けんせい(醒)
目の前の侍らしき者の声は、酷く耳に残るが、その分反響して、話の大半は理解することができなかった。ただ唯一聞き取れた単語は、『オオトラウミ』と『オクヤマノブシ』の二つだけだ。この意味も、話が分かれば文脈からある程度は考えられるが、その話自体が聞き取れなかったから、目の前の侍が何を言ったのか、全くわからない。しかし、ただ一つ分かるとすれば、『刀を構えなければ確実に死ぬ』ということだ。
あちらは、こっちの命を何とも思ってはいない。躊躇なく斬撃を繰り返すはずだ。だから、僕も其れ相応の覚悟を決めないといけない。人の命を奪う、という覚悟を。時間はない…………、来る!
「くっ………!」
やはり、速攻で攻めて来た。初めの一撃は自分の全体重をかけて刀を振り下ろしてきたが、両手で刀を支えて、辛うじてそれを受け止めることができた。だが、これだけで終わるはずが無い。一撃目に続けて、二撃目を横腹目掛けて振って来た。これは剣道の要領で、上から打ち払うことで直撃を逃れた。
「ヤルナ。ダガ、ココカラハホンキデイカセテイタダク!
(やるな。だが、ここからは本気でいかせて頂く!)」
そう言った直後、凄まじい剣幕で突っ込んできた。自分には鎧が有るのをいいことに、斬撃に全力を込めてくる。ランダムに切りかかってくる刃を全て受け流すのは、とても大変な作業だ。今のところは、侍の剣術の型が崩れているから何処に刃が来るのか分かり、弾き返すこともそう難しくはない。だが、流石に侍だ。力の差が大きすぎる。このまま長引けば、確実にこちらが死ぬ。
……………死ぬ?
そうか、この斬り合いに負けたら、僕は死ぬのか。日本刀で腹を切られて、肉片が飛び散って、内臓が吹き出して、血飛沫を上げて……………
「しまっ……!!!」
途轍もなく重い剣撃を受けて、刀は上に吹き飛んで天井に突き刺さり、僕の体は後ろへ飛ばされた。
「ぐはっ!」
斬り飛ばされた反動で、思い切り壁にぶつかった。……いらんことを考えて、堂々と隙を与えてしまった。挫倒雪緒、一生の不覚なり……。って、ヤバ!このままじゃ_____
グシュ、と普段は聞きなれない奇妙な音がした。その音と同時に、僕の体に激痛が走った。だが、声が出ない。胸で下から上に押し上げる様な感覚を覚え、何かが喉の中を逆流してくるような気がして、自分の意思とは無関係に咳が出た。何時もの癖で、咳をする前に口に当てていた手を見たら、ドス黒い真っ赤で染まっていた。
「………あ、ああ…」
もう一度咳をしたら、鉄の味が口の中に広がり、口の端から何かが垂れてきた。息をするのが苦痛に近くなってきて、足にも力が入らず、床にへたり込んでしまった。視界が徐々にぼやけていく。痛みはとうに感じない。意識も、もう……………。その時、一瞬だけ、周りの音が鮮明に聞こえた。
「ツギハ、マワリノヤツラダナ」
周りの奴ら………?姉さん、木葉さん、じいやの事か。………僕が死ねば、皆、死ぬ。侍の、刀に斬られて。なす術が無く、抵抗も出来ずに、痛みだけを感じ、命の終わりが苦しみで終わる。泣き叫び、怯え、恐怖し…………
……ここで死ねるか、死んでたまるか。何としても生きるんだっ。みんなみんな、僕が、護る!!!!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
力が漲る。黄色い波動が僕の中から溢れ出し、家の家具が悉く壊していく。波動が当たったところから、大黒柱が折れ、天井や壁に穴が空いた。侍の日本刀に刺されて空いた体の穴からは、不純物のような汚れた気が抜けていき、血肉が再生して穴が塞がった。
何故か、今なら何でも出来そうな気がしてくる。僕と皆を殺そうとした侍すら、一瞬で捻り潰せそうな感じがする。侍は驚きのあまり、両手をぶら下げて目を見開いてこちらを見ている。腕一本を動かすだけで侍の体を木っ端微塵に吹き飛ばせる、そんな力が噴き上がってくる気がした。あと一歩踏み込めば殺れる、そう思った時、侍の口から一つの奇異な単語が聞き取れた。
「キサマ、ケンセイダッタノカ!
