赤神さん、友達と遊ぶ
ゴールデンウイークも終わり、
五月のとある日曜日です。
私は今度ははるかを待っています。
今日ははるかと遊ぶ約束をしているのです。
やっぱり私は待ち合わせの二時間前にきてしまいました。
驚くことなかれ、はるかはすでに待ち合わせ場所にいました。
「あっれー?
かがみん早いね!まだ二時間前だよ?」
そうですよ。
二時間前ですよ。
「は、はるかも早いね。
どれくらい待った?」
「んー、一時間くらいかなぁ。」
えーと…これは待たせたことを謝るべきなのでしょうか。
まぁ一応謝っときましょう。
「ごめんね、はるか。」
「んあ?
ひひひ、謝るとこじゃないでしょ。
むしろ二時間も早く来てくれたんだから。
これで二時間多く遊べるね!
ありがとう、かがみん!」
なるほど。
ものは考えようですね。
この人は普通の人が考えないようなことを考えるようです。
異人です。
「よーし!!じゃぁさっそくいこーか、かがみん!」
「え……えーと…どこにいくの?」
「ゲーセン!!
近くにコスプレできるプリクラがあるんだ!
かがみんに着て欲しいのがあってさ!!」
「こ、こすぷれ…?」
え、無理無理。
さすがに断りますよ、それ。
「ね!ね!いいよね?!
いこいこー!!」
「えっと…その………うん……。」
そうでした。
私はノーとは言えない日本人なのでした。
まぁ、でも…
「ひひひ、かがみんなら絶対かわいいよー!」
はるかが楽しそうだしいいかな。
「じゃじゃーん!!」
「わぁ!はるかかわいいよ!!
すごい似合ってる!」
「ほんと!?ありがとう!!」
スタイルがよくて長身でさらさらヘアーなはるかはなんでも似合うと思います。
これは……たぶん不思議の国のアリスかな?
ほんとによく似合っててかわいいのです。
それに比べて
つるぺたで身長も低くて癖っ毛な私…。
魔法使いの格好をしてて小学生のお遊戯会さながらです。
不公平な世界です。
神様がいたとしたらきっと性格ひん曲がってるんでしょうね。
「てかさ!てかさ!
かがみんのほうがちょーかわいいじゃんか!!なにそれ!!犯したくなるわ!!」
冗談に聞こえないから怖いのです。
「私なんて全然かわいくないよ…。」
「ひひひ、かがみさん!!
うちはね、嘘もお世辞も言わない正直者だよ?知ってるでしょ?」
ええ、知ってますとも。
そんなはるかだから私と一緒にいれるんでしょうね。
「そんなうちがほめてんだからさ
そこは喜んどいてよ。
そのほうがうちも嬉しいし!」
褒めるにしてももう少し言葉を選んでほしいものですが…
「そうだね。
はるかは正直者で寂しがりやだからね。
ありがと、はるか。」
「な、ななななんだよそれー!
そんな素振りみせたことないよ、うち!」
「ふふふ、はるかさん。
私にはわかっちゃうのですよ。
知ってるでしょ?」
「ぬぬぬー…なんか恥ずかしいぞ…」
そのなけなしの羞恥心を違うところにも活用してほしいものです。
そのあと私たちはプリクラを撮ってお昼ご飯を食べてカラオケにいって…などなど
はるかに色んなところに連れて行ってもらいました。
私たぶん今日が人生で一番お金を使っていると思います。
「あー!遊んだねー!
今日は楽しかったよ。
誘ってくれてありがと、かがみん!」
「こちらこそだよ。
でもよかったのかな?」
「んにゃ?なにが?」
「はるか、学校で私以外にも日曜日に遊びにさそわれてたから…」
そうなのです。
はるかはクラスでは友達が多くて人気者なのです。
まぁ、はるかのような人が好かれるのは私にもわかります。
「いやいやー。
先にかがみんと約束してたしね。」
「わ、私のことなんてよかったんだよ…?
はるかが遊びたいほう選んでくれてよかったよ?」
「んにゃ?そうしたつもりだけど?」
「あ………」
わかってる、わかってるんです。
はるかがほんとうに私と一緒にいたいと思ってくれてるのはわかってるんです。
でもわからないんです。
「なんで私なんかと一緒にいてくれるの…?」
「ん?」
「……あ……」
しまった…
つい言葉に出してしまいました。
「……だ…だって私って別に好かれるところとかないし、一緒にいても喋るのとか苦手だし…
しまいには私といたら隠したいことまで知られるかもしれないんだよ?
それなのになんで一緒にいてくれるの?
