065 じっと手を見る・・・
本日2話目!
第65話 じっと手を見る・・・
その後、忙しくはあっても順調に時は過ぎ・・・
兄さんは権利使用の許可を俺とケントから受けると速攻で王都に向かって消え・・・連日大盛況だった大魚亭では、もっとも忙しい調理部で奥様達が過労で倒れる事件などが発生したが・・・
『ん~~~』
「どうしたアレン?」
俺が(じぃ~~)と自分の手を見ていると海から戻ってきたケントが声を掛けてきた・・・
『いや・・・働いても働いても全然楽にならないから・・・ちょっと手を見てた・・・』
「???」
「ん~あ~~・・・なんだそれ?」
『いや・・・俺の記憶にね・・・働けど働けど我が暮らし楽にならない・・・んで、じっと手を見るって話があったのを思い出してね・・・』
『そりゃ~どんな手だよ!って自分の手を見てみた・・・』
「ん・・・アレン・・・今日はもう休め!」
『いや・・・この後、陶芸用の窯についての進捗を確認に行かないと・・・それに、在庫確認もまだ終わってないし・・・』
「俺がやる!俺がやっておくから・・・お前は少し休め!!」
『いや・・・でも・・・』
休息を渋っていた俺だったが、ケントは近くにいた狩猟団員に俺を拘束させ・・・強引にコテージの私室に放り込まれ、外での監視を命じて去っていった。
外に出られるよう交渉してみたが・・・結局ダメで、ベッドに横になって考え事をしていたらいつの間にか寝てしまい、一眠りして多少クリアーになった頭で考えると・・・
『結構疲れてたのかも・・・』
精神がネガティブな方向に引きずられていたような自覚があるので、届けられた夕食を自室で食べると早々にベットに入り眠った。
翌日、久々にすっきりとした頭で目が覚め朝食を持ってきてくれたケントと話すと・・・
「お前、自覚はなかったのかもしれないけど・・・昨日はやばそうな感じで濁った目をしていたぞ!」
などと言われ・・・
「今日はましになったようだが・・・後、2~3日休んだらどうだ?」
などと進められたが・・・
『いや・・・今、休むわけには・・・』
海の新拠点も、大魚亭周辺の開墾も・・・ここひと月ほどみんな懸命に働いているし、募集広告を出した人材確保の方もすでに希望者が200名ほど応募してきてる。
相変わらず好調の大魚亭は、夏のシーズンが過ぎて多少落ち着き8割ほどの利用状況になったがまだまだ忙しい・・・
佐藤シェフとも相談したが・・・出来れば過労の原因にもなってる昼の営業を縮小して、炭火焼きを別の店として営業して貰い大魚亭はサンドイッチなど軽食中心に変えて負担を減らしたい・・・
いずれは大魚亭以外にも旅館とかペンションのような施設を増やし、温泉街を作りたいし・・・兄さんが研究中の動力装置利用の交通機関が完成したら海の拠点とも気軽に行き来できる観光都市にしたいものだ・・・
『まあ、出来るだけ休憩を取るし・・・徹夜はもうやめるから勘弁してくれ・・・』
「ん~~まあ、お前が倒れる方が問題が大きいって事を忘れなければ・・・」
ケントは口を濁したが、俺達全員がオーバーワーク気味で・・・その解消のため、早急に応募してきた人を俺が書類選考してるのを知ってるだけに、その作業の遅れが自分たちに跳ね返る事も理解しているのだろう・・・
2日ほど掛けて書類選考を終わらせた俺は、関係者を集めて最終選考を行っている・・・
『次は・・・86番、サワコ・オオヤギ・・・技能はクリーニング店勤務だった経験がある。』
「採用!採用!・・・客室の方はだいたい1人4部屋担当だから余裕が多少有るけど、洗濯や食堂の給仕があるから時間的に厳しいのよ!洗濯を任せられる人材なら凄く欲しい!!」
なんだかんだで本格的に客室係のリーダーになった相楽さんが、即座に採用するよう発言してきた・・・
『んじゃ、採用って事で・・・』
俺が書類を採用の方に置き・・・次の名前を読み上げる・・・
『次は・・・ ・・・』
名前と保有知識や経験、書いてあれば自己PRなどを加えつつ次々と最終選考を行っていく・・・それぞれ担当部署の意見を聞いて決めていくが、やはり移住者は冷遇されてるようだ・・・
まあ、有る程度生活環境が整った状態でギルドが仕切ってるなら必然だよね・・・元々ギルド自体が過当競争や新規参入を阻害して、自分たちの生活を守るために存在してるようなモノだし・・・