(貴様、剣聖だったのか!)」
『ケンセイ』、前の世界では聞いたことがない言葉だ。無論、歴史上にもこんな言葉はない。あるとすれば、牽制・県政・権勢とかだが、一つたりともこの状況に釣り合う言葉はない。ましてや、僕の事をケンセイと読んだのだから、『お前、権勢だったのか!』というのはあまりにおかしい。ということは、この世界特有の言葉なのだろうか。だが、今は
そんな事はどうでもいい。早めに侍を殺ろう。
しかし、さっきから黄色い波動が出っぱなしのせいか分からないが、非常に微々たるものだが徐々に力が抜けていっている感じがする。足に力が入らなくて立てないとか、握力が無いとかとは違い、何かこう、外側の膜が破れて、中にぎっしり詰まっていたものが外に流れ出ている感覚。分かるだろうか。ただ確かな事は、このままだと僕は力尽きるということだ。
こんな事はあまりに非現実過ぎて、中二の頃にも想像すらしていなかったが、今は、そんな時期があっても良かったと思う。その方が今の状況を主観的に見れて、即順応して侍を叩き潰せるだろうから。今の僕は東大を首席で卒業し、物事を客観的にしか捉えることができなくなった。並の人間なら、『なりたい』で終わるところを、僕は『なる』までやってから終わってきた。だが、この状況にはなりたいと思わなかったから、そもそもなることができなかったから、この溢れ出る力をどう扱ったら良いのか分からない。当然だ。
さて…………
「そろそろ行くぞ、侍様よぉ!」
使い方は分からない、だが、目の前の侍は僕の黄色い波動を見て呆然としている。試しながら戦っても、死にはしないはずだ。
まずは通常の剣撃。これにどれぐらいの能力補正がかかっているか調べないことには始まらない。ただ今は、刀は天井に刺さっているので、侍が僕の波動に押されて身動きが取れなくなっている隙に、ジャンプして引き抜いた。なるほど、脚力は上がっているらしい。
刀を構え、侍前にすり足で移動し、動きが止まっている侍の兜鎧を目標に踏み込んで面打ちを繰り出した。しかし、
「おわっと」
右脚で蹴って飛びつく時、蹴った所の畳に穴が空いて足が縺れた。それでも何とか踏み込んだが、さらに打ち込む時に踏み込んだ左脚が畳に埋れ、ささくれたい草のせいで容易に脚が抜けず、身動きが取れなくなった。まずい。非常にまずい。
「ナンダオマエ、ウツケデハナイカ。シカシコノコウキ、ノガスワケニハユカヌ。コタビコソ、マコトニコクゴセイ!
