039 収穫祭でお買い物!
第39話 収穫祭でお買い物!
さて・・・お釜を買うか悩んで保留したが、露店の店主の言葉から今回来た数多くの露店が村での需要や売れ筋の傾向を商工会などの情報から予想し、それぞれが売れそうな商品を持ち込んでることが判ったので見て歩くのが楽しくなってきた。
きょろきょろと露店を見ていると・・・ふわっととても良い香りがしてきたので、何だろうと思って探してみると、乾燥させた植物や色とりどりの木の樽を並べているお店から漂ってくる香りのようだ・・・
『アレは・・・ちょっと寄ってみるかな・・・』
「アレン・・・アレに興味が有るのか・・・」
「アレは女が使う・・・」
俺はケントの言葉を遮り、かまわずにその露店で準備中の人に話しかけた・・・
『すいません、お忙しいところ申し訳ないのですが・・・』
「はい?何でしょう・・・まだ販売は・・あ!」
「う、うちの店では問題はないはずですが・・・何か問題が・・・」
俺のしていた腕章を見たとたん、その人の目が訝しげな目から多少驚きを含んだ冷たい目に変わった・・・
『いえ・・・ちょっと個人的に気になったモノで・・・』
『ココはどういったお店なのですか?』
「へぇ?」
気の抜けた声を出し・・・混乱していたようだが、俺が返事を待っていると説明をしてくれた。
このお店は「水の錬金術の店」で、販売品は個人の好みの香りを石鹸やシャンプー・洗剤や香水など色々なモノに調合して販売したり、このお店のオリジナルや定番の商品をそろえて売っているお店だった。
俺は水の錬金術という「異世界の技術」が気になり試してみたくなったのでリクエストと価格を聞いてみた。
俺の注文を聞いた店の人は、「銅貨5枚になります」と簡潔に答え、俺が了承すると作業を開始した。
俺が注文したのは、かわいらしい感じの優しい花の香りを付けた石鹸で、当然俺が使うのではなくミーアへのお土産にする予定だ!
目の前でゲル状の物体に数種の液体を混ぜ合わせ、□や△・○型に長方形、様々な型を取りだした店員がどの型で固めるか聞いてきたのでとりあえず自分の記憶での石鹸に近い、上下に丸みを帯びた長方形型を選択するとその型を組み合わせゲル状の物質を中に入れ始めた。
(ふむ・・・石鹸の素に香りの素を水系統の想念法で溶かし込んで、型を使ってその形になるよう余計な水分などを除去して固めてるみたいだな・・・)
完成した商品を何か意味ありげな目で包んでくれた店の人だったが、俺が『妹が気に入るようなら又買いに来ます。』と告げると、好奇心を隠しきれない目つきから落胆したような目に替わり、呆れたような目で「又のご利用をお待ちしています。ありがとうございました・・・」と商品を渡してきたので・・・
俺は何だか判らないがその場にいるのはまずい気がして、ケントと一緒に慌ててその場を離れた・・・
『なあ、ケント・・・さっきの店員、変な目で俺を見てなかったか?』
「まあ・・・そうだな・・・呆れていたな・・・」
『何でだ?俺、何かやったか?』
「ん~まあ、アレンらしいと言えばらしいけど・・・」
「普通ああいった店は、女性客がメインで男が買うのは彼女とか奥さんに贈る時ぐらいだけど・・・」
「アレンが妹にお土産だと言ったから、たぶん・・・」
『いや・・・俺はあんまり村じゃ見ないし、ミーアが喜ぶかと思って・・・』
「まあ、良いんじゃないか?アレンらしいし・・・ミーアちゃんも喜ぶだろうし・・・」
俺は何だかケントからも、「ダメだこいつ、全然判ってない!」って感じの目つきと雰囲気で対応されたが、気にするのはやめて良い時間になっていたので昼食を取りに教会の広場に向かう提案をしてごまかした。
『やっぱり収穫祭はこうじゃなきゃな~!』
「おう!この肉最高に美味い!」
『こっちのフライも美味いぞ!』
教会の広場では、俺がもたらした結果もありさらに色々な料理が並べられ・・・
今年はパンだけではなく塩握り飯が沢山あったり・・・スープの種類が増えて味噌とか醤油ベースにいつもの塩ベースなどがあり・・・「ラーメンが食いたい!」と俺を悩ませた・・・
(イヤだって・・・ほとんどまんまラーメンのスープなんだもん)
『パスタ系の麺はちょっときついけど・・・うどんぐらいなら合いそうかも・・・』
俺は、昆布や鰹節が手に入らないので諦めていた麺類に新たな希望を見いだし、今度暇な時にでも試してみようと考えながらも御馳走をバクバクと喰っていった・・・
『やっぱり収穫祭は良いな~』
「おう!それに今年は料理もかなり増えたし・・・」
「なんと言っても色々な味があるのが良いよな~」
『お!アレも美味そうだぞ、行こう!』
「おう!」
