表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/34

WIP 14/? 傭兵システムのチュートリアル

 ネージュが語る。


「旅をするのに兵力は必要だろ?

 まあ、オデットは女王だから戦力にならないとして……

 あたしとシャルロットだけじゃ、まだ不安だからな」


 シャルロットが苦笑した。


「タスさんもいるわよ」


「……ああ、そうだな。

 どうにもしゃべらねーから忘れてた。

 たしかにあれだけの(クロスボウ)の腕だったら立派な戦力だ。

 じゃあ、えっと、あたしと、シャルロットと、タスだけじゃ足りねーだろ?

 ……あ? なんだよタス。

 ああ? 『〝さん〟を付けろ』?

 ……お前意外とめんどくせーな。

 わかったわかった。タスさんな。はいはい。

 とにかく、3人じゃさすがに数が少ねーと思うんだ。

 秘密の旅って話だから……

 最大でも10人か。

 まともな戦いをするなら最低五人はほしいな。

 今確保できてる兵科が――

 シャルロットが騎馬兵(ナイト)だろ?

 足の速さで敵の裏に回り込んだり、突撃力で歩兵を蹴散らしたりする役割だな。

 弱点は――攻撃を受けると落馬するから、乱戦とかに弱いことだな。

 あと、(パイク)兵に待ち構えられたりするとまったく手が出せなくなる。

 で、タス……さんが弩兵だな。

 敵指揮官を狙撃したり、騎馬兵を落として進軍の勢いを減らしたりしてくれよな。

 ただし矢の装填に時間がかかるから、接近されると一気に不利になる。

 気をつけろよ。

 あたしが突撃兵(グラディエーター)だ。

 緒戦のぶつかり合いとか、乱戦に強いな。

 ただ、遅いんだ。

 ちょっとやそっとの矢なら止まらねーけど、騎馬兵には翻弄される。

 バランスを考えるなら――

 あとは槍兵ともう1人突撃兵か騎馬兵がほしいな。

 幸い、うちの傭兵……じゃなかった。騎士団には人材がいる。

 シャルロット。

 連れて行くやつを選んでくれよ。

 領土の防衛も考えたら、多くて4人ぐらいだな」


 シャルロットが首をかしげる。


「どうしようかしら?

 タスさん。

 あなたの意見も聞かせてくれる?」


 いわゆる傭兵システムだ。

 自分の領地の兵舎や街の酒場では兵士を雇うことができる。これにより数や兵科をそろえて様々な戦局に対応できる部隊を作り上げるのだ。


 しかし、兵士数が増えるということは、動かすユニットが増えるということである。

 ……人を動かすというのは時間がかかるものだ。雇う際にも時間を食うし、いざ戦闘で指示を出す手間も増える。そしてTASは時間がかかることが大嫌いだ。


 なので答えは聞かれる前から決まっていた。

 タスさんはシャルロットに耳打ちする。


「……」


「『味方( いらない)』?

 ……誰も連れていかないということ?」


 シャルロットが眉をひそめた。

 ネージュが口元を引きつらせる。


「おいおい……

 たった3人じゃ戦術もなにもねーよ。

 敵はきっと大人数で来るぞ?

 悔しいが、あたしらより強い連中もたくさんいるはずだ。

 量と質で劣る時点で戦略としては負けなんだ。

 なら戦術で勝つしかねーだろ?

 でも、3人じゃできることが少ねーのはわかるな?

 戦術を使うからには、目的があるんだ。

 すっげーでっかい分け方をすると3つだな。

 奇襲、分断、突撃。

 だいたいの戦術がこのどれかを達成するために行われる。

 陽動とか待ち伏せとか早駆けとかも、この3つのためにやるよな。

 ま、分断のための奇襲とか、突撃のための分断とか……

 この3つを複雑に繰り返すのが実戦なんだけどな。

 で、それぞれの目的についてだけどよ……

 まず、突撃するには相手と同等以上の戦力が必要だよな。

 突撃ってのは〝正面からお互いに小細工せずにぶつかること〟だ。

 地形によるけど、小細工抜きで大人数とぶつかって勝てるわけねーだろ。

 だから3人で突撃はできねー。

 んで分断するからには、分断回数引く1の人数が最低限必要だよな。

 そもそもこの分断ってのは別働隊がいるから活きる戦術で……

 3人で別働隊まで作る余裕はねーよな?

 そうすると3人でできることはほぼ奇襲しかねーんだよ。

 でも、奇襲するには相手に情報戦で勝ってないといけねーんだ。

〝こっちは相手の位置を知ってるけど相手はこっちの位置を知らない〟必要があるからな。

 でも宰相派ってのはでっけー組織なんだろ?

