赤神さん、デートする
さてはて、あれから…あれからっていうのは私があの人たちをおばかさんと再認識した日からですね。
あれから数日が経ち、待ちに待ったゴールデンウイークです。
いや、訂正します。
別に待ちに待っていませんでした。
一人暮らしだしバイトもあるし
それ以外の予定は皆無なのです。
あ、私バイトしてます。
そりゃぁもう苦痛で仕方ありません。
そしてゴールデンウイークのとある一日。
私は池袋の東口でかがみくんと待ち合わせをしております。
まさかのデートに誘われたのです。
以下ゴールデンウイークに入る前日の様子です。
「なあなあ、かがみ。
ゴールデンウイークさ、空いてる日とかある?」
「え?…うん、何日かは何もないよ。」
かがみくんは期待やら不安やらの感情を覆いながら私に話しかけてきました。
……私の前だとほんとに感情が顔にでる人なのです。
正直、私はそれに関してあまり悪い気はしません。
「よ、よかったらさ、映画でも見に行かないかな…?」
「え………いいの?」
この人はお休みの一日を私ごときに使っていいのでしょうか。
というか私に関しては友達に遊びに誘われてこの返しはどうかと。
今更ながら思います。
「あ…いや…かがみがよければだけー
「ずるい!!」
よくほんとに最後まで喋らせてもらえない人ですね、かなぎくん。
「ずるい!ずるい!ずるい!
うちだってかがみんと遊びに行きたいのに!!」
「…よ、よかったらはるかも一緒に遊びに行こうよ。」
「………」
ほらほら、かなぎくん。
露骨にいやな顔しないでください。
「………うち…ゴールデンウイーク中は家族と旅行に行くからこっちにいないんだ…」
いいじゃないですか。
羨ましい限りです。
落ち込む意味がわかりません。
私には一生叶わないことですよ。
ほらほら、かなぎくん。
露骨に嬉しそうな顔しないでください。
そもそも私と二人なんて超絶つまらないと思いますよ?
「じゃ、じゃあさ、はるかとはゴールデンウイークが終わって日曜日とかに遊びにいこうよ、ね?」
「にゃにゃ!!うん!!
約束ね!!絶対だよ!!」
「……うん!約束!」
不思議な気分です。
まさか私のほうから遊びに誘うことがあろうとは、
しかもこんな心の底から喜んでくれるとは…
あ、泣きそうです、私。
涙腺が弱っていけませんね。
まぁそんなこんなで
以上ゴールデンウイークに入る前日の様子でした。
待ち合わせの時間の二時間前についてしまいました。
ぶっちゃけ私はいま浮かれています。
友達と遊ぶのなんて小学生ぶりなのですから仕方ないのです。
そしてちょっと悔しいですがドキドキしています。
男の人と二人で遊ぶのはお父さんを除いて初めてなので。
お父さん…私にはもはやその人のことをそう呼ぶ資格はないのですが他に表現の仕様がないのでそう呼ぶことにします。
「おお…早いなかがみ…待たせたかな…?」
あなたも十分早いですよ。
待ち合わせ一時間前です。
まぁ待ったか待たないかで言えば待ちました。
でもそんなに気にしないでください。
人を待つことができるなんて幸せなことじゃないですか。
「ううん、全然だよ、かなぎくん。
私が早く来すぎちゃっただけだから。
かなぎくんも早いね。」
「いや…まぁ浮かれちゃってるかな俺…」
「あはは、でも私のほうが早かったし私のほうが浮かれてるのかも。」
「え、まぢ?それってー
「友達と遊ぶのなんて小学生以来だからさ。」
「…そうだね……友達ね…」
あららら、どうしましょう。
かなぎくんをいじめるのが少し楽しくなってきてしまいました。
満面の笑みを浮かべながら私は思うのでした。
「よし、映画のチケットも買ったし昼飯でも食べに行こっか。」
「うん、今回はかなぎくんが決めていいよ。
私が決めると辛いとこになっちゃうから。」
しかしながら映画とはナンセンスなのです。
しかも恋愛ものかぁ。
四方八方からピンクの感情が飛び交うのでしょうね…
いやだなぁ。
まぁ、映画は嫌いじゃないのですが映画館が嫌いというかなんというかです…
正直前の人たちの感情が見えてしまうと集中ができないのです。
「友達と遊ぶの小学生以来って言ってたけどさ、感情が読めるだけでそんなに友達ができないものなのか?」
「………そうだね。
まぁ、私のコミュニケーション力の欠落もあるかもしれないけど、感情が読めるってだけで友達ができなかったよ。」
「そんなもんなのかなぁ…」
「……やっぱりかなぎくんには私といるってことがどういうことかあんまわかってないみたいだね。」
「え?どういうことって……」
「……かなぎくんははるかといつも言い合いしてるけど実は一緒にいていやじゃない。」
「ん?まあ、嫌いじゃないかな。」
「逆に一見仲良く楽しそうに振舞っている立花くん達のことがそんな好きじゃない。」
「あー…まぁそうかも…」
「それで妹を溺愛してて
エッチな本はお決まりでベッドの下に隠してて
最近はそれを読まないで好きな人のことを考えて一人でエッチいことしててー
「まてまてまて!そんなことしてないって!」
「………」
「……いや…したかもだけどさ…」
私に嘘とか愚の極みですよ。
「まぁ、私と友達ってことはこんなわけなんだよ、かなぎくん。
たった数日間でかなぎくんが知らない間に私は会話と感情からかなぎくんの知られたくないことまで知っちゃってるんだよ。
まだまだたくさんあるよ。」
たった数日間でどんな会話してるんだ、ですね。
ええ、そうです。
八割方、いや全面的にはるかがいけないのです。
「そっかぁ…あんま気にしてなかったけど
そう考えると大変なんだな…」
「………かなぎくんは今の聞いて、どう思った?」
「え?恥ずかしかったかな。」
……心の底からの言葉だからびっくりですよ。
「じゃなくて、今のを聞いてもまだ私の友達でいれるかってことで…」
「んー…かがみはどうなんだよ?」
「え?私?」
「そういうこと全部知っちゃってさ、
それでも俺と友達でいれるの?」
考えたこともありませんでした。
考える前から拒絶されるものだと思ってましたから。
「………いれると思う。」
「そっか。
かがみが大丈夫なら俺は大丈夫だよ。」
変な人です。
おばかさんなのです。
なんでそこまで私を想ってくれるんですか?
「……足りなかったなら私のハンバーグ食べていいよ。」
「え、まぢ?
あはは、感情がわかるって悪いことばっかでもないんだな。」
でも不思議ですね。
私はこのおばかさんでよかったと思っています。
かなぎくんが私の友達になってくれて嬉しいと思っています。
「ありがとう…かなぎくん。」
「か……からい……」
「あ……」
マイ激辛ソースでした。
さあ、これから憂鬱な映画館ですよ。
と思ってました。
「あ……一番前……」
「うん、これならさかがみも見やすいかなって。
付け加えます。
この人はおばかさんで変でエッチな人だけど
すごい優しい人です。
悔しいことですが
私は少しこの人に惹かれてしまったのでした。