077 収穫祭最終日②
第77話 収穫祭最終日②
俺が夏に使った水中メガネ・・・アレの製作は苦労の連続だった。最初はガラスの手配が間に合わなくて・・・道具屋に置いてあった水晶を見た時に、土や岩で器を作ったり耐熱石が出来るなら水晶を加工すれば何とかなるんじゃ?なんて思いついただけだったが・・・この辺で手に入る水晶は装飾品にしたり加工された後の物でそれなりに値段がかかるし、品質もバラバラだったし・・・最初に作った物は非常にもろく、透明度も低かったし薄く作りすぎて実験でひびが入った時には焦ったな・・・
「お~~い!アレン?お~~い!・・・アレン!」
おっと・・・つい思い出して考え事をしていたら、ケントが呼んでいる・・・
「ん?ケントどうした?」
「どうしたじゃないよ!話をしていたら急に黙り込んで・・・」
「あ!悪い・・・ちょっと考え事をしていた・・・」
「まあ、それなら良いんだけどよ・・・んじゃ~さっそくおごって貰っちゃおうかな~」
俺の返事も聞かずに、バタバタとジュースを扱ってる屋台に向かって走って行ったけど・・・
(ま、仕方がないか・・・一応約束だからな・・・)
ドリンク系の屋台に到着して・・・すでに注文を終えたケントと同じ物を頼んじゃったけど・・・たかだかジュースが1杯銅貨8枚って高くないか?
渋々と合計の銅貨16枚を支払ったけど・・・決して俺がケチって訳じゃないぞ!普通のジュースだと銅貨2枚・・・値段が高くたって銅貨4枚ぐらい何だからな!
「お!美味い!!」
「いや~俺もおごりだと思って飲むと最高に美味いな~」
「コレって何のジュースなんだ?かなり高いけど・・・」
「ん?知らない!一番美味くて高いジュースって言って頼んだけだし・・・色々とミックスされた感じだからな~」
確かにケントが言うように色々なフルーツがミックスされた感じで・・・絶妙のバランスというか・・・とにかく美味かった!
「すいません・・・このジュースって何のジュースなんですか?」
売ってた人に聞いてみたが・・・
「ん?何のジュースって・・・そりゃ~うちの秘密だな!」
「秘密ですか・・・じゃあ、次に頼む時にはなんて頼めば良いんですか?」
「次か・・・普通に『秘伝レシピのスペシャル』って頼んでくれれば、いつでもって訳にも行かないが・・・まあ、材料が有れば作るぞ!」
なるほど・・・秘伝のレシピで材料はこのあたりじゃ手に入らないか、手に入りにくい物が使われていて・・・有る程度高い材料なのだろう・・・
「じゃあ・・・又来ますね~」
「ほいよ~ありやとやっしった~」
その場を離れてケントの所に行ったが・・・
「ケント・・・判ってると思うが、コレは俺の分だ!まだ飲みたいなら自分で買ってくれ・・・」
俺が店主と話してる間に、ジュースを全部飲んでしまったケントが・・・半分ぐらい残ってる俺のジュースを見て狙ってる気がしたので言ってみたが・・・ってか、舌打ちして買いに行ったから・・・狙ってたのは確定だな・・・
(ん!そうだ・・・コレを差し入れに使うか・・・)
「すいません、さっきの『秘伝レシピのスペシャル』って3杯出来ますか?」
「おっと・・・早速の注文か!ちっと待ってくれな~」
なにやら後ろの木箱をごそごそとあさった後、店主が返事をしてくる・・・
「一応作れるけど・・・作った後で返品は受け付けられないぞ?後4杯で材料が無くなるから・・・なあ~ついでに4杯にしてくれたら少しサービスしても良いけど・・・どうする?」
「ん~普通に買うと3杯で銅貨24枚、4杯なら32枚ですが・・・いくらに?」
「そうだな~銅貨30・・・いや28枚にサービスしよう!」
「じゃあ、4杯下さい・・・」
俺は、奥の木箱から袋を持って馬車の中に消えた店主を少し待って・・・できあがったジュースを受け取り2杯分を自分の空間から出した焼き物の器に移してフタをきつくした後、再度自分の空間にしまい込み残った2杯を持ってフォード工房の露店に差し入れとして持って行った。
ケントは自分で買った分のジュースをちびちび飲みながら俺の後に付いてきていたが、行き先がフォード工房の露店だと判ると・・・
「何だ、フォード工房の露店に持って行くのか・・・なら俺はそこの休憩所で待ってるな!」
などと言って近くにあった休憩所の椅子に座ってしまった。
まあ、別に持って行くだけだし・・・良いか・・・俺がケントと別れフォード工房の露店に差し入れを出すと、それを見たヘンリーさんが驚いた顔になり・・・一口飲んだ後で、「コレはやっぱり・・・ストマックの屋台で出してる『秘伝レシピのスペシャル』じゃないか!」などと一発で見破られた・・・
「凄いですね~ちょっと見て一口飲んだら判るんだ・・・」
「そりゃ~知ってるさ・・・何年も祭りで一緒になるし、移動も一緒にした事があるからね・・・それにこのジュースは疲労回復効果があるらしくって王都の本店でも人気だったからね!前はよく飲んでたんだ・・・」
(へぇ~疲労回復効果ね・・・まあ一種の薬みたいな物か、ならアノ値段も納得だな・・・)
「それは都合が良かった・・・差し入れですので遠慮無くどうぞ!」
「そうかい?コレは美味しいし・・・ありがたくいただくとしよう」
そう言ってヘンリーさんは、最初の一口で飲むのを止めていたジュースを一気に飲み干し・・・残ったカップを俺に返してきた・・・兄さんからも飲み終わったカップを回収してケントの所に戻った俺は、自分の空間にしまってあった使用済みのカップを取りだしジュースの露店の店主にカップを返し、カップの保証金として払ってた分を返して貰った。
その場の流れというか・・・特に目的もなかったので兄さんやヘンリーさんの所にケントと戻って、色々と技術系の話や俺の異世界知識を話していたのだが・・・
「祭りに風船も花火もないのはやっぱりちょっとな~」と呟いた俺の一言から・・・
「花火は前に聞いたが・・・風船ってなんだ?」とか「花火って何だ?」とか・・・非常に激しい突っ込みというか質問が飛んできたので驚いた。
(俺はこの時すでに、綿飴も捨てがたいとか全然別の事を考えていたのに・・・)
まあ、おおよその概念というかどんな物か説明したら・・・作れたら売れるかも・・・って事で、検討会になったが・・・
(さっきからチャリがまったく売れてないんだけど大丈夫なのか?)
