040 困った領主様だ・・・イヤ、本気で!
第40話 困った領主様だ・・・イヤ、本気で!
家の中に入った俺たちは、俺の腕を放さない領主のせいで親父の説教を2時間も一緒に聞かされた後、お茶を飲んで休憩中だ・・・
「しかし・・・ダロイスさんとサピオ様・・・変わりませんね~」
昔を懐かしむかのようにダリルさんがそう言うと・・・
「俺としては是非とも変わって欲しいんだがな・・・」
親父がため息をつきつつ答える・・・
「何だよ!コレでも普段はまじめにやってるんだし・・・たまに息抜きぐらい・・・」
領主・・いや、サピオ氏が抗議するが・・・
「息抜きなら自分の家でやれ!」
「つーか、もっと普段から威厳を持って、考えた行動をしろと教えたはずだぞ!」
「イヤ・・・ダロ兄・・・」
「その呼び方はヤメロ!俺もお前もいい年になって子供も居るんだぞ!」
「いや・・・僕の心の中ではいつもダロ兄はダロ兄だよ!」
「はぁ~~~ダリル・・・お前良くこんな領主を見捨てないな・・・」
「まあ~馴れましたし・・・普段はキチンとしてるんですが・・・」
どうやらこの困った領主がおかしいのは、親父達の話を総合すると・・・仲の良かった従兄弟の村にきて旧知の人も多く、気を抜いて幼児退行気味になっていた部分が大きいようだ・・・
くだらない言い合いというか話し合いが一息つくと、話がおかしな方向に替わり始めた・・・
「でね~アレン君、うちの子も可愛いし・・・一度ウチの町に遊びに来ないかい?きっと君も気に入ると思うんだよね~」
『へぇ?城下町にですか?』
「うん、そうそう・・・きっと君の将来にも良いと思うし・・・」
確かにいずれ城下町や王都に行ってみたいとは思っていたが・・・何かニュアンスというかおかしな気配がするんだよね~
『そう言えば、御領主様にもお子さんがいらっしゃるんですね~行動が若々しいので驚きましたよ・・・』
「うん、うちの子はね今8歳と3歳の女の子でね~メチャメチャ可愛いんだよ・・・どう可愛いかというとね・・・」
『え~っと、・・・』
「サピオ様!サピオ様!・・・そろそろ本題を切り出した方が・・・」
領主の対応に俺が困っていると、ダリルさんが領主に本題を切り出すよう進めだし・・・
娘自慢を止められた領主が多少不機嫌になりつつ・・・
「そうだな!そろそろ言うか・・・」
「実はな・・・ダロイス兄さんとアレン君に折り入ってお願いというか提案があってね」
優しい中にも威厳のある顔と雰囲気で領主が話し始めた。
「断る!アレンはウチの跡取りだ!」
領主の話を聞いて親父が即座に断ったが、当然だろう・・・
領主の話を要約すると、俺に養子になって跡を継いで欲しい・・・娘の婿になれ・・・そんな提案だったからだ!
(妙にハイテンションというかおかしかったのはひょっとして・・・)
親父が断り、領主が翻意を促し、ダリルさんが両者をなだめる・・・そんな無限ループか?とも思えた時間が過ぎ・・・
「とにかく、今すぐにと言う訳では無いのだし、ゆっくり考えてからもう一度話し合いの場を持って欲しい!」
そんな捨てぜりふを残した領主が客間に引き上げていき・・・話し合いは終わった・・・そして親父から衝撃の言葉が飛び出す!
「アレン・・・お前はどうしたい?領主になるか?」
『へぇ?』
一瞬惚けた後、すぐさま意識を取り戻し反論する俺・・・
『父さん・・・父さんは僕をこの家から追い出したいの?、僕はこの家から出るつもりはないのだけれど・・・』
『父さんがどうしてもというなら・・・でも、領主になる気は全くないから・・・探索者にでも・・・』
「イヤ!違うんだアレン・・・」
「あいつの前では断っていたが・・・あいつの気持ちや立場も理解できるから、お前の気持ちが聞きたかったんだ・・・」
『立場って・・・』
「前にも話したろ・・・くそじじの話を・・・」
『あ!・・・』
「今回の件も、絶対裏にあのくそ爺が居るに違いないんだ!」
「そうだなダリル!」
「おや・・・判っていましたか・・・」
ドアの外で俺と親父の話を盗み聞きしていたダリルさんが実にあっさりと姿を現して会話に加わってくる
(何かダリルさん・・・キャラが変わってない?)
