031 新拠点での生活
第31話 新拠点での生活
しばらく村で準備と制作だと思っていた俺だったが、1週間ほどでゴバックさん率いる教官と俺たち狩猟団新人組10名は、湖畔の拠点で訓練と制作をすることになった。
『ずいぶん早いな~』と思ったが・・・その理由が、自警団出身の2名が俺たちと交代で村に戻って結婚式をするためらしい・・・
本当なら今年の秋の予定だったらしいが、新拠点が完成したので早く嫁さんを連れて赴任して新しい生活を築くためって言うのは表向きで、「旦那(予定)と離れていたくない」って言う嫁さん(予定)の気持ちを村の女性陣が後押しして、圧力を掛けた結果らしい・・・
当然のように親父も俺たちと行きたそうだったが・・・「結婚式があるので村長として残留しなきゃダメ」って母さんに説教されていた。
(まあ・・・気持ちは判るけどこれは仕方がないよね?)
そんな訳で、女性陣の無言の圧力と協力のもと俺たち10名は湖畔の新拠点の備品制作と新人訓練に出発した。
新拠点に向かいながら、その道中でゴバックさんに聞いてみた・・・
『ゴバックさん、新人訓練って・・・何やるの?』
「ん?ん~~、俺も悩んでるんだよな~」
「いきなり決まったしよぉ~新人訓練とか言っても、いつもは狩りに連れて行って慣らすだけだしなぁ~」
「おとなしく武器の訓練でもやっておくか?まあ備品の制作も残ってるんだが・・・」
「結婚式さえなければよ~お前の親父に全部やらせるんだけどな~」
「まあ、備品を作る材料を集めたり備品自体を作るのがメインで、後は武器訓練を多少やっておけば良いんじゃないか?」
『そうなの?』
「ま~何とかなる!・・・と思うぞ!」
急に決まった新人訓練・・・狩猟団でも何をやって良いか混乱してるて、方針もないようなのでちょっとした提案を・・・
『じゃあ、時間があったら船で釣りをしてみても良いかな?』
「そう言えばお前と船を造ってたな・・・ついでに何隻か作って釣りも訓練にしちまおうかな~」
『良いの?』
「良いの良いの!どうせ訓練なんて建前なんだし・・・」
『そこまで言う?確かに事情はみんな知ってると思うって言うか・・・俺でも知ってるけど・・・』
「まあアレだ・・・名目が有れば大丈夫って事だから、あんまり気にしないでのんびりやろう!」
まあ・・・有る程度自由がきくし、俺的には船を試せそうなのでこのノリに乗ってみた。
『了解です!ゴバック隊長!!』
「うむ・・・判ればよろしい!」
(ゴバックさんも・・・案外ノリが良いよね~)
『くっくっく』
「ぐはははは・・・」
道中にて俺とゴバックさんの妙な笑いが響き渡る・・・そんなノリで新拠点に到着し、交代して作業を始めたけど・・・
『結構難しいよな!』
「なにがだよアレン?」
『いや・・・丸太を製材して板にするのって、難しいって考えてたんだ・・・』
作業しながら玉のような汗を拭きつつケントと話す・・・
『職人さんはサクサク板を作ってたけど・・・見るとやるじゃ大違いだろ?』
「そりゃ~な、だけど板を作らなきゃ家具も船も造れないだろ?」
『「頑張るか!」』
お互いに気合いを入れ直し作業を続けるが、俺は王都の兄さんに出した近況報告と新しいお願いが気になっていた・・・
それは、春のぽかぽか陽気の中で湖を見ていたら思いついた「バーベキュー」に使う「炭」のことだ・・・
作るのはそんなに難しくないらしいが・・・俺の知識にはないし、うちの村でもほぼ薪オンリーで、唯一使ってた鍛冶屋さんのはよそから購入してる物で値段もそれなりに高かった・・・
そこで、兄さんへ「炭」の作り方を調べて教えて欲しいとお願いしたんだが・・・王都ならまだ手紙自体が届いてないかな?
急ぐなら買うしかないんだが・・・20kgの炭で銀貨2枚って高いよな・・・でも1回ぐらいなら・・・
(こういった微妙な高さの値段が一番迷うんだよな~)
そんなことを考えつつ巨大な鋸で丸太をケントと息を合わせて製材していく・・・当然、俺たちの周りでも似たような光景が繰り広げられてるけど・・・
夕方になり、作業を終え簡単に夕食を済ませた俺たちはまさに客室!と言った感じの新拠点の部屋の中でくつろいでる・・・
部屋の中は、俺の意見も参考にされ10畳ほどの空間を入り口に段差つけ、靴を脱いで上がる板の間だ・・・
1部屋にベッドが3台~4台入る広さだし・・・全部で16有る部屋のうち2つはしばらくの間は自警団組の新居になるから、14×3で少なくとも42人が宿泊可能な施設になるわけだ・・・狩猟団だけじゃなく、交代なら家族とか連れてきても充分泊まる事が出来る。
まあ・・・一番ありがたいのは、村と同じ基準で分厚く高い塀と深い堀に囲まれ安全が確保されてるから、夜間でも見張り無しに過ごせる点だろう・・・
(俺たちは訓練の名目があるから、2名の夜番をつけてるけど・・・)実際、単に朝まで起きてるだけで・・・一応、最初と最後に塀の内側をぐるっと回り異常がなければ部屋に入って1日休みの気楽な当番だ・・・
新拠点で訓練を続け、10日ほど経つと親父達と一緒に嫁さんを連れた2人が戻ってきた・・・そして夕食の席で、親父から改めて集まったみんなに2人と嫁さんの紹介があった。
「んじゃあ、みんな見知ってると思うが・・・」
「今回結婚して、この新拠点の維持管理で常駐して貰う(クルツ・マイヤーとサラ・マイヤー)(エミリオ・バクターとリンダ・バクター)の新婚夫婦だ!」
「ぴゅぅ~~ぴゅぅ~~」
「いいぞいいぞ!」
「「パチパチパチ」」
「まあヤジるな・・・ほれ、前に出てそれぞれ抱負でも言っておけ!」
「え~っと・・・」
2組の新婚夫婦が挨拶と抱負を語っていたが割愛する・・・
(のろけなんて俺は聞きたくない!「リア充爆発しろ!」)
ちょっと意識が混乱したようだが・・・挨拶も終わって親父の話が続く・・・
「まあ・・・今後は、基本的にマイヤーとバクターの両夫婦がここの管理をしていくわけだが・・・正直言って全然人手が足りない状況な訳だ!、今後とも出来るだけ募集は続けるが・・・数年は増員できない可能性もある・・・そこでだが・・・」
(何かイヤな雰囲気が・・・気のせいだよな?)