そうなんだよな~ケントが言ってたように、例年の収穫祭だと量はあるし食い放題だし楽しいことは楽しかったし美味かったんだが・・・圧倒的に味のバリエーションが少なく、醤油や味噌を使ってる今のレベルから考えると寂しい限りだったのに気が付かされたのだ・・・
まあ・・・今できる事なんてたかがしれてるし、変わった料理の本でも見つけるか、後は海にっ行ってから考えるか~
俺が何時行けるかも判らない海や買ってすら・・・イヤ見てすら居ない本に望みを託し、これ以上の責任や努力する方面の考えを強引に打ち消し現実逃避をしていると・・・
「おい!どうしたんだアレン?」
「喰いすぎて具合でも悪くなったのか?」
『イヤ・・・ちょっと考え事をしてただけ・・・』
「ふぅ~ん、まあ何ともないなら良いけど・・・」
とりあえず満腹になった俺たちは、今日これからの行動について話し合っていたが・・・
『あ!・・・思い出した!』
「ん?なんだ?」
『いや~フォードさんのチャリを、まだ試乗してなかったな~って』
「お!そう言えばそうだったな・・・」
急いで家に戻った俺たちは、さっそくチャリを出して試乗してみた・・・
『ん~微妙に違和感というか・・・空回り不能なペダルってやっぱな~』
「そうか?結構楽しいぞ~」
俺に変わってチャリに乗ったケントが、小声だったはずの俺の声に反応して答えてくる・・・(地獄耳だな・・・)
ケントが試乗中のチャリ・・・タイプとしては、前に1輪の後ろが2輪の三輪タイプで・・・ワイヤー式では無いけど機械式のブレーキも付いてるし・・・見かけだけ言うなら、後ろに荷台の付いた配達なんかに使う自転車とほとんど変わらないのだが・・・
まあ、細かいことを言えばいまだに樽のフタのような車輪や、切り替えギアが無いのでメチャメチャ重く感じるペダルなど、まだまだ発展途上というか改良の余地有りなんだが・・・俺を満足させる出来ではなかった・・・
『ケント・・・しばらく使ってみるか?』
「え!マジで?そんな事言うと本気にしちゃうよ!」
『ん、本気本気!俺はまだ結構不満がいっぱいあるけど、ケントは気に入ってるみたいだし・・・』
『フォードさんに伝えてからだけど、それはケントが使って良いよ!』
「やったーらっき~実はさ・・・露店で見た時から気になってたんだよね~」
『なんだよ・・・文句も言わずついてきたと思ったら、最初から狙ってたのか・・・』
「イヤ・・・乗ってみたいとは思ったけどよ~、使っても良いと言われるとは予想してないって!」
俺たちがそんな会話をしていると・・・
「あ!チャリだ!」
「それ、ウチにもあるんだよ!この前買ったんだ~面白いよね~」
突然領主だ現れて俺たちが驚いていると・・・
「ん?どうした?かたっくるしい口調の方が良かったか?」
唐突に威厳の出たいかにも貴族!って感じに雰囲気が変わり、さらなる衝撃に俺たちが固まっていると、護衛の人達が息を切らせて走り込んできた・・・
「はぁはぁ・・・さ、サピオ様・・・勝手に行かれては・・・」
「サピオ様・・・突然どうなされて・・・」
どうやらこの領主、護衛を振り切って俺たちに話しかけたらしいし、さらには口調もわざとというか・・・意識して切り替え可能なようだ・・・
どたどたどた・・・どぉし~ん・・・「えぇ~~~」
目の前で、うちの親父にドロップキックを食らわされた領主が吹っ飛んでいった・・・
(何が起きてるんだ?つうか・・・逃げた方が良いかな?)
「ひどいよ~突然蹴るなんて・・・」
「うるさい!俺の村であれほど勝手な行動を取るなと言ったのに、お前には学習能力と言うモノがないのか!」
なぜか親父の怒鳴り声を聞いて、意識が再起動してきちゃった俺とケントがその場から逃げ出そうとすると・・・
「アレンく~ん、お父さんが怖いから助けてよ~」
領主が俺の腕にからみつき逃げ出す事に失敗した。
『あ~え~無理です。』
『全盛期の父親に発展途上の息子が勝てると思いますか?』
「え!えぇ~っと・・・努力すれば・・・」
『無理です。手を放して下さい!』
「え~~助けてくれないなら一緒に怒られてよ~」
『な、何で僕が・・・』
「アレン、とりあえずそいつを捕まえろ!」
「一撃だけじゃ足りなかったらしいから・・・」
『と、父さん・・・お、お互いに落ち着いた方が・・・』
(やばい、やばい、やばい!)
「待って下さい!ダロイス落ち着いて・・・サピオ様もふざけないで・・・」
「外だと人目だってあるんです・・・家の中に入って落ち着いて話しましょう」
駆けつけてきた収穫検査官のダリルさんがその場を納め、家に入って改めて話し合いが行われる事になった。