なんで友達になってくれたの?」
だめですね、私。
友達なんて作る資格、私にはきっとないんだと思います。
聞きたくてもずっとがまんしてきたんだけどな…。
一度口にしてしまったら止まらなくなりました。
「うざかったから。」
「…………え……?」
聞き間違いであってほしいと思いました。
友達と…はるかと一緒にいれなくなる覚悟は常にしてきたつもりだったのですが…
こんなたった一言で私は吐き気とめまいに襲われてしまうのでした。
「最初はね。
一年生のときから一緒で席も結構近かったからさ、かがみんのことはよく目にとまることがあったんだよ。
ムカついたね、すげームカついた。
なんか私はひとりで大丈夫な感じとか全部諦めてる感じとかすましてる感じがすげームカつくやつだって思った。」
「は…はるかは…私のこと……き…きらいだったの……?」
「嫌いだったよ。」
「え……あ……えっと………」
「初めてかがみんに話しをかけたときだってかなぎに乗っただけ。
そこには好奇心とちょっとした同情があっただけだよ。」
「そ…そんな……」
「まぁ、今は違うけどね。」
「………ふえ?」
「ひひひ、だから最初だってば。
それに別に私は面白いとかよく喋るとかで友達になるならないを決めてるわけじゃないし。
かがみんは優しいし、何より一緒にいて落ち着くんだ。
それにかがみんの目のこと聞いてムカついた。
ろくに知りもしないでかがみんを色メガネで見てた昔のうちにムカついた。
その目のせいで今までどんな目にあってたかはなんとなく想像できるのに。
なのにうちは……」
「は、はるか…?」
「だからさ、今はかがみんが大好きだよ。
かがみんはうちの大事な大切な大好きな大親友だよ。これで納得できたかにゃ?」
「………う……うぅ…」
「ありゃ…?かがみん……?」
今の私の状態をなんと言えばいいのでしょうか。
吊り橋効果とは違いますが、緊張の糸が切れた途端に不意打ちで告白されたような…
そんな感じです…。
「うああぁあああん!」
私ははるかの胸で泣いてしまいました。
「わわ!ちょ、ちょっとごめん!
少しいじわるしちゃったかも!!」
はるかはなにも悪くないのです。
はるかにムカつくように、すましているように見せていたのは私なんですから。
強いて言えば昔の私を取り巻く環境がそうさせたのです。
「はるか!!」
「は、はい!!」
私ははるかが好きです。
友達として、親友として大好きです。
そんなはるかが私のことを親友と言ってくれました。
だから私はちょっと無茶なお願いをしようと思います。
「ずっと…ずっと私と一緒にいて……
友達として…親友として…ずっといてよ……
お願いだからどこにも行かないで……」
私は私のひみつを打ち明けて一緒にいてくれる人をこの人たち以外に出会ったことがありません。
怖いのです。
いつこの人たちを傷つけてしまうのか
いつ嫌われてしまうのか
いつこの関係が壊れてしまうのか
今幸せだと思える分、その恐怖もまとわりついてくるのです。
「……行かないよ。
私はかがみんと一緒にいるのが一番楽しいし安らぐ。
おちゃらけた私だけどさ、こればっかりはかがみんに信じてほしいよ。」
「………うん…信じる。」
「ひひひ、やっぱりかがみんはかわいいね!」
頭の片隅で、おちゃらけてる自覚はあるんだなと思いながら
私ははるかの言葉を染みさせながら私は涙をふくのでした。
はるかは私に初めて話しかけてきたときはどす黒い感情はなく、好奇心でもなく同情でもなく本当に話してみたいっていう感情を持って話しかけてきたように見えたのです。
まぁ、ひとつこんな疑問がわきましたがどうでもいいことですね。
うん……どうでもいいことなのです。
「ひひひ、今日の話をしたらかなぎのやつ、きっと嫉妬するんだろうなぁ。」
「え?確かに思わずはるかの胸に抱きついて泣いちゃったけど…女の子同士だし……
男の人ってそんなので嫉妬するの?」
「わかってない、わかってないよかがみん!
あいつの女々しさを。」
「へー、でも嫉妬されてそんな悪い気はしないかな。」
「あり、結構まんざらでもない感じ?」
「んー…
かなぎくんは私にとってはじめてできた男の人の友達だから。
これが恋なのかって言われるとちょっとわかんないや。」
「そかそか!
まぁゆっくり考えていけばいんじゃないかな。」
「うん!
それはそうと、はるかに一つお願いがあるよ。」
「んにゃ?なになに?」
「かなぎくんの反応が楽しいからって今日のことを話すとき盛りすぎないようにね!」
はるかの手にかかれば並盛りのお話しもてんこ盛りになってしまうのです。
「ひひひ、うちの明日の気分次第かな。」
「………もー」
そんな感じで私とはるかが初めて遊んだ日は終わりました。