(なんだお前、うつけではないか。しかしこの好機、逃すわけにはゆかぬ。此度こそ、真に覚悟せい!)」
侍は日本刀を振り上げ、僕の顔面目掛けて勢い良く振り下ろしてきた。黄色い柄の日本刀で防御しようと右手を上げたが、右手はおろか、左手も何も持っていなかった。そこで、さっき僕は、刀諸共吹き飛ばされた事を思い出した。しかし、全て遅すぎた。死への恐怖からか、何もできなかった惨めな僕に情けをかけてくれたのか。なぜだか分からないが、振り下ろされている刀が非常に遅く感じられる。これがもしや、死の直前に訪れるといわれる、スローモーション映像か……っ。…………というか、マジで遅くねこれ。僕の神経が神レベルに昇華されたのか、もしくわ本当に侍が遅いだけなのか。どちらにしても僕にとっては好都合。この間に脚を抜かさせていただこう。
しかし、脚を抜こうにも、ささくれたい草が刺さって地味に痛い。無理やり抜けば、無傷では済まない。悪ければ、肉が剥がれるだろう。
どうする………?ああっ、日本刀がすぐそこまで迫っている!って、まあ、避ければいいんだけど。
「ていうか、マジで遅くね。ビデオカメラで撮った映像をスロー再生してるのとほぼ同じじゃん」
日本刀が体に触れそうになった瞬間に体を左に傾けた。当然、スローな侍の刀は僕の横を素通りすることになる。兜鎧のせいで表情が見えないが、さぞかし驚愕していることだろう。あちらから見れば、斬れると思った瞬間に一瞬で体が移動したのだから。しかし、侍もダチョウ並みに頭が悪いわけではない。当然、懲りずに二撃目を繰り出してくるだろう。ほら、もう既に。
「kkkkkiiiiiiisssssssaaaaaaaammmmmmaaaaaaa!!!!!!」
もともと聞きにくい声がさらに引き伸ばされ、もう何語を話しているのかすらわからない。
侍は、今度は刀を左から腹を目掛けて振ってきた。遅いことには変わりないが、当たれば流石にまずい。さらに、脚が抜けないせいで腹は自由に動かすことができない。なにかないか………なにか、なにか……………………あっ。
「この力を使って畳ごと吹っ飛ばせばいいじゃないか」
力の使い方はよくわからないが、こういう時には、精神を統一して手に力を込めるというのが漫画界の定石だ。まだ刀は迫っていない。というか、さっきからさらに動きが遅くなってきて、じっくり見ていないと動いているのかどうか判別することすら困難だ。これならば、まだ時間はたっぷりと有る。
さて、実際にやってみよう。
「帰命無量寿如来 南無不可思議光 法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所 覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪 建立無上殊勝願 超発希有大弘誓 五劫思惟之摂受 重誓名声聞十方 普放無量無辺光 無碍無対光炎王 清浄歓喜智慧光 不断難思無称光 超日月光照塵刹 一切群生蒙光照 本願名号正定業 至心信楽願為因 成等覚証大涅槃 必至滅度願成就
如来所以興出世 唯説弥陀本願海 五濁悪時群生海 応信如来如実言 能発一念喜愛心 不断煩悩得涅槃 凡聖逆謗斉廻入 如衆水入海一味 摂取心光常照護 已能雖破無明闇 貪愛瞋憎之雲霧 常覆真実信心天 譬如日光覆雲霧 雲霧之下明無闇 獲信見敬大慶喜 即横超截五悪趣 一切善悪凡夫人 聞信如来弘誓願 仏言広大勝解者 是人名分陀利華
弥陀仏本願念仏 邪見○慢悪衆生 信楽受持甚以難 難中之難無過斯 印度西天之論家 中夏日域之高僧 顕大聖興世正意 明如来本誓応機 釈迦如来楞伽山 為衆告命南天竺
龍樹大士出於世 悉能摧破有無見 宣説大乗無上法 証歓喜地生安楽 顕示難行陸路苦 信楽易行水道楽 憶念弥陀仏本願 自然即時入必定 唯能常称如来号 応報大悲弘誓恩
天親菩薩造論説 帰命無碍光如来 依修多羅顕真実 光闡横超大誓願 広由本願力廻向 為度群生彰一心 帰入功徳大宝海 必獲入大会衆数 得至蓮華蔵世界 即証真如法性身 遊煩悩林現神通 入生死薗示応化 本師曇鸞梁天子 常向鸞処菩薩礼……………」
今まで出ていたものとは比べ物にならない位の波動が溢れてきた。下から上に吹き上がるせいで、僕の髪は今、スーパーサイヤ人みたいになってることだろう。けれど、あまりに勢い良く出過ぎたのか、家の壁が軋む音が聞こえてくる。
「うおぉぉぉぉぉお!」
叫んだ時、瞬間的に波動が爆発し、それと同時に足下の畳に向けて、拳を振り下ろした。すると何ということだ。
家が丸ごと吹き飛んだ。
当たり前と言えば当たり前だ。無意識の垂れ流し状態で家に穴が空くのだから、意識すればそれ以上の事が起こるのは必至。足が自由になったのは良いが、これでは全く意味がない。というか、今更になって、足が埋まっていても日本刀で侍を斬れるのではないかと感じた。
ふと、周りを見渡すと、家屋の残骸に埋れた挫倒一家を見つけた。
「やっべ………」
握り締めていた日本刀を投げ捨て、すぐさま駆け寄り、上に被さっていた焦げた木片等を後ろに投げ飛ばし、無事、挫倒一家を救出することに成功した。
「おい、大丈夫か!」
三人を一人ずつ肩を揺さぶり、声をかけていった。残念だが、全員まだ意識は戻っていない。しかし脈はあるので、一先ずは安心した。木葉さんに関しては、さっきまで死にかけていたとは思えない程、安らかな寝顔だ。じいやは既にイビキをかいている。姉さんは…………はっ
「おいっ、姉さん!」
再び、大きく肩を揺する。手首を触っても、脈はあるにはある。だが………
呼吸をしていない。
非常事態だ。確か前の世界で、強制的に呼吸をさせる方法があったはず。なんだ、なんだ…………………………、!!!
