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WIP 11/? 会話イベント

 シャルロットの執務室に来る。

 いるのは部屋の主であるシャルロット、オデット女王、それに戦闘で活躍できるはずだったのに出番を奪われて存在感が危ういネージュと、出番を奪ったタスさんだ。


 執務室には椅子が1つしかない。

 そこは普段シャルロットが書き物をするのに使っている場所だ。しかし女王を立たせるわけにもいかないので、部屋の主が座るべき場所には国の主が座ることになった。


 執務机の前に3人で並んで話を聞く。

 オデットは静かに語り出した。


「なにから話したものでしょうか……

 まずは、先日、わたくしの伯父に女の子が産まれたのです。

 伯父というのはつまり、先代国王の兄ですわね。

 ただし私生児ということで国王には選ばれなかった――

 ここまではご存じかしら?」


 シャルロットがうなずく。


「はい。

 私生児――つまり、わけあって片親が名乗り出ることができない子供ですね。

 ……貴族は血統社会とはいえ、少し同情します」


「先代国王が亡くなられた時もちょっとしたいざこざはありましたのよ。

 ただ、伯父自身に王位に就く意思はないようで……

 わたくしが王座に就く時にも、快く協力してくださいましたわ。

 伯父の協力、そして他に王家の直系もいなかったという理由があり――

 わたくしは現在、王女となっております」


「3年前のこと……ですよね?」


「そうですわね。

 ちょうどそのころ、伯父は東方の戦争の総司令官に着任いたしました。

 時折王都に帰ってくることはありますけれど――

 基本的には、戦地にいらっしゃいますわ。

 ……優しい伯父なのは事実です。

 けれど玉座に就くわたくしを見て複雑な思いもあるのでしょう。

 また、宮廷内の権力闘争に嫌気が差していたという理由もあるかもしれません。

 ともあれ、伯父は王都と玉座から離れました。

 ですが――

 最近になって、急に、伯父の子供を身ごもった女性が現れたのです」


「急にというのは?

 まさか妊婦が降ってわいたわけでもないでしょうし……」


「そのまさかですわ。

 降ってわいたのです。

 その方は突然城門の前で〝王家の子を宿している〟と宣言したのですわ。

 王族を身ごもったなどと言っても、普通は信用されません。

 しかし、その女性というのが――

 困ったことに、祖父のいとこの孫にあたるのです」


「……人間関係が複雑化してきましたね」


「王家の権力闘争は〝どのぐらい王族の血が濃いか〟の競い合いですからね。

 少し整理しましょうか。

 まず、話題の中心になっているのが、先日産まれた伯父の娘です。

 現在その赤ん坊が正統な王位継承者であると担ぎ上げられています。

 そして〝正当性〟とは〝王族としての血の濃さ〟です。

 つまり伯父の娘とわたくし、どちらが王族として血が濃いかという話ですわね。

 それを語るために――

 伯父の子がどれぐらい王家の血が濃いか、その親の素性を語ろうというところですわ」


「整理していただいてありがとうございます。

 陛下の伯父様は、前国王の子で間違いなく王族なのですね。

 ただし、母親がわからないため王位継承はできなかった。

 半分は王家の血が流れており、もう半分は不明ということになりますね。

 ……すごく不敬な言い方になってしまいますが」


「かまいませんわ。

 なるべく簡単に整理しましょう。

 2人の子供たちが退屈そうですものね。

 タスさんと……

 首からフライパンをさげていますわね?

 お料理当番ですかしら?」


 視線はネージュに向いていた。

 ネージュが不機嫌そうに言う。


「……あたしは騎士団長だよ」


「あらまあ、そうでしたの?

 これは失礼……

 でしたらなおさら、この話を聞いておくべきですわね。

 ……あなたたちがどう動くかを決めるために重要なのですから」


 オデットが微笑む。

 シャルロットが続きをうながした。


「陛下、それで続きですが……」


「突如現れた伯父の娘の母親――

 つまるところわたくしの伯母に当たる人物ですわね。

 彼女は祖父のいとこの孫なのですわ。

 その話が本当ならば、その女性は完全なる王族なのです。

 祖父は亡くなられ、父もすでにおりませんし、伯父も戦地で連絡はまだですが――

 その女性を詳しく調査させた結果、彼女の発言に間違いはないと証明されております。

 つまりその女性と伯父との子供であれば、完全に王族と言えるのですわ。

 しかし伯父は私生児の扱いです。

 シャルロットの言い方を借りるのであれば――

 赤ん坊は4分の3ほど王族という感じになりますわね。

 残りの4分の1は、伯父の母がわからない限り不明のままですわ。

 ……ところが、こちらも判明したのです。

 伯父の母と、その女性の祖母は同一人物だったのですわ」


 オデットが深刻な顔をする。

 シャルロットがおそるおそる確認する。


「……つまり、陛下のおじいさまは、いとこの女性とのあいだに子供を作ったと?」


「そのようですわ。

 近親婚とまではいかないまでも、そこまで近い血縁はさすがに外聞が悪いのです。

 なのでおじいさまはこのことを伏せられました。

 その結果、伯父は私生児の扱いをされることになったのですが――

 祖父とそのいとこの子であると証明された今、伯父の血統は疑いないものになりました。

 ……普通、王家といえど婿や妻は貴族からとります。

 なので、王家同士の子という時点で――

 わたくしの父よりも、伯父の方が王家の血が濃いことになるのです」


「待ってください!