「聞いた限りでは、花火が一番簡単で大変じゃないか?」
「「「なんで?」」」
ヘンリーさんの話にみんなが聞く体制を取ると・・・
「いや・・・たぶんアレン君が話してた花火の再現は、火の想念法で何とかなりそうな気がするが・・・色の違いや形の制御などベテランの特化した人でもかなり困難じゃないかと・・・」
ふむ・・・確かに難しい気もするが・・・
「でも、それだったら念石を使用したり・・・制御の式を何かで補えば可能なんじゃ?」
そう質問した兄さんに俺も同意見だったが・・・
「ウイリアム君が考えてる事は判るけど・・・そんなに簡単じゃないんだ・・・想念法の制御式は明かりなどの簡単な物を除いて、大昔の魔の襲来時に失伝され・・・学院に行ってた君なら知ってると思うが、中威以上の想念法についてもほとんど研究が進んでないだろ?」
「確かに・・・一般で言われる高威の想念法は、実際には中威に分類されてる物ですが・・・」
(へぇ?そんな話聞いた事もないぞ・・・)
「西の大森林地帯に居るエルフ達にはまだ技術が残ってるらしいと聞いた事はあるが・・・事実上交流が絶えて今はどうなってるかまったく判らないし・・・会いに行こうとすると侵略行為と受け取られるらしく・・・小神契約に抵触する恐れもあるからな・・・」
俺は兄さんとヘンリーさんの話から出てくる新情報の数々に圧倒された・・・
(つうか・・・このの世界にエルフとか別種族って居たんだ・・・話も出ないし、見た事もないから全然知らなかったぞ!)
「えっと・・・エルフってやっぱり耳がとがっていて長いの?」
俺が発したくだらない質問に、苦笑を浮かべつつ兄さんが答えてくれた。
「ん~俺も学院の図書室で本を見ただけだけど・・・おそらくアレンの想像で有ってると思う・・・他にも想念法を使う事に長けた民族だとか、俺達より寿命が長いって書いてあったな・・・」
「その本にはエルフ以外に他の民族の話も載っていた?」
「んっと・・・確かドワーフ族と獣人族についても書いてあったけど、少数民族って結構多いから・・・正直あんまり覚えてないんだよな・・・今あげた3種族は結構特徴って言うかハッキリした違いがあって試験に出たから覚えてるけど・・・」
「そう言えば北に住んでる黒目黒髪の一族についても書いてあったな・・・建国初期にこの王国から分かれて何だか独自の文化で生活してるらしいけど・・・本には黒目黒髪って特徴が書いてあるのに、赤い人っと呼ばれて・・・神じゃなく火をあがめてる異教徒って言うか・・・異民族って書いてあったな・・・」
「兄さん・・・それってこの世界の常識なの?僕・・・全然聞いた事がないんだけど・・・」
「いや・・・たぶんほとんどの人は知らないと思うよ!俺だって鍛冶工房の親方から聞いて、凄い剣を作ってるって話しだったから調べてみただけで・・・特定の商会しか北方には行かないし・・・そう言えば、お前が調べて欲しいって言ってた味噌とか醤油はそこからの輸入品も多かったな・・・最近というかここ100年ぐらいは王都の周辺でも作ってるらしいけど・・・元は北方の特産品だったらしいぞ・・・」
(独自の文化・排他性・黒目黒髪・・・日本人?でも・・・赤い人って・・・それに火を奉ってるとか・・・)
「兄さん・・・そのことってもう少し詳しく調べられる?」
「ん~たぶん・・・まだ学院には入れるはずだし、図書室の本を見ればもう少し詳しいぐらいなら判ると思うけど・・・」
「調べてもらえるかな?」
「まあ、別に良いけど・・・黒目黒髪と言っても父さんやアレンとは違うと思うぞ・・・」
(まあ、確かに元日本人の従業員も純粋な黒目黒髪じゃなく、髪の色だったり目の色が得意属性で変わってるからな~外見だけで日本人とか判らないよな~)
「とりあえず・・・もう少し詳しい事を調べてみて!ひょっとしたら僕が欲しい物が手に入るめどが立つかもしれないし、文化が違うなら違う技術を持ってるかもしれないからね~」
俺の言葉にうなずいて、異民族?についてもう少し詳しい情報を調べてくれる事を約束した兄さんと、ヘンリーさん・ケントを加えた技術談義はその日遅くまで続いた・・・