「まさか、そんな………!」
思い出した。
「人工呼吸、だと………」
人工呼吸。それは、無呼吸の人と口を重ねて息を吹き込む、緊急時の非常療法だ。ただこれは、ただ息を吹き込むものとは少し違うのだ。一つ間違えば、本来は助かるはずの命を自らの手で奪うことになる。気軽にはできない。一応、前の世界でやり方を教わっているが、本当に使えるかわからない。かと言って、木葉さんやじいやは、こういう療法が有ること自体わからないわけで、必然的に僕がやることになるのだ。
やり方は、単純そうに見えて意外と難しい。
①まず初めに、気道確保のため対象者を仰向けに寝かせる。次に、あごを持ち上げながら頭を後ろにそらす。(口と気管を一直線にするような感じだ)
②対象者の鼻をつまみ、口を大きく開いて、対象者の口を覆い、息を吹き入れる。(覆う、というところがポイント。決して唇と唇を触れさせるわけではない。決して)
③息を吹き入れるタイミングは、大人は5秒に1回、子供は3秒に1回。息が入っていれば胸が膨らむ筈なので、様子を見ながらタイミング良く吹き込む。(姉さんは見た目高校生くらいなので、4秒に1回くらいで丁度良い筈だ)
以上が学校で習った人工呼吸の方法だ。割と簡単そうに感じられるが、その行動の一つ一つが重要で、少しでもやらない事があれば、命の危険がある。
僕は独り、心の内で葛藤していた。
(やるべきか、やらざるべきか………っ)
決してキスではないものの、それとほぼ同じ事なので、やはり、それなりの覚悟が必要だ。しかし、そんな事をしている場合ではない。人の命が危険に晒されているのだ。そして、時間がない。その時、ふと姉さんの顔を見てみる。
唇が真っ青になっていた。
「姉さん!」
冷たいプールに入った後の紫っぽいのとはレベルが違う。正に、"真っ青"だ。確か、青くなってきたらそれは、危険信号だと教わった気がする。ならば、早く決断を………。
「………よし、やろう」
許可も無しに口を重ねるのは心苦しいが、死ぬよりはよっぽど良い。後で全力で謝れば許してくれるだろう。
姉さんを土手に降ろして仰向けにさせた。
「それじゃあ、いくぞ。姉さん」
姉さんのあごを持ち上げ、鼻をつまむ。覚悟も決めた。………よし、いける!
「んっ………」
口を極限まで開き、姉さんの口を覆って息を吹き込んだ。タイミング良く、そして強く。胸を確認する。膨らむか沈むかをしていれば成功だが、まだその気配はない。ただ、
(グハァ!)
