赤神さん、友達ができる
土曜日、かなぎくんと土浦さんと話して、
人と久しぶりに接して私は思いました。
「おーす、赤神さん。土曜日ぶり。」
「お、おおおおはよう、かなぎくん。」
いつの間にか人と接するのが下手になってしまっているようです私。
いや、もともとそんなうまくなかったですが。
「ど、土曜日はごめんなさい。
まさかあのカレーが一般的には辛いなんて知らなくて…」
友達と外食なんてしたことなかったから…
「いやいや、いい思い出だよ。
でも今度は別のとこで飯食べような。」
「え?また誘ってくれるの…?」
土曜日、三人でごはんを食べたと言っても私はそんなに喋ってません。
それこそ話をふられたときにしどろもどろに話したくらいでほとんどかなぎくんと土浦さんが話していた印象で、
私は家に帰ってからうまく喋れない自分を罵りながらひどく落ち込みました。
正直、私なんていてもいなくても同じだと思うけど…なんでまた誘ってくれるの?
しかもかなぎくんは心の底から言ってくれてます。
「えーと…赤神さんさえよければこれからも誘うつもりだったけど…」
「わ、私は……」
「おはよー!!かがみん!
あとついでにかなぎ。」
「ついでかい。」
えーと…かがみんって私だよね…?
あ、私、赤神 かがみって言います。
変な名前ですよね。
「お、おはようございます。土浦さん。」
「土浦さんなんて他人行儀なー。
うちとかがみんの仲じゃん。はるかでいいよー。あと敬語もなし!!」
あれ?私、土浦さんとどんな仲でしたっけ?
「じ、じゃぁ……おはよう……は…はるか…」
「ひひひ、やっぱりかがみんは可愛いね。」
この人は何言ってるんだろ……
「あ……俺も……
「おらー、ホームルームはじめるから席つけー。」
「………」
「……あ、か、かなぎくんも私のこと好きに呼んでね…」
間の悪い人だな、かなぎくん……
そしてお昼休みなのです。
「終わったー!よーし、かがみん!
お昼食べよー!!」
「あ、俺も俺も!」
「え?…いいの?」
「はにゃ?なにが?」
「……なんでもない…
うん!食べよう、はるか、かなぎくん。」
嬉しくて泣きそうになりました。
だって本気で私なんかと一緒にいたいって思ってくれるから…
友達になれないかな…
なりたいな…
でもなるからには私は覚悟を決めなければなのです。
私の目のことを言わなきゃなのです。
小学生のときも私に話しかけてくれた女の子がいました。
そして友達と呼べるような間柄になりました。少なくとも私はそう思ってました。
仲良くなって目のこともその子に勇気を出して言いました。
そして私はその子のことを傷つけました。
私はその子の気持ちなんておかまいなしにその子の感情をたくさん見てきました。
好きな人を知ってます
嫌いな人や苦手な人を知ってます
癖っ毛を気にしているようで実は気に入っているのを知ってます
実の兄と体の関係を持ったことがあることを知ってます
そのせいで同性愛者になったことを知っています
あ、小学生の話ですがまぢですよ。
ささいな会話から色んな感情を見てきました。
その子の知らないうちに色んな秘密を知ってきました。
プライバシーもくそもありません。
目のことを話して以来、私はその女の子と話したことはありません。
傷つけてしまうなら最初に言ったほうがいいのです。
その結果が私にとって辛いものでも傷つけるよりましなのです。
それでも一緒にいてくれるなら…
いや……ありえませんね。
そんな人がいるならその人は聖者かなにかでしょう。
知られたくない秘密など持ち合わせていない人でしょう。
そんな人がいるわけがないのです。
「ふーん、かがみんも大変なんだねー。」
「え?いや…私が大変というか…」
「かなぎとずっと隣だろー?
ひひひ、こいつエロいことばっか考えてるんじゃない?」
「なんでだよ……」
「男子は男子というだけで無条件でエロいのよ!!
