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WIP 12/? 領地経営システムのチュートリアル

「陛下のご命令で旅立つ前にやらなければならないことがあるわ。

 それは――私がいないあいだ、領地を経営できる人材捜しよ。

 心当たりもあることだし、当たってみましょうか」


 シャルロットとタスさんは、2人で馬に相乗りしてとある村に来ていた。

 領主の館からそう遠く離れていない場所にある村だ。

 やはりこの時代当然の警戒なのか、家々の周囲には木製の壁が設置されており、やぐらの上で弓を持った村人が目をこらしているのが確認できた。


 シャルロットが開門を求めれば、村は早々にこちらを出迎える。

 慣れた様子で中に入り、とある家の前で馬を止めた。


「マルギット!

 私よ!」


 呼びかければ、家の中でバタバタと慌てるような足音がする。

 しばしあってドアをはね飛ばすような勢いで女の子が出てきた。


「いらっしゃ――

 あ、シャルロット様だ!」


 シャルロットを見て無邪気に喜ぶ。

 タスさんと同じかそれ以下というような年齢の、まだまだ幼い女の子だ。

 着ているのは平民服とでも言うべき地味な色のワンピースだ。茶髪をおさげにしており、動くたびに髪が揺れる。


 シャルロットは女の子を見て笑顔になった。


「あら、アンじゃない。

 少し見ないあいだに大きくなったわね。

 ……マルギット――お母さんはいるかしら?

 少しお願いがあって来たのだけれど」


「おかーさんはいません。

 領主様を追って東に行きました」


「……その〝領主様〟は私の父よね?

 う、うーん……

 相変わらず情熱的な……

 ――ああ、タスさんはよく知らないわよね。

 実はマルギットというのは、以前屋敷にいた侍従長なの。

 有能な人で、特に事務作業に強いから、秘書のようなこともしていたわ。

 それで、なんというか……

 父に惚れているみたいなのよ。

 何度か私に〝お母さんと呼んでくれてもいいのですよ?〟みたいなことも言っていたわ。

 ……財政難になった時も、給金はいらないから働くと言ってくれたのよ。

 でも、さすがに悪いから暇を出したわ。

 その結果、戦場にまで父を追っていくとはね……

 昔から父がどうして気付かないのか不思議なぐらい情熱的なアプローチをしていたし……

 そんなことじゃないかと思っていたのだけれど。

 ……困ったわ」


「シャルロット様どうしたの?」


「……実は、私は旅に出なければならないの。

 そこで私がいないあいだの財政管理を任せたかったのだけれど……

 いないのなら他を当たるわ」


「じゃ、アンやるよ?」


 幼い少女が首をかしげる。

 シャルロットが微笑んだ。


「ありがとう。

 けれど、アンにはまだ難しいお仕事なのよ。

 気持ちだけありがたく受け取っておくわ」


「そうなの?

 ね、シャルロット様、それって――

 領地1反あたりの収穫量における説率の割合を住民感情と財政実情で天秤にかけて調整しそこで得られた収入から領地を維持するために必要な金額を算出したり余剰分を領土整備及び住民感情の配慮に回して経済・感情的安定を図りつつ一方で兵隊を雇い入れるなどして物質的安全面も考慮していくことでしょ?

 できるよ?」


「…………………………

 えっと。

 ……それ、マルギットに習ったの?」


「うん。

 おかーさんがいざという時シャルロット様のお役に立てるようにって。

 アンだけじゃないよ?

 ドゥとトロワもできるもんね。

 ねー」


 家の中に呼びかける。

 すると、ドアの隙間からさらに2人の少女が顔を出した。

 3つ子のようだ。新たに現れた2人は、顔立ち、背格好、年齢、服装、髪型、どれもこれもアンのコピーみたいにそっくりだった。


 シャルロットがため息をつく。


「……アンが3人いたら、私の3倍は早く仕事が片付きそうね。

 じゃあお願いしてもいいかしら?

 それで、お給料なのだけれど……」


「才能で捻出するからいいよー」


「……心強すぎて自分が情けなくなるわ。

 旅から帰ったら必ず払うから、よろしくお願いするわね……」


「うん!

 ね、ね、シャルロット様。

 そっちの子は誰?

 新しいメイドさん?」


 アンの視線がタスさんへ向く。

 同じぐらいの年齢の子供だ。気になるのだろう。

 シャルロットが苦笑した。


「彼女はタスさんよ。

 わけあって私が引き取って育てることにしたのだけれど……

 なんていうか、私がいなくても立派に育ちそうなのよね。

 あなたたちぐらいの年代の子供はすごいわね。

 私もまだまだ自分を子供だと思っていたけれど――

 若い世代の才能を目の当たりにして、一気に歳をとった気分だわ」


「シャルロット様っておかーさんより年下だよね?」


「……あなたたちから見たら、比べる対象はそこなのね。

 もちろん年下よ。

 というか、まさかマルギットと年齢を比べられるとは思っていなかったわ。

 5年ぐらい前はあなたたちと似たような背丈だった気がするのだけれど……

 遠い昔のことのようだわ」


 フッと深遠を見つめるように目を細める。

 タスさんはその肩を優しく叩いた。


「……慰めてくれるのね。

 ありがとうタスさん。

 ともあれ――領地経営は心配なさそうね。

 騎士団にはネージュが行って騎士団長代行を選別しているし――

 意外と早くことが終わってしまったけれど、いったんお屋敷に帰りましょうか。

 ――ねえ、アン。

 今日中にお屋敷に来られるかしら?

 事務作業の引き継ぎをやっておきたいの」


「わかったよー」


「よろしく頼むわね。

 ……私が旅立ったあと、なにかあれば手紙を送るから。

 旅先で儲けが出た時もお金を送るわ。

 がんばって領地を発展させて、早くあなたたちにお給料を払いたいものね。

 ――ねえ、タスさん。

 ……だからなんで目を逸らすのよ。

 領地発展にかんしてなにか後ろ暗いことでもあるの?」


「……」


「『オマケ要素はやらないので……』?

 どういう意味なのかしら?

 領地発展は別におまけではないわよ。

 というか、領主という立場を考えるとむしろ本業なのだけれど……

 まあいいわ。

 あなたが妙な言葉を使った時は――

 それ以上説明する気がないものね。

 でも、余分に儲けたりしたら領地に送るわ。

 それぐらいはいいでしょう?

 ……やっぱり目を逸らすのね」


 TASにおいて〝余分な儲け〟は存在しない。

 経験値配分、金銭配分、すべて必要最低限でまかなうのがTASである。

 もちろんそういうカツカツ運営をする理由は〝そうしたほうが早いから〟だ。


 なのでプレイヤーキャラクターは自然と死闘を続けることになる。

 これから先に待ち受ける戦いもその多くが〝一生に1度あるかないかという幸運に恵まれなければ勝てなかった〟というような戦いになるだろう。

 ……もっとも、幸運に恵まれるのは確定なので死闘(超余裕)としか表現できないような不思議な戦いになっていくのだが。


「じゃあ、残る仕事を片付けに行きましょう。

 次は――ネージュと騎士団の様子を見ましょうか。

 そちらに陛下もいらっしゃるはずよ。

 ――じゃあね、アン。

 あとでお屋敷でまた会いましょう」


「わかったよー」


 アンたち3つ子が手を振って見送る。

 シャルロットとタスさんは彼女たちを振り返りながら次の目的地に向かった。

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