家を吹き飛ばした時の風圧で、服がはだけたのか。姉さんのふくよかな胸がこの角度からだと丸見えだったので、思わず息を吹き込むのを止めてしまった。しかしすぐに始めたので、大丈夫だと思う。今僕は、顔がトマトみたいに赤くなっていることだろう。周りには僕たちを見ている人はいないが、急激に恥ずかしさが襲ってくる。胸を見てしまったせいもあるけれど、何よりこの状態がヤバい。倒れている女性に無理やりキスを強いっているという状態が。心臓の動きが活発になってきた。上手く、息が送れない。
「ぶはぁ!」
流石に僕も苦しくなってきたので一瞬だけ離し、大きく深呼吸してから再び口を覆った。必死に何回も吹き込んでいたから、頭がクラクラしてきた。まずい………あと、少しなのに………
その時、姉さんの胸が大きく動いた。咄嗟に口を離してしまったが、姉さんは最初に大きく息を吸って、それからは普通に呼吸をし始めた。唇も、徐々に赤みを増していった。
「は、はは、良かった。本当に、良かった………」
人工呼吸をしている最中はそればかりに気を取られていて、死ぬかもしれない、ということを忘れていた。ところが、本当に助かった時、一人の人間の命を助けた、という満足感と安心感で胸がいっぱいになった。さらに、自分でもわからないが、いきなり大量の涙が溢れてきた。
「あ、あれ。どうしたんだ、僕………。最近は、泣いたことがないのに」
その時、急に目の前に影がさした。驚いて上を見上げると、さっき吹き飛ばした筈の侍がそこに佇んでいた。刀を構えた状態で。
「サッキハヨクモヤッテクレタ。サスガハケンセイトイッタトコロカ。
(さっきはよくもやってくれた。流石は剣聖といったところか)」
何も考えることができなかった。全身が恐怖で覆われ、身動きすらとれない。そして、瞬きもせず、侍から目を離すことができなかった。
「シカシ、サキホドマドノキサマノウゴキハ、キミョウキワマリナカッタ。アレコソセケンデイワレル、"シンソク"トヤラカ。イヤハヤ、オソレイッタ。
(しかし、先程までの貴様の動きは、奇妙極まりなかった。あれこそ世間で言われる、"神速"とやらか。いやはや、恐れ入った)」
神速、だと。………そうか、戦いの最中にも思ったが、此方から見た侍の動きは超遅かったが、彼方から見れば、僕の動きは超速く見えるのか。実際はどちらが本当なのかは、今はわからない。僕に、神速になる力が宿ったのか。もしくは何らかの力が侍にかかり、超スローになったのか。僕としては前者を望みたい。だって、かっこいいじゃん!
………こんなことを思っても、今はどうしようもない。まだ侍は、僕を斬る気は無いように感じるから、策を立てる時間はまだある。どうにかして、僕がこの戦いの主導権を握らなければならない。
「イマノキサマカラハマッタクサッキヲカンジナイ。コレハ、イツキッテモヨイトイウコトダロウカ。ナラバ、ソノコトバニアマエルトシヨウ。テキハ、スコシデモヘラシタホウガヨイ。ソレガケンセイナラバ、ナオサラノコト。
(今の貴様からは全く殺気を感じない。これは、何時斬っても良いということだろうか。ならば、その言葉に甘えるとしよう。敵は、少しでも減らした方が良い。それが剣聖ならば、尚更のこと)」
やっべ、時間ねぇわ。
さっきまで体の至る所から溢れていた黄色い波動は、畳を殴り、家を吹き飛ばしたら、何時の間にか止まっていた。一度止まってしまうと、どうやって出したら良いのかわからない。いや、使っていた時もそうだが。日本刀も、挫倒一家を助ける時に投げ捨ててしまい、今は離れたところに放置してある。
そんなわけで、反撃をすることができない。非常に不味い状況である。
「デハ、ソロソロイコウカナ。………カクゴ!
(では、そろそろいこうかな。………覚悟!)」
侍は刀を、真っ正面で頭を上に大きく引いて、振り下ろした。終わっ______
「______<影縛り>!」
「ナッ………!」
後ろから異性の良い男の声が聞こえ、同時に、侍の体が闇に包まれて、動きが止まった。