赤神さん、お昼に誘う
私は人の感情を読むことができます。
人の感情がオーラとしてはっきり見えるのです。
それは
激しかったり
弱々しかったり
眩しかったり
禍々しかったり
いろいろあるけれどその人がいまどんな気持ちなのかわかります。
相手の顔を見なくてもだいたいわかります。
見えると言っても遠い人のオーラは見えません。
私を中心に大体ニメートル前後に近づいてきた人の背後からそのオーラが見えるようになります。
不幸中の幸いというかそれが唯一の救いです。
さっき、人の感情を読むことができると言いました。
訂正します。
私は人の感情を読んでしまいます。
望もうが望まないが
目を開いていれば
人と接しようとすれば
おおまかにですがその人の感情を読んでしまいます。
たぶん生まれつきです。
ものごころがついたころには見えていた記憶があります。
小さい頃は普通にまわりに自慢とは言いませんが言いふらしていました。
私には感情のオーラが見えるとか、そんな感じに言っていたと思います。
一緒にいて楽しいんだな
一緒にいるのが嫌なんだな
あの人のことがすきなんだな
あの人のことが嫌いなんだな
嘘ついてるんだな
焦ってるんだな
ばかにしてんだな
見下してんだな
めんどくさいんだな
なぐりたいのかな
別れたいのかな
色んな感情を見てきました。
おおまかと言いましたが意外と細かくわかるものです。
そして意外と感情を顔に出さない人が多いことを知りました。
私は中学にあがる頃にはこの特殊な目のことを誰にも言わなくなり、人となるべく関わらないように心がけるようになりました。
顔と感情が一致しないとき
私が感情が見えると話したときの友達の感情
お父さんとお母さんが話しているときの黒ぐろした感情
私の一言で壊れる人間関係
人付き合いが怖くなりました。
だから私は人と関わるのをやめようと思いました。
私のせいで悲しむ人なんて見たくないし、私自身もきずつくのが怖かったから。
「なぁなぁ、赤神さんってば。」
私が高校2年生にあがるまでは。
「……なにか私に用事ですか?」
この人は私と同じクラスで私の隣の席の金城くんです。
あ、かなぎって読むんだよ。
隣の席ってことだけでその人の感情は見たくなくても一日中見ることになります。
でもかなぎくんはおチャラけた性格に見えるけど感情の起伏はそれほどないのです。
だからかなぎくんが隣の席で結構助かっています。
ちなみに私の席は一番後ろの窓際で隣はかなぎくんだけ。
前の席の土浦さんはいつも寝てて夢でも見てるのか感情の起伏が激しいのです。
正直こまります。
「やっと、返事したよー。
赤神さんって耳遠いよなー。」
「……聞こえてましたよ。
この意味わかりますか?」
人付き合いを蔑ろにすると私に向けられる感情はどんどん黒いものに変わっていきました。
それでもまだましだと思います。
真剣に人と向き合えば相手も私も今以上に傷つくのわかってますから。
「んー、よくわかんないけどさ。
次の現国の授業、教科書忘れちゃってさ。
見してくれないかな?」
相変わらず感情に変化がない人だなぁ。
あんな憎まれ口叩いたのに。
「……まぁ、それくらいなら…」
「お、サンキュー。
じゃぁ机くっつけるな。」
と思ったらかなぎくんの感情が急に激しい光を放ちました。
え?なに?喜んでるの?
「そういや、もうすぐ5月だし1年のときも同じクラスだったのにまともに話すのはじめてだな、赤神さん。」
「………喜んでるの…?」
「ん?」
私は結構ばかなのでつい言葉にしてしまいました。
こんなの思いあがった痛い女じゃないですか。
「……ごめん……なんでもない…。」
「ふーん、赤神さんって変なやつだな。」
「……なんで、そんな嬉しそうに悪口叩くんですか…?」
「え?そんな嬉しそうに見えたか?
悪口言ったつもりもないけど…
ま、まぁそろそろ授業はじまるし準備しようぜ。」
え…なに…この…感情…
何度か見たことがある感情…
もしかして…もしかしなくても…
かなぎくん…私のこと好きなの……?
いやいや、自惚れでも思い上がりでも妄想でもなくて
私にはわかっちゃうんです。
わかっちゃったんです、かなぎくんの私に向けた感情が。
でも理由まではわかりません。
見当もつきません。
かなぎくんの言う通り私たちはまともに話したこともないし、私になにか魅力があるわけでもないし。
とりあえず私のすぐ隣にいるこの人はすごく嬉しそうでどこか緊張してるような感じ。
……私じゃなくてもわかるよ。
顔にそう書いてあるもん。
とりあえず私は悪い気はしませんでした。
でも友達とか恋人とかは期待していません。
お互いに傷つくだけだから。
「………な、なぁ、赤神さん。」
「な、なんですか?」
なんか私まで緊張してきました…。
「いや、あのさ…
「ぬぬぬぬ!?!
ちょっとちょっとちょっと!!かなぎ!