 それでは、陛下の伯父様はご自分の姪とのあいだに子供を成したことに……」


「そうなりますわね。

 祖父であれば〝外聞が悪い〟と隠すでしょう。

 ……今、産まれたばかりの赤子は〝宰相派〟に担ぎ上げられようとしています。

 わたくしを追い落とすためだけの道具にされようとしています。

 たしかに今の話をすべて事実として聞いた上で――

〝外聞が悪い出自の子供だ〟と責め立てることも可能でしょう。

 ……しかし、わたくしにはできません。

 話が本当であれば、その子はわたくしのいとこにあたるのです。

 すでに政争の道具にされかけ、誰1人その子を人間として扱っていないのです。

 血がつながったわたくしまでそんな愚かなことをしてしまえば――

 いったい誰がその子に愛情を教えるというのでしょう?

 そして――

 その子を責めるのは、同時に伯父の出自を責めることにもなります。

 どちらも近しい血縁の者から産まれているからです。

 伯父は私生児として扱われ、とうに苦しみを負っています。

 さらにむち打つことなど、わたくしにはできません」


「しかし、陛下はお命を狙われているではありませんか」


「それこそが、わたくしの希望なのです」


 毅然とした表情で言い切る。

 シャルロットが首をかしげた。


「どういうことですか?」


「その赤ん坊の母方の出自はすでに証明されております。

 しかし――本当に伯父の子かどうかはまだ、確認がとれていないのです」


「つまり伯父様の本当の子ではないかもしれないと?

 ……ですが、そのような嘘をつくでしょうか?

 さすがに手紙の1つも送れば証明できると思いますが……」


「東方の戦地にいる伯父の元へ送った伝令が〝戦死〟いたしました。

 手紙も返ってはきません。

 そして――確認をしようとしているわたくしの命が狙われています。

 宰相派は伯父に確認をとられたくないと考えている証明ではないでしょうか?」


「……では、本当は陛下の伯父様の子ではない可能性も?

 そうなれば――

 さすがに王家の血筋とはいえ、今まで市井にいた者の子ということになって……

 王位継承の正当性が薄れる……んですかね?」


「そうですね。

 そうなれば、さすがに宰相派も担ぎ上げるのをやめるでしょう。

 ですので、わたくしは東方の戦地へ行きます。

 伯父に直接会って、ことの真偽を確かめたいのです。

 ……それに、ともすれば伯父の身が危ういかもしれません。

 伯父の口から赤ん坊の父親について語らせない方法――

 それは現女王であるわたくしを殺してうやむやにしてしまうか――

 伯父を亡き者にしてしまうかの2つなのですから」


「王族を(しい)すると!?

 さすがにそのような大それたことを考えるとは思えませんが……

 ……実際に追っ手がかけられているのを見ると、そうも言えませんね。

 しかし、殺してしまったあとはどうする気なのでしょう?

 いかに宰相派が権力を持っていたとして、国家に反逆しては大義がたちません。

 大義なき権力には誰も従わないと思うのですが……」


「殺してしまえばどうにでもなりますわ。

 むしろ、わたくしより戦地にいる伯父の方が、殺したあとで死んだ理由に困らないでしょう。

 ……ですから、わたくしは信頼できる戦力を連れて戦地へ行かねばならないのです。

 シャルロット。

 わたくしが最も信頼するのは、あなたです。

 お願いです。

 どうかわたくしと東方の戦地へ発っていただけませんか?」


「それが、お1人でいらした理由なんですね」


 シャルロットがため息をつく。

 それから、視線を転じた。


「ねえタスさん。

 どう思う?

 私個人としては陛下に協力――

 ん?

 なにかしら?」


「……」


「『いいからさっさと支度しよう』?

 あ、あの……簡単に決められることじゃないのよ?

 危険な旅になるわ。

 それに領地のことも――

 ……『いいから早く』って……

 あなた本当にせっかちねえ。

 ピクニックに行くような話じゃないのよ?

 失敗したら私たちは宰相派にあることないこと罪を着せられるかもしれないし……

 え? 『失敗しない』?」


 TASとは完璧なプレイングを行うものだ。

 なぜそんなことができるかと言えば、実機ではできないタイミングで細かくセーブ&ロードを繰り返して、成功するまでやり直すからである。

 この〝やり直し〟を〝追記〟と呼ぶ。


 追記をする理由は様々だ。

 チャートで予定していた場面で望む乱数を引くことができなかったり、できると思っていた操作がなぜかできない瞬間があったりなど多岐にわたる。


 だからこそTASを完成させるというのは根気が必要になる。

 そして根気さえあればTASは完璧以上の結果を出してくれるだろう。なにせ乱数調整という運命すら操る方法があるのだから。


 失敗しないとはそういうことだ。

 正確に言い直すのであれば〝成功するまであきらめない〟ということ。TASによる華麗なプレイングは、その実、地道な努力の繰り返しをする根気により行われているのだった。


 シャルロットがため息をつく。


「……なんだか知らないけどすごい自信ね。

 わかったわ。

 陛下、私とタスさんはお供します。

 ネージュは――」


「あたしも行くぞ」


「……だそうです。

 とはいえ、領地の警備も怠ることはできません。

 騎士団全部を連れて行くことは無理ですが……」


 オデットが笑う。


「ありがとうシャルロット。

 少人数でも充分よ。

 そもそもあまり大げさにできない旅だものね。

 ……タスさんも、協力してくれてありがとうね。

 さ、今日は休んで明日にも早速出ましょうか。

 ことの真偽を確かめるため――

 願わくば権力闘争を終わらせるため――

 東方の戦地へ、いざ参りましょう」

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