのは、いつものことよね。

 ――ヤイヌ。

 そういうわけだから、タスさんの指示通りにお願いね」


「ヤイヌは承諾する。

 人を見たら的と思うことになる」


「そ、それじゃあよろしくね……

 ……本当によかったのかしら。

 タスさん、ヤイヌに言ったことだけれど――

 敵意がある相手が近付いてくるから、先制して攻撃しろってことでいいのよね?

 ……ああ、そうなのね。

 よかったわ。投げやりな顔でうなずかれなくって……」


 シャルロットが胸をなでおろす。

 ヤイヌは山肌をのぼって、高所から見下ろすように先導を再開した。


 ほどなくして、静かな山道に矢を射る音がかすかに響く。

 敵襲だ。

 普通ならばタスさんが敵の襲来を予知したことにおどろく場面だった。

 しかしタスさんとの旅は人間の常識的な感覚を麻痺させる。もはやタスさんが予言した程度で驚愕をあらわにする者は同行者に存在しない。


 タスさんはヒラリと馬から下りて、援護に向かった。

 普通、ゲームなどでは敵を倒した際に経験値が入る。

 しかしレベルの低いキャラクターだと、一撃でとどめを刺せないことが多い。

 そこで〝削り〟と呼ばれる作業が必要になるのだ。

 タスさんは現在、相手のHPをギリギリまで減らすために行動をしていた。


 ほどなくして、敵対勢力に動きがなくなった。

 相手の位置が遠くてよく見えないが、かすかにうめき声が聞こえる。


 タスさんはシャルロットの馬に戻る。

 全員が警戒しつつもゆっくりとうめく敵の元へと向かっていった。


 倒れこむ敵の1人に接近する。

 と、ネージュがおどろいた声をあげた。


「あ!

 こいつら――さっきちょっと言った傭兵団じゃねーか!

 ほら、殺しが目的で、ひどいことばっかするっていう」


 タスさんが再び馬から下りる。

 そして、おもむろに倒れている男の武器を奪った。


 弩だ。

 金細工で装飾がほどこされており、見るだに高級品である。

 それから、タスさんが所持しているものより1回り大きかった。

 弓系列の武器は基本的に大きいほど威力が高い傾向にある。この弩も装飾が美しいだけの飾り物ではなく、実戦での使用が前提の実用品であることがわかった。


 シャルロットがおどろく。


「まあ、いい物を見つけたみたいね。

 装飾からすると、かなりの高級品かしら?

 よかったわね。

 稼ぎっていうのはこれのこと?」


 半分当たりで、半分外れだ。

〝稼ぎ〟とは〝経験値やお金などを稼ぐためにストーリー攻略とは別に時間をとる〟という行為である。

 そしてTASさんは時間の無駄が嫌いだ。

 経験値の〝稼ぎ〟に入るにしても色々なことを同時に行なう。


「……」


「あら、『これから違う敵にも遭う』のね?

 わかったわ。警戒していきましょう」


 シャルロットが請け負う。

 ……弩は手に入れた。

 次の戦闘では長弓を手に入れることになるだろう。

 そのあとにも経験を積むために多くの戦闘が待ち受けているのだが――

 タスさんは別に言わなかった。

 どうせ相手の顔を見ることもなく戦闘は終わるのだ。ここで状況を事細かに説明するのは時間の無駄なのであった。

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