世界の真理よ!」
「そ…そうなのか…?」
「……ど…どちらかと言えばかなぎくんよりつちう……はるかのほうが授業中そういうの考えてたかな…」
「ひゃひゃひゃ!!
だってさ!かなぎ!!」
「……まぁ、思春期だしな。
よくあるよくある。」
「あるあるー…ってそうじゃなくて!!」
われながら下手なノリツッコミをいれてしまいました。
「いま言ったように私には人の感情が見えちゃうんだよ。わかっちゃうんだよ?
2人が隠している秘密とか全部わかっちゃうんだよ?」
「もー、かがみん、かがみん。
それさっき聞いたって。」
「………大事なことだから二回言いました。」
「なるほど!おっけー!」
「かるいよ!真面目に考えて!」
「わかってるってばー。
だからあれでしょ?
あんま変なこと考えてかがみんに迷惑かけるなってことでしょ?」
「………あーね…。」
私はこの人をあなどっていました。
この人は私が思っている以上に物事を深く考えない人なのでした。
「……そんな単純なことじゃなくて……
かなぎくんもなんか言ってあげてよ。」
かなぎくんはさっきから黙っています。
どうやらかなぎくんには私といるということがどういうことなのか理解できているみたいです。
ほら、とても不安なような恐れているかのような感情がにじみでていますよ。
自分で言っておいてあれですが私はちょっとさみしかったりするのでした。
「かがみ…感情が読めるってことはさ……」
「………うん……」
うん……早いうちでよかったんだ……
早いうちなら私もかなぎくんもお互い深く傷つかないですむんだから…。
「も、もしかして…もしかしなくても…
俺がかがみをどう思ってるかもわかるのか…?」
「………え?
……あ…えっと………うん………」
あれですよね?
かなぎくんが私に好意を持ってくれてることですよね?
「……そっか……」
……訂正します。
持ってくれてた、ですね。
「ごめんね、かなぎくん……」
「………ひとついいかな…?」
「……うん……。」
そりゃ怒るよ、怒りますよね。
「俺の気持ちを知った上でもさ、
友達としてでもいいからこれからも仲良くできないかな…?」
「…………………ん……?」
仲良く…?
聞き間違いかもしれません。
「……ごめん、かなぎくん。
もう一回いってもらっていい…?」
「だぁかぁらー!!
こいつはかがみんのことが好きだからかがみんと一緒にいたいんだって!
きもっ、とかうざっ、とか思わなかったら一緒にいてくださいーってこと!!」
「お前は黙れよ!!」
「なによ!?あんたがヘタレでうじうじして声小さいからうちがはっきり言ってあげたんじゃんか!!」
うかつでした……。
この人も私が思っている以上にはるかの同類みたいです。
「………いいの……?」
「え……いいよ、ってなにが?」
「…や…やっぱり、きもっ!とか思っちゃうか……?」
「ううん、思わないよ……
でも私なんかといたら二人を傷つけちゃうもん…。」
「ん?かなぎ、うちたちは傷つくのか?」
「しるかよ…俺はいま傷つきそうだよ……」
「……だそうだ!かがみん!」
「………ぷ……。」
わかってない…わかってないのです、二人とも。
「……あははは!」
でも、これが私がきっとどこかで期待してたものなのかもしれないです。
今まで泣いても傷ついても手の中から消えてしまっていたものなのです。
「ありがとう……かなぎくん…はるか……」
知り合って日が浅いからかもしれません。
この人たちが考えなしだからかもしれません。
「私からもお願いするね……」
これから傷つけるかもしれません…
でも…それでも私は期待してしまうのでした。
「私と友達になってください。」
この想像を絶するおばかな人たちなら意外と大丈夫なんじゃないかと。
「友達かぁ……やっぱりそうだよねー…」
「あ…えっと……私まだかなぎくんのことよく知らないし、かなぎくんがなんで私をそう思ってくれるのかわからないから…その…友達からってことで…」
友達でいいって言ったわりにはへこんでいるようです。