044 人の知恵とは・・・④
第44話 人の知恵とは・・・④
自室に戻った俺は、珍しい事にかなり真剣に考え込んでいた・・・
やっぱりこの世界は俺の常識というか知恵が通じそうで通じない・・・記憶や体験が消えずに、こことは違う世界のちょっとした知識があるだけなのでほとんど違和感がないというか流しちゃっているが・・・
今回のケント式推進器や水中ポンプにしてもそうなのだが、念具について言えば概念というか念具で楽をするとか工夫する考え方自体が希薄なんだよね~
まあ、便利すぎる想念法があるし・・・念具にしても工場製とかではなく、工房や個人での家内制手工業レベルだから数に限りがあるし・・・流通の問題もある。
『そう考えると・・・ケントや兄さん、親父やゴバックさんに代表される俺に係わった人の意識を変えてしまったかも・・・』
何気なくつぶやいた自分の言葉の意味を考えると、メチャメチャ恐ろしくなってきた・・・
『ひょっとして俺・・・この世界の歴史って言うか流れを変えちゃってる?』
ハッキリ言葉に出して再度考えるが・・・この世界の発展を考えると・・・『詰んでたよな~』そう・・・この世界はほどほどに生きて行くには充分すぎるほど充実している。
農業を行い狩りをして、有る程度の食料は生産性が確保されているし・・・
鉱山の開発に豊かな自然環境などで素材があり、工房を代表とする各種の生産施設で数は限られるが想念法の使用もあり利便性のある製品があり・・・
娯楽という意味では『人生ゲーム』などのボードゲームや、トランプ・将棋・チェスなどTVゲームやパソコンのゲームが登場する前のゲームはかなり普及している。
(作ったのはたぶん日本人とか俺の記憶にある世界の人だろうな~)
まあ・・・雑貨屋にあった中では・・・この世界の俺の記憶にもない不明のボードゲームとかカードもあったけど・・・
『やっぱ根本は想念法だよな~』
この世界には「想念法」がある!コレがくせ者で便利すぎるのだ・・・自分の適応属性以外はほぼ半減するとはいえ、住民全てが全属性持ちとも言えるチート仕様・・・
人間は衣食住がそろっていて、有る程度安定した環境にあると発展性が阻害されるし、俺の知っている科学が発達したのは戦争のためって部分が大きい・・・
だがこの世界では「小神契約」と呼ばれている神との契約で戦争が否定されているし、明確に神の介入が有った事である種の安定と平和が約束されている。
俺は答えのでない・・・答えのない事を悩み煮詰まっていくと「ふっ」とした拍子に考えるのが馬鹿らしくなり『まあ~なるようになるさ!どうせ神様の考えなんて判るわけ無いし・・・』っと開き直って目の前にある問題と向き合う事に決めた。
晩飯の後、寄り合いで大型船の設計が検討され親父からさらなる設計案が求められると2~3日後で又検討される事になり、素材集めなどの準備はあったが基本的に休息に近い状態が取られる事になり、各人でもっと設計を煮詰める事になったが、翌日から雪が降り始めあっという間に雪が積もり始めると・・・素材を防水シートで覆ったり、納屋にしまい込んで狩猟団メンバーは俺達を残して一端全員が村へ引き上げる事になった。
村へ引き上げる親父が残した言葉は・・・
「まあ、雪がふっちまったら焦ったってしょうがない・・・色々案を出して今年中に設計を纏めたら、新年からゆっくり作ろう!」
「まだ終わったわけではないが、今年は忙しかったし・・・適当に交代を送るからのんびり休んでいろ」
親父達が出発した後は、元自警団夫婦2組と元新人組7名の少人数でのんびりと過ごしつつ船の設計を考えたり、交代で村に戻ってミーアの相手をしたりしながら休猟期の生活を楽しんだ。
12月も半ばに入り、いよいよ船の設計が大詰めを迎えていたが・・・結局、取り寄せた資料は役に立たなかった・・・
伝え方がまずかったのか単なる誤解や行き違いの結果か・・・届いた資料の船は大きすぎた・・・
「誰がこんな船で湖の釣りをするんだ!」
親父が吠えていたが・・・確かに長さ30m横幅8m高さ10mとか・・・海で使う交易船とかのレベルだよな・・・
結局、自分たちで考えた設計で製造する事になり基本ラインは俺の双胴ボート型で、俺の案とは違って左右にケント式推進器を取り付け小回りが出来るようにした案で製造が決まった。
(俺の案は船の後方中央に大型の推進器を付けるタイプだった)
船のパーツを少しずつ分担して作る事になり自分の分をこつこつ作っていると新年も近づき・・・兄さんが帰ってきた。
兄さんの帰郷は嬉しかったのだが・・・
(改良されたチャリも持ってきてくれたし・・・)
嬉しくない情報というか現実が突きつけられた・・・
俺はすっかり忘れていたが、領主の後継者問題・・・俺の婚約話だ!