ダリルさんの説明によると・・・この国の王様(もう80歳は完全に超えてるのに現役)が、自分の派閥の貴族のぼんくら次男か三男を跡取りが居ない貴族や娘しか居ない貴族に最近精力的に養子縁組みや縁談を進めているらしい・・・
それに焦りを覚えたのが我が村の領主様・・・15歳で成人を迎えるこの世界の基準を前の世界で単純に比較すると、すでに40歳を超えた感じの領主には娘が2人しか居ないため、今すぐではないが数年のうちに他の貴族同様に縁談攻勢が来るのは目に見えている。
色々考えた結果、自分と仲の良い従兄弟(うちの親父)には幸い男児が2人居るので、どちらか・・・たぶん次男(俺)を養子に迎え、自分の娘と結婚させる事にすればこの難局を乗り切る事が可能になる!そう考えて、今回の大魚亭の話が出たのが良い機会とばかりに強引なまでの行動力で村にきて今回の騒動になった・・・
「はぁ~」
『はぁ・・・』
ダリルさんの話を聞いて、俺も親父もしばらくはため息しか出てこなかった・・・
『やっぱり領主様って大変なんだね・・・』
「だが、うちもお前を跡取りに決めてる以上簡単にサピオに養子に出すわけにもいかんしな~」
『僕だってイヤだよ・・・そんな大変な仕事・・・』
「まあ、くそ爺もそろそろ天に召される頃合いだし・・・名目上だけなら時間稼ぎに使う事も考えないとならんかもな・・・」
「まあ・・・アレンさんの成人までは、まだ3年以上時間がある訳ですし・・・婚約という形を取れば、有る程度の干渉は避けられるかと・・・」
だんだん親父とダリルさんの間で妥協策というか、俺の婚約がまるで決定事項のように話されていく・・・
(ちくしょう・・・くそ爺王、今すぐ死んでくれ!俺に自由を!)
『あ!父さん・・・貴族ってずっと王都に居たりするとまずいの?』
「アレン・・・気持ちは判るが・・・家族は売らない方が良いぞ?」
『あう・・・あぁ・・・いやぁ・・・ぼ、僕は、そんなつもりじゃなく・・・可能性のイッカントシテデスネ・・・』
「まあ見てろ・・・事情も把握できたし、あのくそ爺をなんとしても嵌めるような手を考えてやる!」
『イヤ・・・それって、すでに方向・・』
『は、はい!判りました。お父様に全てお任せいたします!』
俺が抗議しようとしたら・・・凄い目で俺をにらみつけてきて・・・その殺気で思わず全部任せちゃったよ・・・
心が折れた俺は、にんまりと笑みを顔に張り付かせたままブツブツと呟く親父をダリルさんに任せてと言うか放置して、自分の部屋に戻る事にした。
部屋にはいる時に、恨めしげな視線をサピオ氏の使ってる部屋に向けると、ドアの隙間から様子を伺ってる目と視線が合ってしまいお互いに気まずい空気が流れたが、無視してベッドの横になって寝た・・・(どうなるんだ・・・俺?)
腹が減って夕方に目を覚ますと、机の上の紙に気がつき見てみるとケントの書き置きだった・・・
「アレン、俺が居ても役に立たないだろうし、何か気まずいから一応帰るな~夕飯の時か、無理なら明日にでも簡単に事情を聞かせてくれると、多少は力になっても良いぞ~
君の大親友 ケント様!」(あ!忘れていたよ・・・)
俺はひっそりとした家を出ると・・・にぎやかな教会の広場目指して歩き始める・・・
『まずはケントを捜して・・・ん~コレって言ちゃっても良いのかな?』
『とりあえず・・・父さん達の方針が決まるまでは言わない方が良さそうだな・・・』
そんな事を考ながら、自分自身もつい先ほど見た父親のように、ブツブツと呟く危ない人風に移動していたら教会の広場に到着しており、俺はケントを捜しつつ適当にその辺にある料理をつまんでいた・・・
『あ!ケント・・・さっきはごめん・・・』
「おう!アレン・・・もう大丈夫なのか?」
「いきなり親父さんのドロップキックもビックリしたけど・・・俺は居ない方が良さそうだったから・・・悪い、速攻で逃げた!」
「だから謝ってるだろ!そう睨むなって・・・」
『いや・・・睨んでる訳じゃ・・・』
そうは言ったが、実はケントが速攻で逃げた事が判ってちょっと睨んでいた・・・・
『まあ、とりあえず色々あったんだけど・・・まだ親父達の対応が決定していないから話せないんだよね・・・』
「あ!それは別に良いよ~話せる時になったらどうせ判るだろうし・・・まあ、とりあえず収穫祭の御馳走が目の前にあるんだ」
「腹も減ってきたし喰おうぜ!」
『まあ・・・そうだな・・・俺たちが悩んでも仕方がないし、どうせ明日か明後日には大魚亭に出発させられるだろうからな~』
『とっとと飯を喰ったら露店を見に行こう!今年は結構期待できそうだしな~』
「そうだな~まだ見ていない本の露店とかアイテム系の露店もあるしな~」
「実は俺、ちょっと探したいモノもあるんだよね~」
『お!なんだよ!言ってみろよ~』
そんな会話を交わしつつ・・・俺たちは適当に料理を食べて、腹を満たしたところで露店の広場に移動してケントの捜し物を、まだ見ていない露店を中心に冷やかしながら探し始めた・・・




