080 前途多難の冬②
第80話 前途多難の冬②
疲れてるであろう兄さんに少し休息して貰おうと一人で考えていた俺だったが・・・1時間も持たずにその努力は打ち破られた・・・同居人のケントが大声を張り上げ帰ってきたことを告げたからである。
---がちゃ---
っと扉が開いたかと思ったら・・・「アレン~アレン~どこだ~君の親友がお帰りだぞ~~」などと大声で言ったモノだから兄さんが「ん~アレン?・・・ん~~」などと言って目を覚ましかけ、ケントの声を止めようと動いたが・・・すでに遅く、俺が部屋で寝てるのかと思ったのか階下の部屋の扉を『ドンドン』とたたき始め・・・
「引きこもりは身体に悪いぞ~~~!釣りしようぜ釣り!!」
などとさらに叫んだので、兄さんも完全に起きてしまった。
兄さんが完全に起きてしまったのを見た俺が、大声を出したことをとがめるため自分の空間から耐熱石を取り出して下にいるケントへ落としたが・・・当然着用してると思ったヘルメット型の防具を着用していなかった野は計算外だった。
まあ、すぐに気が付いたケントがよけたので問題はないはずだが・・・「あぶねえ!!死んだらどうする気だ!!」とかうるさかったので、上に上がってくるように手招きしてから兄さんに向かって、「ケントが帰ってきて居間上がってくるよ」とつげ・・・眠気覚ましのコーヒーを入れるべくお茶のセットを下に持って行き・・・ケントとすれ違いざまに蹴りを繰り出して、小さな声で「兄さんが起きただろ!阿呆!」っと言ってやったら・・・判らないなりに状況を把握しようとしたらしく反撃は帰ってこなかった。
「コーヒーを入れてくるから上に行ってて・・・」
「あぁ?うん・・・」
俺はそのまま階段を下りて、簡易キッチンでお湯を沸かしつつ笹茶を飲んだ自分のカップを洗いコーヒーを入れ始めた・・・自分の空間から出したクッキー(お茶などを分けて貰う時、コレも貰った)を添え、砂糖を入れた容器を一緒に持って上に向かう・・・
「お待たせ~ちょうどもらい物のクッキーがあったから一緒に食べよう!一応コーヒー用に砂糖も用意してあるからお好みでどうぞ!・・・」
「おおぉ!!クッキーに砂糖か・・・アレン、お前はやっぱり親友だ!!」
「アレン・・・コーヒーには砂糖を入れて飲むのか?贅沢だな・・・」
「ケントはうるさいから放置して・・・兄さん、コーヒーに砂糖は決まりじゃないよ!お好みでって言ったでしょ?他にも生クリームを入れたりミルクを入れたり・・・色々飲み方があるってだけだからね!」
「俺は放置かよ!」
「ふむ・・・なるほど・・・色々試してみるのも良いかも・・・」
ケントはすねていたが、兄さんは研究者の魂に火がついたのか俺から色々な飲み方を聞こうと質問してきた。
俺が知ってる限りの知識を伝えて、これ以上知りたいなら佐藤シェフか相楽さんに聞いてくれと言ったあたりで、ケントが試作品に気が付いて、質問するタイミングを狙い待ちかまえてる。
(まあ・・・タイミング的にも良いからな・・・)
「ところで兄さん・・・今ケントが見てる試作品なんだけど・・・」
「え!あ・・・試作品ね・・・」
(ん?何だか兄さんの反応がおかしいな・・・)
「なぜ1台なの?見た感じ完成してるようだし・・・」
「あ、うん・・・すまん」
突然謝りだした兄さんにビックリして俺もケントも固まってしまったが・・・兄さんはお構いなしに事情を教えてくる・・・
「え~っと、つまり3台作って・・・1台を領主に・・・もう1台をミーアにあげちゃったと・・・」
「ミーアにあげた分は良いんだけど・・・領主はいくら出すって言ったの?」
「うん・・・1台銀貨30枚・・・2種だったから60枚だ・・・」
「げ!アノ馬鹿領主・・・マネープッシュかよ!・・・本当に見境がないな・・・」
「銀貨60枚!・・・でもアレン・・・マネーなっちゃらって何のことだ?」
「まあ、高く売れたんだし・・・良いんじゃないか?たぶん・・・コレって材料費も安く抑えて商品化したら銀貨5枚~10枚ってあたりが売値になるでしょ?マネープッシュは、言うなれば金ずくって意味ね!力ずくとか考えたら意味もわかるでしょ?」
「許してくれるのか?・・・」
「まあ、全然知らないヤツに売ったとか言われたらちょっと違うけど・・・今回の相手は全員身内だし・・・ミーアには僕も1台あげようと思ってたからね~それに帰ったら追加分を送ってくれるんでしょ?」
「あぁ~そりゃ、無論だけど・・・」
「じゃあ良いよ!領主のわがままなんて居間に始まった事じゃないし、逆らえるもんでもないからね・・・それにフォード工房が儲かったみたいだし・・・」
「ありがとう・・・ちょっと自動馬車の試作で予算が厳しくてな・・・改造馬車の試作用に少し金が必要だったんだ・・・」
「まあ、予算は・・・チャリをばんばん売ればすぐに出来るよ!あれだけ完成していたら現物(元の世界の)を知ってる俺でも買うだろうからね~」
正直、ココまで完成度が高くなるなんて思ってなかったからね~サドルの高さ調節みたいな細かい部分でもちゃんと作ってあるし・・・ブレーキ(機械式)にペダルの空回り機構、後は切り替えでギアの選択が出来るようになってワイヤー式のブレーキになったら俺の知ってる時代の自転車と変わらないからな・・・そんなことを考えてると・・・
「なあ~アレン・・・コレって子供用なんだよな?」
ケントが試作した三輪車と箱形の足こぎ自動車もどきを指さしつつ会話に加わってきた・・・
そう、俺が兄さん達フォード工房に依頼した試作品は・・・子供用の三輪車(前輪に直接ペダルが付いてるタイプ)と箱形の足こぎ自動車もどき(前輪に付いてる軸がペダル場に変形していて動力を得るタイプ)の2種類だ!