俺達が今欲しい人材だと、(幸運に恵まれ)下働きなどで店や工房にに入って・・・(さらなる幸運で)そこの息子とか娘と結婚したり・・・よほどギルドとか加盟店全体に利益でも出せる実績がないと独立なんて無理だからね・・・
そんな事を考えつつも、40人ほどの新規採用を決め最終選考の会議は終了した・・・残念ながら陶磁器や加工調味料の技術を持った人は居なかったが・・・
『採用を決めた人材は・・・たぶん収穫祭の頃・・・遅くとも冬が来る前には何とか間に合うと思うので、それまで何とか頑張って下さい!』
俺の言葉を合図としたように、皆それぞれ残った仕事に戻っていったようだ・・・
翌日からはたいしたことも起きずほぼ順調と言える状態が続き・・・秋が深まっていく中で、俺は親父達とも相談して大魚亭の責任者から相談役に変えて貰った。
『結構みんなも馴れてきたし、そろそろ信用して任せても良いでしょ?』
「イヤ、しかし・・・」
最初は渋っていた親父だったが・・・実質的な作業はほぼノータッチになっていたし、そろそろ元自警団で管理人として来た2人に権限を移すべき時期だろうし・・・何より仕事が多くフリーに動けないのが痛い・・・作業自体はなくても管理や指示、全部俺に回してくるより現場で判断する事が出来る時期だろ言うからね~
こうして多少の自由を手に入れた俺は、再び陶芸用の釜を手伝い・・・完成させ、カップや皿など日用品の製造を開始した。
『このマグカップで飲むコーヒーが良いんだよね~』
「木のカップも良いのですが・・・やはりひと味違う気が・・・」
「うぅ~~又焼き物のカップでコーヒーを飲める日が来るとは・・・」
沖田さんも、相楽さんも、やっぱり木のカップだと不満があったようで・・・焼き物のカップに満足しているようだ・・・
「アレンさん・・・ちょっと・・・」
なにやら考え込んでる感じの佐藤さんに呼ばれてそばに行くと・・・
「アレンさん・・・焼き物の色ってこの茶色っぽいモノしか無理ですか?」
『ん?え~っと・・・現状ではこれが一番良い感じです。釉薬とか言うのも色々試してるようですが・・・』
「なんとか白い器は作れないですかね・・・」
『ん~今後の研究次第でしょう・・・工房班でも話したのですが、みんな白い器は作った事が無く知識がないそうなんです』
「そうですか・・・」
「まあ・・・コレで料理の盛りつけにも工夫できる幅が出来ましたし・・・何とか白い器が完成するまで待つ事にします。頑張って下さい!」
『はい、頑張って研究を進めるように工房範囲も言っておきますね!』
「あ!それはそうと・・・」
『ハイ?まだ何か?』
「え~っとですね・・・ちょっと作ってみたモノがあるのでちょっと待っていてもらえますか?」
『はぁ~別にかまいませんが・・・』
こうして、俺が少し待っていると・・・
「ちょっとコレを飲んで頂けますか?」
『はい?・・・はぁ・・・』
俺の目の前に出されたのは、まるで山に登った時のような香りのする飲料と・・・昆布茶だ!
「私自身はハーブティーが好きで、色々知識はあったのですが・・・こちらの植生が判らないので・・・現状だとこれぐらいしか無理なんですが・・・」
『いや~まさか昆布茶が飲めるとは・・・それとこっちは?』
「あ!そっちは笹茶です。炭焼き小屋の屋根をそれで作ったのを先日聞いて・・・一応知ってたので作ってみました。」
『へぇ~そんなお茶が・・・』
「自分で現地を調べればまだ隠れた食材もあるのでしょうが・・・今はちょっと・・・ここを離れるわけにもいきませんから・・・」
『いえ!充分な貢献だと思いますよ・・・それにコレで・・・(タンポポ)コーヒー・麦茶・笹茶・昆布茶・ハーブティー結構ドリンク系が充実してきましたね~』
「こちらの昼を喫茶系にすると聞いたので色々考えていますから・・・」
『ん~ケーキとかクッキーなんかと一緒にしたら・・・本当に喫茶店が出来そうな気が・・・』
「そうですね~実現させて王都辺りで喫茶店をオープンしたら、案外と流行るかもしれませんね~」
この時はその場の流れで出た馬鹿話だったのだが・・・後でこのことを知ったあの人が動き出して実現する事になるとは・・・俺は知らなかった!・・・関係ないぞ!・・・本当に知らないからな!
書いてる時に疲れてたせいか・・・ちょっとネガティブ?