兄さんからの情報と、親父からの説明を聞いたところ・・・
(親父も決めたけど忘れてたらしい・・・)
本家であるサウスウッドの家に、ウチのウッド家から養子というか婿を取る事で跡継ぎにする案が決定されたが、普通で言えば格下の分家であるウチから出すのは兄さんらしいのだがそこは曖昧にして、領主の娘であるエミリアちゃん(8歳)が幼いので、エミリアちゃんの成人まで曖昧なまま何とか時間を稼ぐ手にしたそうだ・・・
兄さんは王都の学院で、養子か婿入りを狙っていた貴族の取り巻きらしいバカに多少嫌みを言われたらしいが・・・苦笑してあっさり流していた・・・
兄さんの話だとくそ爺の跡継ぎ・・・もう50を超えたオッサンやその子供に孫は、問題のくそ爺と違って覇気がないと言えば聞こえは悪いが優しげな性格の持ち主ばかりらしく、くそ爺が天に召されれば問題は解決するらしい・・・
(まあ、自分の子供達がそんな正確だからこそ、くそ爺は焦ってるんだろうけど・・・)
まあ、とりあえず現状で実害があるわけでもなかったのでその問題を俺は考える事をやめて、ケント達ととある計画を進めていたのだが・・・新年早々に親父に呼び出されて自警団本部に行くと、計画を進めていたメンバー全員が集められていて・・・
『ど、どうしたの父さん・・・いきなり呼び出して・・・』
「アレン・・・とぼけても無駄だ!このメンバーを見れば事情はもうわかってるはずだぞ!」
集められたメンバーを見た瞬間イヤな予感はしていたが・・・やっぱりバレタらしい・・・俺がケント達と進めていた計画、「海への遠征」が・・・
『いや・・・僕が言いたいのは、僕達の計画を聞いてなぜいきなり集められてるのか?って事だよ!』
「どういう事だ?」
『別に突然勝手に出発するとかじゃなく、有る程度準備が終わったら当然許可を貰うつもりだったんだけど・・・僕達は何か悪い事でもしてたの?』
「いや・・・それは・・・」
「村長!子供だけで海に遠征なんて・・・しかも冬にだぞ!」
「ちょっと待てゴバック!アレン話を続けろ」
『ん・・・まあ・・・今ゴバックさんが言ってたけど、子供だけで行く気なんてないよ!』
「なに!・・・そうなのかケント!」
「あぁ~まあそうだな・・・」
(バラしたというかバレタのはケントの所か・・・)
『まずは説明するね!』
俺は親父達に説明を始めた・・・
まずはなぜこの時期(冬季)に遠征を計画したのか?・・・コレは簡単!楽だからだ・・・
確かに道なんかが整備されてる土地へなら春から秋にかけての時期に出かけるのが正解だろう・・・移動が格段に楽だし防寒や食料などの準備も少なくて済む・・・
だが今回のケースだと、湖の周囲は泥濘地が多いし葦のような背の高い植物も多く道など存在していない、春から秋に移動を考えれば馬車などが使えるわけもなく荷物を担ぐか個人の空間に入れて徒歩での移動が決定だし、その道のりも険しい物になるだろう・・・
しかし、現在のように冬季に計画すると・・・まず積雪がありソリの利用が可能になるし、湖の上を突っ切って移動でき距離も短縮可能だ!食料や防寒など対策は必要だが先年決行した冬季の釣りで有る程度ノウハウもあるし、危険な獣も多くが冬眠していたりして数が少ない・・・
「だからといって内緒で計画してるのは感心できんぞ!」
それにだってキチンと理由があるのでさらに説明する。
『父さん達は昔、海に行ってるんでしょ?』
「ああ~もう15年にもなるか・・・周りの地形把握で2回ほど遠征してるな・・・」
『まあ、そうだろうね~でもね!僕達は一度も海を見た事がないんだ!』
普通に計画していれば、俺とケントぐらいは紛れ込めても大人がメインの遠征になるだろうし・・・新人グループ全員が参加する事はほぼ無理だろう・・・
故に、僕達は自分に与えられた船のパーツ製作予定を全員が終わらせてから、自分たち+若干の大人が同行する予定で計画を進めてきたのだ・・・
俺の説明を聞いた親父達は・・・
「そうか・・・海が見たかったのか・・・」
「確かに冬季の方が楽かも・・・」
「ん~これは・・・」
どうやら、若年者の無謀な計画だとでも考え反対する予定だったのが、キチンと考えられ理由も明らかにされたせいで反対も出来ず・・・しかるような話ではなかったのが意外だったらしい・・・
「ん~お前達の気持ちと考えは判った!」
「とりあえず準備は進めても良いが・・・こっちでも計画の確認と細部の調整をするからとりあえず今日は家に帰ってくれ」
「「「はい!」」」
「あぁ~アレンとケントは残るように!」
・・・
こうして俺達の海への遠征計画が始まった。