「ここは、我が村の今後を占う試金石とも言うべき重要な拠点でもあり、比較的危険も少ない割に(開拓の基本)(狩りの経験)家具をはじめとする様々な(物作りの経験)を得られる環境でもあるから・・・」
(やばい!何かが俺の中で警鐘を鳴らしている・・・)
「今後は、しばらくの間ここで新人教育を続ける事にしようと思う!」
(やっぱりだよ・・・)
「まあ~学院に行ってるヤツとか、領主町の騎士団に修行でつっこんだヤツなんかが戻ってきたら、そいつらもこっちに回すから・・・しばらく頑張ってくれ!」
「んじゃあ~話はこれぐらいにして、飯にすっか~」
「「「おう!」」」
「「喰うべ喰うべ!」」
「「飯、飯・・・」」
今さら考え込んでも仕方がないな・・・俺もみんなにまじって、夕食を食べ始め酒を飲み出した親父を少しにらんで、ため息をひとつついたら諦めた・・・
状況を考えると、少なくとも今年の夏はこっちで過ごすことになりそうだ・・・立派な拠点はあっても他には何もないから、又物作りの地獄が待っていそうだけど・・・
少なくとも最初考えていたより計画は進んでるし、順調だからな・・・
気分的には、内政系のゲームを実労働付きで大急ぎで攻略してるようなもんだけど、プレイヤー(この世界の住人)が全員、制限付きだけど全属性持ちのチート仕様ならこうなるのは必然なんだろうか?
夕食の後もだらだらと色々考えたりしてると、ケントがそばに寄ってきて笑顔で話しかけてくる。
「アレン!ラッキーだったよな~みんなこっちに残れるなんて!」
『そう言やぁ~ケントは残留希望って言うか、常駐希望だっけ・・・』
気乗りしていない俺がぞんざいに答えるが・・・
「おう!ここはどんどん良くなっていくぞ!!」
「って言うか俺が良くする!俺はこっちで家を建てて暮らそうと思ってるからな!」「土地だって広いし、湖もある開拓すれば今の村より発展する可能性だってあるだろ!」
『まあな~、向こうの山を越えれば海があるって話だし・・港を作って・・・』
(やばいやばい!思考が内政ゲーム化してる・・・こんな事を言うと又苦労が増える!!)
『ま、まあ~何にせよ当分こっちに居るんだしゆっくり物をそろえて用意して行かなきゃな!』
「そ、そうだな・・・「まずは確実に」って、親父も言ってたからな・・・俺はやるぞ~」
なんだか妙にやる気に満ちあふれてるケントと話をしたら、精神的に疲れた気もするけど・・・逃げられる事でも放置できる事でもないから、やるしかないのは本当だしな・・・
『風呂に入って寝るか・・・』
(どうせ明日も大変だからな・・・)
「そうだな・・・風呂に行くか!」
俺は風呂に入ってさっぱりすると、「もう少し起きていて本を読む」と言うケントと別れて早めに毛布にくるまり眠りについた。
翌日から物作りが本格化するかと思ったが・・・「アレン、船だ!船を出せ!まずは実験だ実験!」と異常なほどのハイテンションで迫る親父に負け船を出して、「漁?」の実験で釣りをしている。
「うむ・・・良い感じだ!アレン、この竿と糸ならどんな大物がかかっても絶対につり上げられるんだぞ!」
親父の道具自慢を聞くと、どうやら親父も収穫祭でケントと同じ竿にタイガースパイダーの糸を購入したらしい・・・
(親父・・・いつのまに・・・)
『へぇ~・・・』
俺の気の乗らない返事にますますヒートアップした親父が、露店の店主から聞いた口上を少し大げさにして語り続ける・・・
(うざ・・・つうか、全部知ってるし・・・)
「来た!これは良い型に違いない!!」
突然のアタリで親父の語りが終わって釣りに集中し始めてくれた。
(ん?結構って言うか・・・本気ででかそうだな!)
俺も自分の空間から網を出して、親父と魚のやりとりを真剣に見始めた・・・