なにしてるのさ!?」
寝てると思ってた土浦さんが急に後ろ向いて大声あげてきました。
……授業中だよ、土浦さん。
「なにって赤神さんに教科書見せてもらってるだけだけどー
「ずるいぞ!かなぎ!!
うちだって赤神さんと話す機会をいつも伺ってたのに!!」
「ええ?!そうなのですか!?」
「それなのに…そんなせこい手を使うなんてずるい!ずるいぞ!!かなぎ!!」
なんか土浦さんが衝撃的な告白を大声で言っています。
なんで?どいうこと?
「俺だってなぁ!話すのにどんだけ勇気をだしたか!!
勉強する気もない現国の教科書を借りてまで話したんだ!勇気を認めてほしいね!」
「勉強する気ないのですか?!」
「大体、土浦だってここぞとばかりに間に入ってきてんじゃねーかよ。
しっしっ、邪魔だ。俺と赤神さんの時間を邪魔すんな!」
「かなぎくん……現国の時間だよ…」
「じゃあさ!じゃあさ!
この際だから赤神さんに聞いてみよう!!」
「……え?」
私はただかなぎくんが教科書見せてって言うから……
「そうだな。
赤神さんは俺と土浦とどっちと話しがしたい?」
「え?…え?………ええー?」
二択なんですか?
ここには私の意見は存在しないんですか?
「ほら!!やっぱりうちと話したいって言ってるじゃん!!
かなぎはどけ!!つか席かわれ!」
「私なにも言ってないですよ!?」
というか話すもなにも授業中……
先生…教師として仕事してください。
あなたは誰も聞いてなくても話すのが仕事ですか?
「しょうがない…じゃんけんだ !!
勝ったほうが赤神さんと一日中いちゃいちゃできるでどうだ?!」
さらに私の意見はなくなりました。
「なにゅ!?
望むところだ!!勝っても負けても言いっこなしだよ!!」
「よし!いくぞ!
最初はぱー!!」
うわ…あいこになった…
二人してしょっぱなインチキですか…
時間にして五分も経たず
かなぎくんと土浦さんは私に大きな不安とわずかな期待を私にくれました。
ずがずがと土足で私の心に入ってきました。
いや…正直に言います。
とても期待してしまいます。
やっぱり一人は辛いし寂しいのです。
でもそれ以上に私は人を傷つけるのが怖かったのです。
耐えられなかったのです。
だから私は一人でいようと思っただけなんです。
でもこの二人なら大丈夫かもって
友達になってもいいのかもって
思ってしまいました。
だってこんな正直な人たちを少なくとも私は見たことなかったから。
しかも土浦さんはいつもかもだけどかなぎくんは私に対してだけ言葉と感情が一致しています。
理由まではわかりませんが私に好意を抱いてくれます。
嬉しいのです。
私には期待しないなんてできませんでした。
でもやっぱり不安は消えません。
今まで友達も家族も自分自身も傷つけてきたこの目がある限り不安は消えません。
「あああーー!!負けたー!負けましたー!」
「さすが俺の左手!!」
「…あ、あのー……」
「ああ、ごめんごめん赤神さん。
さあさあ!俺とお話ししよーぜ!」
うわぁ…めちゃくちゃ嬉しそう…
「やっぱり…授業中話すのとかだめだし…ごめんなさい。」
「がーん!」
「あひゃひゃひゃ!!
ずるするからだかなぎ!ざまーみろ!」
あなたもずるしたでしょ。
「だからさ、かなぎくん、土浦さん。」
「ん?」
「にゃ?」
「き、今日お昼休み三人で…食べない…?」
言った…言いました。
なけなしの勇気を振り絞りました。
不安と期待のせいでドキドキが止まらなー
「あひゃひゃひゃ!
赤神さん、今日は土曜日だからお昼には学校終わりだよ。」
「納得いかないんだけど!?」
「んー…じゃぁ、赤神さんさえよければ三人でどっかで昼飯食べて帰ろーぜ。」
…え?
「うん!いいね!いいね!
どうせうちもかなぎも暇だしね。
どう、赤神さん?」
「………うん。」
「よし!決まりだね。
俺ラーメン食べたいなー。」
「はぁあああ?!
うちはハンバーグが食べたいんですけど?!」
「お前とは分かり合えないみたいだな。
赤神さんはどっちがいい?」
久しぶりだなぁ。
人とこんな風に普通に話すのって。
「あ…わ、私、カレーがいいかな…って…」
「……最初は
こんな明るい感情を私に向けてくれる。
私この人たちと友達になりたいな…
「ぱー!!」
やっぱり期待してしまうのでした。
「あ…赤神さん……」
「ど、どうしたのですか、かなぎくん?
へへへ、美味しいでしょ、このお店。
私の行きつけなんだ。」
「からいー!!うちらにはからいよー、赤神さん!
なんでそんな平気に食べてるのー?!」
「え…え?私これじゃ足りないくらいでこれからマイ激辛ソースを入れるとこなんですが…」
「…さよなら、赤神さん…」
「え?…え?……えええ?!」
じゃんけんは私が勝ちました。