温泉に料理・・・パークゴルフに的当て、四季を通じての釣りに乗馬・・・大人向けの施設が多い中で弱かった子供用の施設・・・一応プールは今度の春に拡張してウォータースライダーもどきを水中ポンプで水を出すように加工して建設予定だが、小さな子供用の施設が本当に思いつかなくて悩んでいたのだ。
戦略的に言うと・・・子供を呼び込めば当然親が付いてくる・・・親が子供用施設を見れば次は子連れで来るかも・・・そんな期待を込めた新アイデアだ!実はもう一つアイデアがあるにはあるのだが・・・外観デザインでもめていてまだ決まっていない・・・
「そうだよ!バッチリ小さく作ってもらったし、子供を呼び込む事で親を道連れで呼び込む戦略だからね!」
「ん、なあ~ウチって乗馬もやってるだろ?」
「あぁ~やってるけど・・・どうかしたのか?」
「いや・・・冬ってさ、結構つまらないし・・・馬にそりを引かせるとか・・・ソリの上から的当てをやるとか・・・」
「あと、春になってからだけど・・・チャリを馬代わりに貸し出すと面白そうじゃない?」
うむ・・・馬そり散歩に流鏑馬?・・・チャリの貸し出しか・・・
「面白そうじゃないか!今度の寄り合いで提案してみろよ!!」
「そうか?結構良い線行ってた?」
自画自賛でニタニタ笑ってるケントはちょっとアレだったが・・・実際、チャリの利用は兄さんの居るフォード工房にもいい話だし、春から始まる開墾で安全に出かけられるピクニックエリアでも作れば乗馬と並んで商売になりそうだ・・・
「ついでに軽食の弁当も販売したら・・・」
俺達は大魚亭に夕食を食いにも行かず、自分たちの手持ちだった保存食や簡単なスープで取り深夜まで色々なアイデアを出し合い、寄り合い用の企画書を書き上げた。
翌日・・・大魚亭に朝飯を食いに行き、できあがった企画書を親父に渡そうと思ったら・・・領主に掴まった・・・
「なぜココに・・・確か貴賓室では自室へのルームサービスで朝食は基本部屋で取るはずですが・・・」
「いや~身内だけで食べるのって何だか寂しいでしょ?僕ってにぎやかな方が好きだし・・・ワイワイと食べたくてね~」
規格外だ・・・やはりこの領主は規格外だ!俺の頭は警報を出してるが・・・この笑顔と砕けた口調・・・天然なのか計算か判らないが・・・油断しちゃダメだ!
「そうそう・・・それって企画書だよね~ちょっと見せてよ!」
「あ!」俺が抗議する間を外し・・・するりと俺の手から企画書が奪われ目を通していく領主・・・
「一応部外秘なんですが・・・」
やっとあげた俺の抗議の声を・・・『身内なんだし良いじゃない!それに良い企画ならサウスウッドでも資金を出すよ!』・・・資金の話をされると弱いな・・・一応それなりに儲かってはいるが、春からの開墾や開発で資金は正直いくらあっても足りないし・・・
(何せ領主だからな・・・開発は領主の許可制だし・・・)
ウチの村は一応親族だし、この気安さのある領主の性格からか・・・結構適当というか事後承諾っぽく開発しても問題になっては居ないが・・・本来開発は領主が許可を出したり・・・貴族会議に申請して認められてから取りかかるモノだからな・・・
(実際にはほぼスルーで開発は認められるけど・・・正規な手続きを軽んじるのはつけ込む隙を与えるので良くないからな・・・)
俺達の企画書を念入りに見た領主・・・サピオさんからこの後難題を言われるのだが・・・やっぱり俺の希望は叶わないと思い知らされるだけだった。
ひぃ~~~2話目!何とか間に合った!!
3話目も頑張ってるデス・・・