 そんな相手に情報戦で勝てるわけねーだろ。

 だから、少しでも人数がいるんだよ。

 状況によって奇襲、分断、突撃と戦術目的を選べるようにな。

 わかったか?」


 ネージュがため息をついた。

 シャルロットが感心したような顔をする。


「……あなた、戦術に詳しいのね」


「ママはどうにもあたしを後方指揮官にしたかったみてーだからな。

 色々教え込まれてる。

 それに、うちの野郎どもの話も聞いてるしな。

 戦術知識があったうえで実戦の話を聞くと――

 話に出てくる戦いの目的とか、色々わかるんだよ。

 でも、あたしは前線で戦うぞ。

 ママに言われたんだ。

〝この剣を持ち上げられるようになったら戦っていい〟ってな。

 で、がんばって持ち上げられるようになった。

 だからあたしは戦う。

 文句はねーはずだ」


 ジロリと居並ぶ屈強な男たちをにらむ。

 男たちは炎天下のソフトクリームみたいにしおれた。……ネージュは愛されているようだ。たぶん傭兵団――今は騎士団になった組織全体の娘みたいな扱いなのだろう。

 とすれば〝父親たち〟は娘に戦ってほしくないはずだ。戦いは危険だ。怪我をするし、死ぬこともある。親の気分なら当然の心境だろう。


 ただしネージュ本人は戦いに出たがっている。

 加えて〝ママ〟から言いつけられた〝大剣を持ち上げられるようになること〟という約束もたしかに守っているのだ。


 なるほど〝父親たち〟はしおれることしかできないわけである。

 ネージュの剣は相当に大きい。地面に突き立てればネージュの小さな体などすっぽり隠れてしまいそうなほどだ。それを持ち上げるという無理難題を成し遂げたのだから文句も言えないだろう。


 シャルロットが苦笑する。


「ネージュ……

 あんまり騎士団のみんなをいじめないであげて。

 彼らはあなたのことが心配なだけなのよ」


「んなこたわかってる。

 でも、あたしはもう心配されるほど弱くねーんだ。

 それなのにこいつらは……

 あたしに内緒で勝手に戦ったりするんだ!

 ――いいか!

 オデットとの旅で、あたしはもっと強くなる!

 帰ってきたら、名実ともにママの傭兵団を継ぐんだ!

 あ、いや、今は騎士団だけど……

 どうにも混乱するな」


「騎士団と呼び続けていればいつか慣れるわよ。

 ――それで、タスさん。

 ネージュの話は聞いたわよね?

 そのうえで、もう1度考えてみてくれないかしら。

 本当に3人だけで行くの?

 私の個人的な意見では――

 どちらの意見もありだと思うのよ。

 たしかに人数が少ないと戦闘で不利だわ。

 でも、多人数だと見つかる危険度も上がるわよね。

 そもそも――〝戦闘をしない〟ということができるなら、それが最善なの。

 だから〝3人だけで行く〟という意見もわかるのよ。

 多人数だからこその危険――

 少人数ゆえの危険――

 両方考えられるからこそ、タスさんの意見を聞きたいの。

 あなたは神がかったところがあるからね。

 それに未来予知としか思えない、不思議な情報収集手段もあるのでしょう?

 だから、これから先――

〝戦闘をしない〟という前提で動くか。

 あるいは〝戦いをする〟という前提で動くか……

 どういう展開になると予想しているかを、数で教えてちょうだい。

 戦わないなら少人数、戦うなら多人数ね」


 シャルロットはそう言うが――

 TASである。

 戦うなら多人数で望みたいというのは至極まっとうな思考だ。

 しかしTASの思考にまっとうさを求めてはならない。

 ミスをしないこと、不運に見舞われないこと、さらに未来になにが起こるか知っていることが前提の旅路なので〝戦いは起こるが少人数〟という選択肢もありえるのだった。

 タスさんは結論を耳打ちする。


「……」


「そう。

 やっぱり『3人で行く』のね。

 わかったわ。

 そういうことだから――

 ――ネージュ。

 あなたの意見ももっともだけれど、隠密性を優先しましょう」


 真面目な顔で結締事項を述べる。

 ネージュが不満そうに唇をとがらせた。


「……シャルロットがそう言うならわかったよ。

 でもなー。

 隠れながら進むより、戦っちまった方が楽だと思うけどな。

 精神的にさ……

 ビクビクしながら旅するとか心がもたなそうだよなー」


「そうは言うけれどね。

 戦いを続けていたら体がもたないわ。

 ……難しい天秤よね。

 でも、タスさんの予感に従うわ。

 彼女は〝戦いはそう起こらない〟と予想しているのだから。

 ――ねえ、タスさん。

 …………あの、なんで顔を背けるの?

 戦いが少なそうだから少人数って提案したのよね?

 ね?」


 タスさんは答えない。

 ここで〝戦いは起こるけど少人数のが早いからそうした〟などと言えば、もうひと悶着あるに決まっているのだ。

 それはあまりにもタイム的にまずい。

 なので沈黙。決して追及が面倒だからとかではないのだ。


 シャルロットがあきらめたように息をつく。


「領土発展の話と同じね。

 こうなったタスさんはなにも答えてくれないわ。

 ……もともと、あまりしゃべらないけれど。

 では、お屋敷に帰りましょうか。

 アンたちを待たせていたら悪いし……

 それに、略式叙任も受けたいからね。

 ……それが終わったら旅支度よ。

 ここが国土の西側で――

 向かう先は国領東の土地を得るための戦場ね。

 長く苦しい旅になるわ。

 今日は楽しく、ゆっくりしましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