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WIP 21/? 塩奪還作戦・後編

 騎乗したシャルロットと、弩に矢を装填したタスさんは太い一本道をのぼっていく。

 濃い靄が視界を覆い隠す。普通ならばすぐ目の前に敵がいるかもしれない恐怖に怯えるはずだがタスさんはすでに相手の位置を把握している。無用な怯えは存在しない。


 シャルロットはキョロキョロと周囲をうかがっていた。

 そんなことをしても視界が悪いので敵を発見はできない。だが、緊張と恐怖が彼女にそうさせるのであろう。

 間違いなく人並みの恐怖心を持っていた。にもかかわらずTASとともに歩んでいる。


 ……さらに少し歩む。

 靄の向こうに敵が見えた。


 山賊だ。だが、武装はかなりいい。鎖帷子の上には様々な人を殺して奪ったのであろうそろわない鎧を身につけていた。

 ヤイヌの情報通り、長弓(ロングボウ)を装備している。

 靄の中だがしきりに目を凝らしている。

 ……彼らはきっと、ヤイヌの村にいる狩人が全力で自分たちの奪った塩を取り戻しに来ると思っているのだ。事実はたった4人の少女しか来ていないとは知らずに。


 ――靄が薄まる。

 敵長弓兵の視線が、タスさんとシャルロットへ向く。


「気付かれたようね。

 ……私が突撃して注意を集めるわ。

 タスさんはその隙に――

 ……え?

 なに? 『気付かれてない』?

 だって確実に目がこっちを向いたわよ?

 ……でも、たしかに射る様子がないわね。

 どういうこと?

 ……『索敵範囲のギリギリ外を通ってる』?

 ……………………なにそれ」


 索敵範囲というのは、相手がこちらを発見する視界の広さのことだ。

 人間の視野角は通常、だいたい左右に240度、上下に130度ほどと言われている。

 しかしゲームにおいてはもう少し狭い場合が多い。相手があまりに人間らしい敏感さだと攻略が無理になってしまうケースがありうるからだ。


 だが、現在タスさんが行っているのは、そういったまともな意味での索敵範囲のギリギリ外を通るという行為ではない。


 たとえばまばたきをした一瞬、視界はゼロになる。

 また、人は視界に映るものすべてを認識しているわけではない。動くものほど反応しやすく見えやすいが、止まっているものは気にもかけなかったりする。

 視力の話ではなく意識上の視野角――言うなれば〝索敵範囲〟ではなく〝認識範囲〟とでも表現すべきものの隙を突いているのだ。


 その結果、面白いことが起こる。

 ステルスゲーと呼ばれる〝隠れ潜むゲーム〟でこの認識範囲を完全に把握して行動すると〝目の前でダンスをしても見えていない〟という現象が起こるのだ。


 目の前でダンスをしてもバレないのだ。

 少し馬が横切ったぐらいで気付くはずがない。

 これができるからこその正面突撃である。


 相手は背後から(クロスボウ)で撃たれて初めてこちらに気付くのだ。そして疑問に思うはずだ。〝どこから現れたんだ〟と。

 ……正面です、と言ってもおそらく信じないだろう。

 彼らは正面を充分に警戒しており、向かってくる者はねずみ1匹だって見逃さない覚悟を抱いているのだから。それが馬を見逃すなどと認められるはずがない。


 だが、常識では認められないことが現実になる。

 タスさんとシャルロットは、警戒する長弓兵の正面を堂々と通過し、彼らの背後に回り込んだ。


 シャルロットがポカンとする。


「……絶対に何度もこっちを見られたわよね。

 視線が私で止まったこともあったように思うわ。

 なのにどうして気付かないのかしら……

 と、ともかく背後をとったわね……

 これからどうするの?」


 言葉の代わりに、小さく弩の発射音が響く。

 未だ濃い靄の中に、くぐもった男の悲鳴が響いた。


 命中だ。しないわけがない。

 相手の位置はおろか認識範囲すらも把握している。それのみならず運勢すら味方につけているのだ。〝偶然靴紐を結び直して助かった〟などという幸運すら許さずに、弩は静かに、そして確実に敵兵を減らしていく。


 制圧は1分ほどで終わった。

 タスさんの装備が弩ではなく長弓だったらもう少し短くすんだだろう。……つまりは、時間がかかったのは装填時間のせいに他ならない。


 ――靄が晴れる。

 弩の矢が突き刺さった男たちが、苦しみ、うめく姿があらわになった。


 スタッ、と軽い着地音が左右から響く。

 ネージュとヤイヌが崖をのぼりきって到着したのだ。


 惨状を見て――

 ネージュが口をあんぐりと開けた。


「……なんだこりゃ。

 はあー……本当に正面から突っ込んで殲滅させやがった。

 ここはおどろいたり感心したりするべきなんだろうけどなあ……

 すごすぎてあきれるしかねーよ。

 まったく見事だ。

 すげーなタスさん」


 賞賛するように笑いかけた。

 シャルロットが困惑するような顔になる。


「……間近で見ていてもなにがなんだかわからなかったわ。

 本当に当然のように奇跡を起こすのね。

 ……あなたへの信頼をいっそう強めたわ。

 ともあれ――

 倒れている連中の中央にある木箱――

 あれが塩かしら。

 よかったわねヤイヌ」


 視線を動かす。

 ヤイヌが所作なさげに矢を弄んでいた。


「……活躍を勝ち取ることはできなかった。

 しかし、取り戻すことだ、塩。成功。

 ありがたい。感謝する、無上。

 村長に届けたい。

 浮上する問題。これから向かう場所、どこか」


「だったら、私たちと一緒に来る?」


 シャルロットが首をかしげる。

 ヤイヌが生真面目な顔を向けた。


「いいのか?」


「……あなたはオデットが陛下だということを知ってしまったし。

 それに、私たちは山の案内を求めているわ。

 もちろん、最後まで同行するのは辛い旅だけれど……

 山の案内だけでも頼めるなら嬉しいわ。

 どうかしら?」


「断る理由がない。

 ヤイヌの自由に対してシャルロットの命が懸けられた。

 感じる。返すべき恩義。

 示す……奇跡を体現する手伝いを欲する」


 ヤイヌがひざますく。

 シャルロットが困った顔でタスさんを見た。


「……だいぶ期待されちゃったみたいね。

 でも、仲間が増えるのは心強いことだわ。

 ――タスさん。

 いらない、なんて言わないでね?

 ……そう。よかったわ。

 じゃあ、これからもよろしくね。

 まだ東方の戦地まで、長い旅が続くのだから」

2015年7月31日、いただいた感想を反映してキーワードを追加いたしました。

※TSに見えます というやつです。


2015/08/06

感想をもとにキーワードを追加、変更

主人公は守護霊  ※TSに見えます→※TSに見える非TS


また、更新再開は2015/08/07になります。

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